酒宴
今回は魔王のターン!
「ぷはー!!!うまい!!!やっぱり、銘酒と謳われるだけあるな!!!」
「そ、そうだな」
グラドの城に帰って来た俺たちは、(何かよく分からんが)祝杯を挙げていた。
最初のうちは良かった。皆が語らい、和気藹々としているのは、見ていて微笑ましいものだった。その事に関してはグラドに感謝していたのだが、未だに酒を飲んでいるのは俺とグラド、ラオル、そしてサリヴァンだけだ。サミエル、ミリア、ロウの三人は早々に眠っていた。
俺はどうやら酔いが回らない様で、一向に酔う感じがしない。ラオルは口元を覆い隠しているのに、いつの間にか酒の注いであるグラスの中身が減っている。正直、胃とか口元とかがどんな仕組みになっているのか知りたい所だ。
サリヴァンは小さなグラスに少しずつ入れているし、グラドに言われて酒を貯蔵庫から持って来ているので余り飲んでいないのだろう。だが、今も目の前で酒を飲み干そうとしているグラドは、先程からずっとサリヴァンが運んできた酒を飲んでいるのだ。
しかも、個人で飲み干した本数は7本くらいになる。現在飲んでいる酒を合わせると、8本だ。それなのにグラドは全く酔った様子を見せない。
魔王は全員、酒強いのか?それにしても、飲み過ぎじゃないか?
俺はそう思いながら自分のグラスの酒を飲んでいると、グラドは近くで横になっていたサミエルで遊び始めた。うんうんと唸るサミエルを見ながら笑うグラドに、俺は仕方なく話題を振った。
「あー……なぁ、グラド。俺って前はどんなだった?」
この話題はいつか必ず聞こうと思っていた事だった。俺が尋ねるとグラドはキョトンとした顔になる。そして、今度は笑いながら俺の横に移動してきた。
「何だなんだ!!気になるのか?」
「ま、まぁ……気にならなくは……ない」
「はっはっ!!素直じゃないなぁアヴァニール!!……そうだな、お前とは色々あったな」
先程まで、あれだけ騒いでいたグラドが急に昔を懐かしむ様な目をして語りだした。
「アヴァニールは昔からいい弟だったな。気はきくし、頭も良かった。俺と氷帝が喧嘩した時なんかは仲裁に入ってくれたりしたな……だが、結局俺たちが仲直りできないと、お前がキレて大惨事になるのが定番だった」
笑いながら思い出を語るグラドの横顔は、どこか幼さを感じさせた。
「……そうか」
「あぁ、後はあれだな。お前が14の時くらいだったか?随分と暴れ回ってたなぁ。あの時は正に、魔王の誕生といった感じだったな!!それからは俺もアヴァニールもドンドンと力をつけていって、極悪非道の限りを尽くしたのは今でも良い思い出だな!!」
「………そ、そうか」
どうやら、俺になる以前の俺はかなりヤバかったようだ。
「それから俺と氷帝とアヴァニールで魔王軍を創って……本当に最高の日々だった。そういえばアヴァニール、前に比べて性格が大分丸くなったな。記憶を失ったせいか?」
「え?あ~……多分な」
グラドに曖昧な返事で返すと、そうかと言って笑って流してくれた。グラドは意外にも、こういう相手が余り追及されるのを嫌がる話には気を使ってくれるタイプらしい。
「なぁ、もっと俺について何か知ってる事あるか?例えば……俺を殺した奴ら、とか」
本当はこの事は自分の部下に聞いた方が速いのは分かっている。だが、サミエル達のあの悲しみに満ちた表情を見るのは辛いものがあった。それに、俺が殺される所は誰も見ていない。サミエル達は城の外で戦っていたらしく、城に戻ると既に火が放たれていた後で、城は崩壊寸前だったらしい。
なので、もしかしたらグラドが何かしらの情報を持っているかもしれないという、期待が言葉に混じってしまっていた。グラドは何か悩む様な仕草をしてから、俺を見て言った。
「……すまん。大戦があった時は、俺も自分の事で手一杯だった。……お前を助ける事が、できなかった。許せ」
そう言って、グラドは俺に頭を下げた。俺はまさか謝られるとは思っていなかったので、少し戸惑ってしまう。
「いや、いいんだ。自分の領地も守らなきゃいけなかったんだし。それに、ほら!俺は今、こうして此処にいるしな!だから、お前が謝る事じゃないさ」
俺はグラドの持っていた酒瓶を貰うと、グラドの空になっていたグラスに注いだ。グラドは、そう言ってもらえると助かるな。と苦笑いを浮かべながらグラスの酒を煽る。俺は、少し暗い雰囲気になってしまった事に罪悪感を感じ、別の話題を振ろうとするが会話に上げられるようなものが何も出てこない。
だあぁ!!テンパるな俺!!平常心!!そう!!平常心だ!!!!
そう思っていると、グラドはグラスから口を放すといい事を思いついた、といった感じで俺に言った。
「そうだ。後は氷帝にでも聞いてみるか」
「……氷帝?」
その言葉に俺は、確かもう一人仲の良かった友人だったか?と思考を巡らせた。
そう言えば、話にもちょいちょい出てきてたな……
魔王軍第三席『氷帝』と呼ばれる魔王。
「あいつなら何か知っているかも知れん」
「……じゃあ、会いに行ってみるか」
「そうか、頑張れよ!」
「……へ?」
俺の背を叩いたグラドに、俺は思わず間抜けな声を出した。この時ほどラオル以外が眠っていてくれて感謝した事はない。
「ん?」
「いやいや、そこはお前が取り持ってくれるとか、ないのか?」
「俺は昔から、アイツとは反りが合わなくてな。会うと喧嘩になる」
真顔で言うグラドに、俺は溜息をついた。できれば氷帝を知っていて、今でも交流のあるグラドに来てほしい。いや、引っ張ってでも連れて行こうか、と考えていた時サリヴァンが口を挟んだ。
「グラド様。確か氷帝様との会談があったと記憶しておりますが」
「なにぃ?!アイツのは全部断れって言っておいただろ!!!」
珍しく怒鳴ったグラドに、俺は驚いて持っていたグラスを落としそうになった。そして、その声に驚いたのは俺だけではなく、サミエルとミリアもその声に驚き目を覚ました。
「な、何事ですか……」
「ふぁ……あ、あゔぁにーるさま……おはようございますぅ……」
「あぁ、おはよう。今は……俺にもよく分からん。何か急にグラドがキレた」
端的に二人に説明すると、二人は目を擦りつつグラドとサリヴァンを見た。
あれ、ロウは……寝てる。凄いな。ラオルは、無言で見てるな
「グラド様。流石にお断りしすぎますと、協定にも響きます。それにこれ以上、会談を長引かせますと氷帝様が本格的にこの領地侵略をなさるかもしれません。ですので、少しは魔王第二席という自覚の元、行動なさって下さい」
サリヴァンの(正論の)言葉を聞き、グラドはただ黙り込んでいた。能天気そうなグラドを黙らせる事が出来るのは、きっとサリヴァンくらいだろう。
「よろしいですか?グラド様」
「……仕方ない。ただし!!行くのは今回だけだぞ!!今度からはアイツをこっちに来させろ!!」
嫌々ながらも承諾したグラドは、興が醒めたからもう寝る!!と言って部屋を出て行った。サリヴァンは左様ですか。と言ってグラドを見送った後、空になった酒瓶を回収し始めた。
「……まぁ、氷帝の所に行くことになった、みたいだな。ところで、グラドは何であんなに怒ったんだ?」
俺の疑問に、サリヴァンが酒瓶を片付けながら答えた。
「グラド様と氷帝様は昔から折り合いが悪く、顔を合わせれば即喧嘩に発展。酷い時には街を半壊刺せた事もあるほどです。街を半壊させた時には、アヴァニール様にもご協力頂き、復元魔法《リストア―》と忘却魔法をかけたのでその街には被害はなかったのですが……」
もうあれはお二人の挨拶代わり、とでも言うのでしょうか。と言うサリヴァンに、サミエルとミリアも頷いていた。俺がそれを見て大変だな……と呟くと今まで眠っていたロウが突然起きた。
「はっ!あ、主!!はよございます」
「あぁ、おはよう、よく寝てたな。だがこれから俺は寝るぞ?」
「じゃあ俺も寝ます」
自信満々に言うロウは、大きな欠伸を一つした。
また新しい魔王の存在が……
次に新しい魔王のトコに行くかなぁ……というところです。




