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少年と暗殺者



「ゼノ……今日、依頼?」

「いや?今日は何もないぞ?さっきも言ったろ?お前の様子を見に来たって」

「……そう」




広い廊下に二人分の足音と、短い会話だけが響いて消えていく。ゼノンは元々口数の多い方ではないし、勿論ドルマも言葉数は少ない。しばらく無言のまま歩いていると、ゼノンが小さい扉を開け中に入っていく。



ゼノンの後ろを歩いていたドルマもゼノンの後に続き部屋に入ると、同じ部隊に所属しているメンバーが何人かのチームを組み、練習試合をしていた。




「……ゼノ、あれ、俺もやる?」

「ん?あぁ、ドルマがやりたいならやっていいぞ。あぁ、くれぐれも怪我させないようにな。殺すのもダメだぞ?」




ゼノンがドルマの頭を撫でると、ドルマは一度頷いた。ゼノンが手を放すと、直ぐに練習試合の中へと向かっていく。ゼノンはその小さな背を見送ってから、部屋の端に設置されている椅子に座った。



ドルマは一人で全員の相手をしているが、相手はドルマに触れる事すらできていない。あれでもゼノンが選んだ精鋭中の精鋭なのだが、ドルマには全く届かないのだ。その様子を笑顔で観戦していると、横に部下の一人が現れた。




「フューエル。私が居ない間、何かあったか?」

「いえ、何も問題は御座いません」

「そうか」

「……しかし、ドルマ様は本当にお強い。あれだけの精鋭を相手に一人で戦いに挑むとは」

「あの子は昔からあんな感じだ。……まぁ、昔はもっと危なっかしかったけどな」




そう言ってゼノンは、ドルマと出会った時の事を思い返す。







あれは奴隷市場から少し離れた場所にある武器屋でのことだった。




依頼も任務もなかった日、ゼノンはよく買い付けに行く武器屋に入った。特に何か作ってほしいと注文していたわけではなかったが、ゼノンは店に足を踏み入れた。店に入ると、壁一面に大小様々な武器が並んでいる。



だが、壁に掛けられている武器はどれも値が安い。きっと直ぐに刃こぼれするタイプの物ばかりだ。それとは違い、ショーケースに並べられた武器は値が張る物ばかりだ。



ゼノンはいつもの様にショーケースを端から順に見ていると、そのショーケースの横に誰かの髪の毛が映っていた。不思議に思い、ゼノンがショーケースの横に立つとそこには床に座り込む少年の姿があった。




「おい、おやじ。これは?売り物か?随分手入れがされてないみたいだけど」




ゼノンは少年を指さしながら店の店主に尋ねた。少年の姿は、腕も足もだらしなく伸ばし、背はショーケースの棚に寄りかかるように身体を預けていた。その姿は、まるで壊れて動かなくなったマリオネットのようだった。




「……あぁ、一応ね。そいつ奴隷市場で仕入れたんだけどよぅ。全然使い物にならなくてな?それ、貰ってってくんねぇか?今ならタダで良いぜ?」




店主は床に座り込む少年を見て、邪魔で仕方ねぇんだ。と忌々しそうに言った。




「ふぅん……」




ゼノンはその少年の前にしゃがみ込み、顎を上に持ち上げた。少年は無抵抗のまま、その顔をゼノンに晒した。少年の顔は泥で薄汚れ、頬がこけていたが中々に綺麗な顔立ちをしていた。



だが、虚ろな瞳には何も映ってはいない。目の前に居る自分すらこの少年の瞳には映っていないのだろうと、ゼノンは思った。その瞳はただただ暗く、冷たいものだった。




(可哀想……なんて思ったら、この子に失礼だな……)




ゼノンは左目を覆い隠す様に垂れる髪を、流れる様に耳にかけた。その時ゼノンは少年の左目に視線が止まる。少年の左目には、魔眼が備わっていたのだ。ゼノンは、まず間違いなくこの魔眼が原因だろうと考えた。



魔眼はおおむね三つの可能性が考えられる。一つ目は、遺伝子上の問題。これは両親のどちらかが魔族である事が考えられる。二つ目は、魔族か魔物の血を飲んだ時。これは人間の母親が、魔物或いは魔族の血を飲んだ(飲まされた)事が原因となる。だがこの事例は非常に稀なケースだ。三つ目は、移植。魔族或いは魔物の目を移植する事でなる。



だが、この事例は先に上げたもの二つよりも最も現実的ではない。これは、生きた魔物の目を人間に移植する事が前提にある。そして、人間への移植が成功したという例は一度も聞いた事がないのだ。なので、三つ目は文献の域なのである。




「……お前、名前は?この目は生まれつきか?」

「…………」

「……お前は誰に捨てられたんだ?」




名前を聞いたときには無反応だった少年が、ゼノンが次に投げかけた質問には目を此方に向けた。その瞳からは、先程のような空虚さは感じられなかった。少年の瞳には、暗い暗い闇の底の様な憎悪が宿っていた。




「……憎いか?」

「…………」




少年は口を開くが、乾燥しきった口からは地を這うような低い呻き声しか聞こえない。




「お前をこんなにした奴が、憎いか?」

「……ぁ…ぁ」

「……殺したいか?」




そうゼノンが尋ねると、少年は一度口を閉ざすとゆっくりと首を縦に振った。





「……じゃあ、私と一緒に来い。お前には、暗殺者の素質がありそうだ」






それがドルマとの出会いだった。



コメント募集中です!でも、豆腐メンタルなのであまり辛辣なものは……

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