獄炎王
玉座の間と呼ばれるその部屋は、俺の玉座の間(仮)よりも広い、寧ろ比べる方が間違っているが俺の目にした玉座の間はそれぐらいなので仕方がない。天井までの高さなんて、分からない位に高い。そして玉座まで敷かれた絨毯の脇には、太い柱がそれぞれ左右対称に3本ある。
俺たちはその絨毯を歩き、魔王グラド・ブレイズ・ヘイリオンの座る玉座の10m程の距離に来た。すると、俺以外の全員が膝をついた。
そっか、相手は魔王だしな……あ、これ俺もした方がいいのか……?
どうすれば良いのか迷っていると、先程俺たちを案内してくれていたサリヴァンが目に留まる。サリヴァンは既にグラドと呼んだ男の側に立っていた。
こいつが、魔王……グラド・ブレイズ・ヘイリオン……
俺は玉座に座る人物に恐怖の念を感じると同時に、心を強く揺さぶられた。魔王と感じさせる風格に、覇気のように漏れ出た魔力。それに加えて、自分たちを見据えるその赤い瞳が紅蓮の炎の様に揺らめいている。
その威圧的なモノに、誰もが恐れを感じひれ伏すのだろうと直感的に思う。だが、それを除けば目の前に居る魔王はかなり容姿がいい。もしかしたら女性かもという夢は砕かれたが、かなりイケメンの部類に入るだろう。
長く赤い髪色に、焔をそのまま宿したような瞳。そして左側だけにある長く伸びた角が更に格好いい。服装はアマン帝国で見かけた「和服」と言う物に似ている。
これが俺の親友かぁ……
そう思いながらしばらく見ていると、同じように此方を見ていたグラドが突然玉座から立ち上がり、俺の方へと歩み寄って来た。
やばい、何か降りてきた……やっぱじっくり見るのは失礼だったか?と言うか、そもそも俺が立ってるのがいけなかったのか!?
そんなことを考えていると、グラドが俺の前に立つ。身長はグラドの方が高い。と言っても15cm程だろうか。だが若干悔しい気持ちになったのは、サミエルが俺より少しだけ身長の高い事を知った時以来だ。
「…………」
無言のまま俺を見るグラドは、怖いくらいに眉間にシワを作っていた。そんな状況なので気軽に話しかける事も出来ず固まっていると、突然俺の肩にグラドがポンと手を置いた。
「アヴァニール!!久しぶりだな!!お前が死んでたこの100年間退屈で退屈で仕方なかったんだ!!何か記憶があんまり無いとか聞いたが、安心しろ!!俺の事は昔の通り、兄貴と呼んでくれ!!」
そう言って俺の左肩をバシバシと叩きながら言うグラドの頭に何かが刺さる音がした。
グラドがその頭に刺さった物を取ると、その手に握られているのは刃物だった。投的ナイフと言うのが一番しっくりくるそれを見て、グラドは後ろに居たサリヴァンに話しかける。その時グラドの頭部を見たが、特に目立った傷はなかった。
「おいサリヴァン!!当たったのが俺だからいいものの、せっかく来てくれた友人に当たったらどうする!!」
「大丈夫です、俺の投げナイフの腕は一流ですし。それもこれも、いつも練習台になって下さる主のおかげです。それに、グラド様はこのような小さな事で腹を立てたりしないでしょう?」
そう言いながら既に次に投げるナイフを手に持ちながら言うサリヴァンに、グラドはそうだろう!そうだろう!と何故か自慢げに頷いていた。
「まぁ俺は心が寛大だからな!!許してやろう!!それに部下の鍛錬にも付き合ってやる程、部下思いでもあるからな!!」
その言葉にサリヴァンが、わぁ流石グラド様です。と棒読みな事を隠しもせずに言っていたが、グラドはその台詞に満足そうな表情を見せた。
「えっと………」
「おぉ!悪い!今のですっかり忘れてたぞ!で、何の話だったか。あぁ!そうだ!!また昔のように人間の街に出向くか!そしたらアイツも一応は誘わんとだな……」
「いや、その前にだな」
「なんだ!?やっぱり俺が居ないとダメなのか!!仕方がない!!俺も一緒に行くとするか!!」
「いやそうじゃなくて!!」
「ん?何だ?お前一人で行くのか?俺をもっと頼ってくれていいんだぞ!!アヴァニール!!」
「……はぁ」
俺が既に話す気が失せているというのに、グラドは楽しそうに声を上げて笑っていた。それを見た俺は、ミリアが何故苦手だと言っていたのか今なら分かる。
魔王軍第二席、グラド・ブレイズ・ヘイリオンは超絶面倒な奴だった。
「……よし!!移動しよう!!此処の部屋はどうにも息が詰まる!!」
「あ、あぁ……」
一方的に会話を成立させるグラドに俺は圧倒され、辛うじて言葉が出るくらいだ。そんな状況を見かねたのか、サリヴァンが玉座の間から出て行くグラドを見ながら俺に話しかけてきた。
「申し訳ありませんアヴァニール様。グラド様は昔から自己中心的で暑苦しい所がありますが、昔からですのであまりお気になさらないで下さい。それと、アヴァニール様は昔からグラド様の事はお名前でお呼びでしたので、あの妄言はお忘れください」
中々辛辣な台詞だが、サリヴァンが敬語を使っている所を見ると一応尊敬はしているのだろう。俺はその言葉に素直に有難うと返した。すると、先程出て行ったグラドが扉から顔だけを出していた。
「おーい、来ないのかー?」
「そう急かさないで下さいグラド様。また頭に刺しますよ?」
「はっはっ、今度は当たらないぞー!!」
意外とグラドのこと尊敬してるし、しっかりしてるし……いい部下だなぁ……
そう思った俺は、サミエルたちを引き連れてサリヴァンの後をついて行った。
玉座の間を出てから俺たちは応接間の部屋に通されることになった。最初はグラドが自分の自室で話そうと言っていたのだが、サリヴァンが一応部屋の確認をしたところ、使用不可との言い渡しを受けたので(グラドが)仕方なく応接間に通した、という一件があってから今に至る。
サリヴァンがこの地でしか芽を出さないという葉を自家ブレンドした紅茶を俺たちに振る舞ってくれた。さっぱりとした口当たりの紅茶は、来る前に暑がっていたミリアやロウにはとても好評だった。その紅茶を堪能した後、ミリアがグラドにお土産を渡す。早速受け渡した袋を破き始めたグラドを見ながら、俺は苦笑いをした。
後で開ければいいのに……でも、そういえば俺もミリアが土産に何選んだのか聞いてないし、いいか
俺がサリヴァンにまた淹れてもらった紅茶を飲みながら見ていると、グラドがおぉ!!!と嬉しそうな声を上げた。
「こ、これは!!!幻の銘酒『慈泉酔』じゃないか!!!いやー、いい酒持ってきてくれたんだな!!」
「ま、まぁな。それは俺の部下のミリアが選んでくれたんだ」
俺がそう言うと、グラドはそうかそうか!!と言いながら酒をサリヴァンに渡し、冷やしておいてくれと命令した。サリヴァンは酒を受け取ると、応接間を後にした。すると突然、グラドは俺に話を持ち出してきた。
「さて、アヴァニール。来てもらって悪いんだが、一つ頼まれてくれないか?」
グラドは紅茶のカップをまるで酒を飲むようにして使いながら言った。
「頼み?……内容によるな」
「実はな?近頃この俺の領土に、ある魔獣が居着いたみたいでな。それを何とかして欲しいんだ」
飲み終わった紅茶のカップの中に、これまた酒をつぎ足すかのような淹れ方をするグラドに、俺は首を傾げた。
「お前、第二席だろ?その魔獣なんて直ぐに倒せるんじゃないのか?」
「あー……なんというか……そう!ソイツと俺は相性的な問題で合わないやつでな……此処は兄貴を助けると思って!!頼む!!」
そう言って頭を下げるグラドに、俺は悩んだ。此処でグラドに借りを作る方が、この後自分の利益になっていくのか……そう頭を悩ませていると、グラドが甘い誘惑を仕掛けてきた。
「やってくれるなら、資金の援助なんかもしてやれるぞ?なんせ俺は兄貴だからな」
そう言うグラドは、俺に微笑んで見せる。俺は完全に足元を見られている、そう思うと自然とこれは請け負わざる得なくなった。
「……分かったよ。まぁ、そろそろペットも欲しいと思っていたしな……」
「そうか!聞いてくれるか!!お前は本当に昔から兄想いのいい弟だなー!!!」
そう言って向かい側に座っていたグラドが、身を乗り出して俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。すると、それを俺の両脇で見ていたサミエルとミリアが『アヴァニール様の御髪が!!』とでも言いたそうな顔で此方を見ていた。




