会議
魔王達はお家でお休み中。
「…………」
薄暗い廊下に杖をつく音と布の擦れる音が響く。バナードはある場所へと向かっていた。そこは普段なら絶対に使われない場所、一握りの者にしか入れない地下に作られた評議室。
正直、バナードは評議会を開くことに気は進まなかった。だが、この間の件と姫についての話は重役たちの耳に入れておく必要があるので、仕方なく地下に足を運んでいるのだった。
「……」
地下の一番奥、そこには装飾が施された扉がある。だがその装飾も手入れが施されていない為か所々剥げ、地下の湿気で鈍い色を光らせている。この扉に着く前も思っていたが、道に着けられたランプは蜘蛛の巣が張っていてとても清潔とは言い難いものだった。
バナードはそんな扉を見つめて溜息をついてから手をかける。力を籠めると意外にもその鈍色の扉はゆっくりと開いていく。そして一人分通れるくらいに開け、身体を部屋の中に滑り込ませた。
部屋に入るとぼんやりとした灯りに目を細め、中を見るとまず最初に目につくのが丸いテーブルだ。そして、そのテーブルを囲むようにして各部隊のトップ達が席についていた。
「バナード様、ご足労戴き感謝いたします」
この評議会を取り締まる王家直轄部隊、総司令官アイデイン・メディクは、深々と頭を下げた。紫銀色の髪はストレートで、前のサイドが少し長めの髪形にしている。雰囲気だけで見ればかなり優男に見える。
「良い良い。それより会議を始めようではないか」
バナードが席に着くと、直ぐに野次が飛んできた。
「ジジィの癖にメディク様に偉そうな口聞いてんじゃねぇよ……しかも変な面しやがって、ふざけてんのか」
それはアイデインの一つ隣の席に着く王家直轄部隊第一部隊のリーダー、テオ・ジンガだ。彼は薄橙色の髪に少しだけ黒いメッシュが入っている。その髪は右の前髪を長く垂らし、左は黒い髪留めで後ろの方に搔き上げている。また両耳や首にアクセサリーを付け、右目の下には雫型の三点入れ墨を施している。
バナードはその様子に少しだけ眉を動かすが、直ぐにアイデインがテオに声をかけた。
「テオ!!バナード様に失礼だぞ!!お前だって理由は知っているだろう。……申し訳ありませんバナード様。先の発言、何卒お許しください」
アイデインはそう言ってバナードに頭を下げる。一方、アイデインに怒られたテオは渋々と言った形で口を閉じるが、何か言いたそうな顔をしてバナードを見つめている。まるで、自分が怒られたのはお前のせいだとでも言いたげな目だった。
「ねぇーえ、そんなのどーでもいいからさぁ。さっさと会議始めようよぉ」
その騒がしい中、次に口を開いたのはバナードが入って来た時からずっと爪を磨いていた王家直轄第二部隊のセルス・ドールだ。ふんわりと広がる毛先が翡翠色の長い髪を左側に纏め、毛先は緩く巻いている。そのセルスの言葉に、アイデインは頷き早速議題をあげた。
「では、これより会議を始める。まず、先日起こった件について話合おう。我々の同胞、王家直轄第三班が魔族に全滅した件だが……」
「あぁそれー。私も興味あるのよぇ。その魔族って一体何者なの?別にあいつが死んだことはどぉでもいいんだけどぉ、選りすぐりが全員殺されちゃったって聞いたんだけど?」
そうセルスが言うと、アイデインが渋い表情を見せた。当然そこはセルスだけでなく、此処に居る全員が思っている事だ。だが、今はその魔族に関しての情報が無い状態だ。そこで憶測で物事を決めても仕方ない事であるとアイデインは分かっているので、渋い顔をしたのだ。
「残念だが……魔族に関しての情報は未だに上がってきていない……。バナード様は何か分かりましたか?」
「ふむ、残念だが此方もまだ来なくてな。だが奴隷狩りに行く前、ナハロがお気に入り達を連れて行くのは見たぞ」
「はっ!!!まぁアイツはその程度だったってだけの話だろ?」
テオはそう笑いながら言うが、それはあながち間違った台詞とも言えないので、バナードもアイデインも何か言うことはできなかった。王家直轄部隊、第一部隊から第三部隊とは階級を示している。なので、一番下の第三部隊が一番弱いという事は分かっているのだが、第三部隊はこの三つの部隊の中では一番「数」と言う項目に関してはずば抜けていたのだ。そしてそれを気がかりに思っているのは、テオ以外全員だ。
「……兎に角、その魔族を早急に探す事だな」
「はいはーい、それ私にやらせてぇ?ちゃあんと調査してあげる~」
「分かった。では魔族の件はセルス、お前に任せるとしよう」
アイデインが言うと、セルスはやったぁ~と言って軽く手を叩いた。
「次に、姫の件についてだが……コレは俺の偵察機がいつも通り王子の姿を捉えて噂の真偽を確かめようとしていたのだが、王子がアマン帝国に入って少しした頃、何者かによって偵察機全てが破壊された」
アイデインが言うと、それを聞いていたセルスとテオが一瞬真剣な表情をした。それを見ていたバナードは、この二人が一応優秀で忠実な兵である事を思い出す。
「偵察機全部って幾つ飛ばしてたんですか?」
「大体16機くらいだな」
「それを全部ですかぁ?それ人間じゃあないですね~」
「あぁ、しかもそれ全てが同時に壊された」
最後に言ったアイデインの言葉に、席についていた者全員が驚きの声を上げた。
「ちょ、それ本当ですかぁ!?本当に、全部同時に壊してあるんですかぁ!?」
「あぁ、同じところで全ての映像が止まっているから間違いない」
「……面白れぇじゃん。メディク様、その件俺に任せて下さい」
そう言って立ち上がるテオに、アイデインは唸り声を上げた。きっとテオにこの件は危険だと思ったのだろう。そんなアイデインを見かねたバナードは、助け船を出してやった。
「若造には、ちと危うい任務……アイデイン、君がやりなさい」
バナードがそう指示を出すと、テオがバナードに何だと!?と怒りを露わにするが、アイデインは深く頷いて見せた。
「そうですね。この件はまだ俺が見ておこう。その代り、テオにはセルスの補佐をしてもらう」
そうアイデインが告げると、テオはつまらなそうにしてまた椅子に座った。
「では、今日の会議はこれにて……」
アイデインが会議を終わらせようとした時、突然閉まっていた扉が開いた。そこには一人の人物が立っているのが見える。その人物は部屋に入り、唯一空いていたアイデインの横の椅子に腰かけるとそれと同時に空いていた扉がバタン!と音を立てて閉まった。
「すまない、遅くなった」
「大丈夫です、ゼノンさん。寧ろ貴方のような忙しい方に来て頂けて有り難いです」
そう言って笑顔で話すアイデインの隣に座ったゼノンと呼ばれた女性。彼女は普通では知られていない秘密の部隊、第零部隊のリーダー、ゼノン・ネフェラルだ。
王家直轄の影部隊として結成された第零部隊は、表向きには存在しない。通称『影無者』と呼ばれる第零部隊は、暗殺に特化した部隊である。そのリーダーであるゼノン・ネフェラルは、齢16にして最高の暗殺者と呼ばれていた。
「……依頼は?」
「今の所は御座いません」
「……そう。じゃあ帰って寝るから……お休み」
そう言って先程来たばかりだというのに、ゼノンは席を立つと扉から出て行った。
「……け、本当ムカつくアマだぜ」
「仕方ないわよぉ。あの子、暗殺の腕は一番なんだしぃ」
「うるせー!!んな事は分かってんだよ!!」
テオはゼノンに勝手に対抗心を燃やしているようで、一々喚き立てていた。
「テオは落ち着きなさい。さて、これにて会議は終了する。これに異論のある者は、発言を許可する」
アイデインの硬い挨拶に誰も手を挙げる者はいなかった。
「……いないな。では、これにて会議は終了とする」
(しきたりを重んじるのは良い事だが……アイデインは堅苦しすぎるな)
バナードは先程終わった会議での話を思い出す。16機も飛んでいた偵察機、それを一辺に片付けるのはかなりの腕がなければできない事だ。しかも、その偵察機は全て空中で壊されていたと言う話もあったので、破壊した相手は空を飛べる、或いはかなりの跳躍力を持つ者が考えられる。
「亜人種か、はたまた魔族か……」
バナードは肩を揺らしながら笑い、自室へと向かう廊下を歩いて行った。
次はとうとう二人目の魔王が……?




