遭遇
城下では左右に違う露店が並び、多くの人や亜人で賑わっていた。その露店の中でも多いのは飲食関係の露店だった。まだ見た事もない食べ物や、美味しそうな匂いのする中を、俺たち三人は歩いていく。
あれは、何だ?緑色してるな……食えるのか?あっちは、貝……か?お、何かまともそうなとこもあるな
その品々の味を想像しながら歩いていると、前を歩いていたミリアが突然此方です。と言って左に曲がった。ミリアの後に続くと、そこは狭い路地になっていた。
「此処を通るのか……」
「ご安心ください。陛下の後ろは私がお守りいたしますので」
そう言って俺の後ろに続いていたサミエルが言う。
お前だと余計に不安だ……なんて言ったら喜ぶか
口にしかけたその言葉を噛みしめると、俺は先を行くミリアの後に続いた。真っ直ぐに伸びる路地は先程までの喧騒を疑うほど静かだ。ミリアの後ろ姿を見ながら歩いていると、段々と路地の先が見えてくる。その先からは、また騒がしい声が聞こえてきた。路地を抜けると、先程と同じように道脇に露店が沢山並んでいる。ただ違うのは、その多くが亜人である事だ。
「こっちは亜人が多いんだな……」
「はい。此方は闇市。多くの亜人達が商売をしている所です。此方の方が、魔具の種類も豊富ですし何より顔が利くのです」
値段交渉する気満々のミリアは、目の前に広がる市場に目を輝かせていた。
「じゃあミリア。買い物が終わったらここでまた合流な。それまでは各自別行動って事で」
そう言って、俺たちは別行動する事になった。
のだが
「サミエル、お前は何で俺について来るんだ?」
「陛下お一人では危ないですから」
良い返事をしてくるサミエルの顔には、絶対一人にさせない。と書いてあるかのようだった。
……振り切るか
俺はそう考えると、突如走り出す。不意打ちを食らったサミエルは、お待ちください!と叫びながら俺を追いかける。だが俺はその呼びかけを無視して走り、路地に隠れた。
「………」
息をひそめ、路地から少しだけ顔を出すとそこにサミエルの姿はなかった。
「……よしっ!!撒いた!!」
俺は安堵して路地を歩き出すと、路地を奥へと突き進む。そして路地を出たその時。
「きゃっ!!!!!」
「うぉっ!?」
鎧を着た人とぶつかってしまった。俺の方は後ろに少しよろける程度だったが、相手は完全に尻餅をつきそうになっていた。俺はそこから何とか手を伸ばし、その腰を抱きかかえる事で地面に接触することを何とか食い止めた。その時、一瞬だけその鎧の人と目が合った。綺麗なブルーの瞳と、顔は整っているが完全に男だった。
「わ、悪い。前を見ていなかった。怪我はないか?」
「あ、あぁ大丈夫だ。此方こそ、前方不注意だった。許してくれ」
そう男が何か恥ずかしそうに言うのを見て、俺は首を傾げる。
何で恥ずかしそうなんだ?……あ、そうか。この体勢か
男が男に支えられていることが恥ずかしいのだろうと思った俺は、直ぐに男の腰から手を放す。すると男は一度咳払いをしてから軽くお辞儀をした。
「すまない。本当は君にお礼をすべきなのだが、急いでいるのでまた、機会があれば……」
そう言って男は、俺の出てきた路地へと歩いて行った。
「……何か、サミエルに似てるなアイツ」
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「…………」
アリシアは、先程ぶつかった時の事を思い出した。突然現れた男に激突した挙句、変身している王子に似つかわしくない声を上げ、地面に尻を打ち付ける所を助けてもらったのだ。正直、顔から火が出るのではないかと思う位恥ずかしい体験だった。
「……---ッ!!!!」
アリシアは思わず路地の壁に両手をバン!!と叩きつけた。
「一生の不覚!!ちゃんと確認しておくべきだった!!あー!!恥ずかしいぃぃぃ!!!」
バンバンと両手で壁を叩きつけた後、髪をぐしゃぐしゃにして叫んだ。そして数分後、少し落ち着きを取り戻したアリシアは、先程の男の特徴を思い出す。一瞬だったのでよくは覚えていないが、男の顔はかなり整っていた様に見えた。
そして何より印象的だったのが、男のオレンジ色の瞳だった。オレンジ色の瞳をした者はそうはいない。人間の中でも亜人種の中でも稀な色だと、宮廷付きの講師が言っていた。その温かい瞳を思い出すと自然とため息が出た。
「……素敵な、人だった」
思わず声に出た台詞を、アリシアは頭を左右に振る事で紛らわせた。そして、その男が着ていた服を思い出す。あれは完全に旅人が着る衣服だったのを思い出した。きっとこの王国には食料の買い付けや魔具などを買いに来たのかもしれない、と考えていると一つ大切な事を思い出す。
「しまった!!名前を聞くのを忘れた!!」
アリシアは急いで来た道を戻ったが、先程の男の姿はもう見えなくなっていた。
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「……よく見つけられたな」
「はい。上空からお探ししましたので」
鎧の男と別れた後、露店でも見て回ろうと歩き出した俺の目の前に、笑顔で立つサミエルが居た。と言う事で、俺は今サミエルの後ろを歩いていた。だが、周りはその笑顔に騙されても俺はサミエルの笑顔の裏が手に取るように分かる。あの笑顔は完全に怒っている。
「サミエル、俺が悪かったから……そんなに怒るなって」
「怒るなどと滅相もない。私はアヴァニール様の忠実な犬……いえ、駄犬なのですよ?そんなものが主人である方に説教などと、恐れ多いです。……腹に据えかねていますのは、先程陛下にぶつかった輩です」
そう言って微笑むサミエルが、黒いオーラを放って見えるのはきっとこの闇市で俺だけだろう。
「あー、あれか。あれは俺も前見てなかったから仕方ない」
「ですがっ!!私は許せません!!あぁ……今すぐにでも、あの輩のはらわたを引き摺り出してしまいたい……」
物騒な事を言い始めたサミエルの後ろから、全力疾走してくるミリアの姿が見え俺は無言でサミエルの前からズレた。すると、ミリアが跳躍してサミエルの背中に蹴りをいれた。かなり助走をつけていたせいで、サミエルは2~3m吹っ飛んだ。
「ちょっとキモエル!!あんた今まで何処に居たのよ!!荷物持ちの仕事サボって!!おかげで私が全部持つ羽目になったでしょ!?」
ミリアは両手に下げた袋を2,3個サミエルの上に容赦なく落とすと、サミエルはぐっう!!とうめき声を上げた。
「ミリア、お疲れ様。いい買い物はできたか?」
「あ、はい。見て下さい!!この魔具!!半額まで値切りました!!」
そう言って大きめな魔具を取り出して瞳を輝かせるミリアは、歳相応に見えとても可愛らしかった。
「おー良かったなー。よしよし」
「えへへ……」
俺がまたミリアの頭を撫でていると、いつの間にか復活したサミエルがその間に割って入ってくる。
「……陛下!!」
「え、はい」
「……その、私も……陛下に頭を撫でて頂きたいです……」
そう恥ずかしそうに言うサミエルは、指をしきりに弄りながら俺に言う。その姿に珍しいなと思った俺は、何気なくサミエルの頭に手を置き撫でてやった。すると、サミエルは目を輝かせてから嬉しそうな、幸せそうな、そんな表情を見せた。
「……なんだお前。そういう顔もできるんじゃないか」
頭を撫でながら俺が少し微笑んで見せると、サミエルは驚きつつもはいっ!!と声を上げた。
「うーー……陛下!!私ももっと撫でて下さい!!」
「はいはい。て言うか、買うもん買ったんだから帰ろうな。明日は獄炎王に会いに行くんだからな。早めに準備をしておくぞ」
俺がそう言うと、頭を撫でられた二人は元気よく返事をした。




