第一側近との対面
「此方です」
アルファ小隊長に連れられてきたのは、拠点の家の中の少し手狭な部屋だった。俺とサミエル、ミリア、ロウ、アルファの5人とその後に続いていた身体の大きな者二人が入るだけで圧迫感が凄い。それを分かっている部下たちとアルファは直ぐに部屋を出て行った。
「……で?誰もいないようだが」
4人だけになった部屋で俺が呟くと、サミエルが大変ご立腹な様子で誰に言うでもなくおい、と声をかける。
「早く出て来いラオル。でないとお前をこの部屋ごと切り裂く」
そう言って腰に下げていた鞭をとるサミエルに、俺がおいと頭にチョップを食らわせた。
「何でお前は誰に対しても喧嘩腰なんだ。大体、仲間を脅すな。おいラオル、居るなら出てきてくれるか?話が進まん」
俺が口にすると、突然柱の影が揺らめきそこから人が現れた。鮮やかな紅い髪に右半分と口元を覆う布がまず目にとまる。瞳は金色に輝いていたが、柱の影のせいでその美しさは半減していた。服は黒一色で落ち着きがあり、見た目は諜報部隊といった感じだが、その人物は赤毛がかなり目立っていた。
「ラオルか?」
このままお互い黙ったままでは意味がないので、まずは俺から話しかける。すると、赤毛の人物は静かに首を縦に振った。
「そうか。実は今、記憶がほとんどない。お前にも迷惑かけると思うが、よろしくな」
俺はそう言って笑って見せるが、ラオルは俺を静かに見据え動こうとしない。それどころか、喋らない。正直そっちの方が俺にはキツイものがあった。
……口を聞いてもらえないレベルで拒否られているのか、それとも話についていけてないのか……後者であって欲しいけども……
俺が不安な気持ちになっていると、突然ラオルが音もなく目の前に現れると何の前振りもなく跪いた。
「……え、え?どうした?」
俺は当然戸惑うが、跪いているラオルからは何か言葉が返ってくる様子はない。俺が狼狽えていると、隣に居たサミエルは今にもブツリとキレてしまいそうな表情に青筋を立てながら俺に言った。
「申し訳ありませんアヴァニール様。ラオルは喋る事が得意ではないので、通常会話は精神感応をご詠唱願います」
サミエルの理由を聞いて、ラオルに嫌われていないというのが分かったので俺は胸を撫で下ろした。そして直ぐに魔法を展開させた。精神感応は後々必要となってくる魔法なので、帰ってくる途中サミエル達と練習し、最初謎のノイズが入ったりしていたのが、今はかなり綺麗に聞き取れるようになっていた。
『アヴァニール様。貴方様に再びお仕え出来ます事、嬉しく思います』
穏やかな低い声が頭の中に直接聞こえてくる。最初はこの直接聞こえていることに違和感があったが、練習のおかげか大分違和感が薄れているように感じた。
『こっちこそよろしくな。それで、俺はさっき言った通り記憶があまりなくてな……少しずつは思い出しているんだが……』
『はい。その事はミリアから聞きました』
『ミリア?サミエルじゃなかったのか』
『はい。何故かサミエルは、昔から俺を嫌っているようでして……アヴァニール様はどうぞお気になさらず』
確かに、サミエルはこの部屋に来てからと言うもの、不機嫌な様子を隠しもせず横に立っていた。何故サミエルがラオルを嫌っているのかは分からないが、ラオルが気にしていないならそこを態々聞く必要もないだろうと思い(ぶっちゃけ面倒だったので)考えるのを止めた。
『あの、アヴァニール様』
『ん?なんだ?』
『実は、魔王軍第二席「獄炎王」様がアヴァニール様にお会いしたいと仰っていました』
『……ん?誰?』
『魔王軍第二席、「獄炎王」の二つ名を持つ、グラド・ブレイズ・ヘイリオン様です』
その名前を聞いた途端、俺はそう言えばそんな名前の奴いたな!と言いそうになったが出る前に何とか堪える。
『へぇ、はいはい。あの魔王軍二席のねぇ。……確か、俺の友達?だっけ』
『はい。グラド様ともう一方、「氷帝」様は親交の深かった方々です』
『そうか……て言うか、何で俺が復活した事知ってんの?』
『魔王様は皆、魔力感知器官が非常に優れた方々が多いので、それでお気づきになられたのかもしれません』
ラオルの説明を聞きながらやっぱ魔王最強だなと思い、その「獄炎王」を想像してみた。前にサミエルから魔王達について軽くレクチャーをされた時、外見も一応聞いてはいたのだ。
確か、長い赤髪で……緋色?の目に、右から生えた角……それと紅い服、だったかな……うーん、長い髪だし、女性と言う事も考えられるか……
俺が一人で想像もとい、妄想をしているとラオルが如何いたしますか?と尋ねてきた。
まぁでも、この世界に来て魔王にまだ一人も会ってないのはマズいか……
魔王はこの世界で唯一無二の存在であり、頂点だ。そのうちの一人だけでも会っておけば、その後に他の魔王に会うのはかなり楽になるかも知れない。それに現魔王達との繋がりも強化しておかなければならない事を考えると、会う必要があるのだった。
『……では、明後日に土産を持って行くとしよう。向こうにもそう伝えておいてくれ』
『畏まりました』
そう告げたラオルは、俺の目の前から瞬時に消えた。退屈そうにしていたミリアは、終わりましたか?と少し嬉しそうに尋ねてくる。一方サミエルは今だ機嫌が悪い様だった。
「あぁ、終わったよ。あ、あと明後日グラドさん?に会いに行くから、お土産何がいいか考えておいてくれ」
そう言って俺が窓際にもたれ掛かると、ミリアとサミエルと部屋の隅で佇んでいたロウの三人で『明後日!?』と声を上げた。俺は三人が慌てているのを見た後(ロウは震えてるけども)、外を照らす明かりを見る。暗い夜空にはぼんやりと光る大きな月……のようなものが浮かんでいた。
「……赤い月って……何か不安だな」
俺は笑いながら言う。その大きな月のようなものは赤く、美しく揺らめき輝いていた。
やっと魔王軍の一人に会えるかなぁ




