新たな動き
「……で、報告はそれだけか?」
広々とした薄暗い空間に、くぐもった低い声が響いた。
「は、はい。以上となります」
「……まさか、王家直属第三班が皆殺しとは……何とも情けない話だ……」
低い声の人物が動くと、それに合わせてコツコツと何か床にあたる音が聞こえてくるのは杖の音だ。報告をしに来た兵士は、その音を聞く度魂が削られていくような感覚になった。
「あぁ、王子になんと申し上げればよいのか……」
「で、ですが……第三班以外は役目を果たし戻ってきて……」
兵士が言葉を発するとガツン!!と床に杖を強くついた音が広い部屋に響いた。その音だけで兵士は身を固くする。
「……そういう事ではないのだよ。その魔族達は、王子の顔に泥を塗った。その事実は決して許される事ではない。……これがどういう意味か、分かるかね?」
威圧的なその声に兵士は俯き、震える声で口にする。
「その、魔族を……見つけ出し、討ち取る……と言う事でしょう、か」
顔を上げると、いつの間にか目の前に頬のこけた老人が現れた。その見開かれた目の周りは、焼け爛れた痕がはっきりと残っている。その顔を見て、兵士は悲鳴を上げそうになるが自らの爪を掌に食い込ませる事でぐっと堪えた。
「ほう、この顔を見て声を上げないか……もうよい。行け」
杖をつきながら離れていく老人の後ろ姿に兵士は安堵し、挨拶をしてから後ろを向いて部屋を出て行った。
(困ったのう……王子のお耳に入れる前になんとしても、その魔族を捕らえねば……)
老人が杖を二回叩くと、柱の陰から揺らめく人型が現れた。
「先程話していた魔族を探せ。生け捕りが望ましいが、最悪殺してでも連れてこい」
そう老人が呟くと、揺らめく影がまた柱に消える。
その姿を確認した後、先程とは違う兵士が部屋にやって来た。
「バナード様。王子がお呼びです」
「やれやれ、今回はどんな余興を思いついたのやら……」
バナードは部屋を出る前に仮面を被ると、杖をつきながら部屋を出た。
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「やっと帰って来れたな……」
俺はその言葉を出すのがやっとだった。俺が何故そんなにも疲労困憊なのか、その理由は単純明快だ。
帰る途中引き連れていた三人が喧嘩するわ、暴れだすわで俺の労力を根こそぎ奪われたせいだ。特にサミエルとミリアの喧嘩(と言うか小競り合い?)が絶え間なく続き、仲裁に入っていた俺も流石に限界がきた。いい加減にしないと一週間二人で拠点の清掃な、と言い渡すとそんなに二人で居るのが嫌なのか清掃が嫌なのか分からないが、やっとお互いに口を閉ざしたのだった。
本当、この二人は仲良いのか悪いのか……
道を歩いていると、段々と集落が見え始める。一日居なかっただけで、何故か懐かしく感じてしまっていた。
おぉ、集落の入口……ん?あれ?
ボロボロの見た目だった入口は、真新しい木へと変わって装飾も施されていた。その入口を潜ると、今度は中の様子に驚いた。新しい木で作り出さされた家々がたいまつの灯りに照らし出されていた。そのすっかり見違えた集落に驚いていると、横からミリアが顔を出した。
「わぁ、綺麗になってる。……もしかしたら、ラオルが帰って来たのかも知れないです」
ミリアが建て直された家に感心している横で、サミエルが嬉しくなさそうな声でそれはそれは……と呟いた。
「ラオルって、第一側近だよな?」
「はい。ラオルは確かそこの変態の命令で、第二魔王である獄炎王の所に行っていた筈です」
「小娘、今なんて言いました?」
そう言いながら歩いていると、小隊長であるアルファが此方を見た瞬間駆け寄って来た。
「陛下、サミエル様、ミリア様、お帰りなさいませ。先程、ラオル様がお帰りになられて拠点にて、お話がしたいとの事でした」
アルファがお辞儀をしながらそう言うと、拠点を見つめる。アルファを見ていた俺も、つられて拠点を見た。
ラオルか……どんな奴なんだ?
俺は変な奴じゃありませんようにと願いながら、拠点に向かって歩き出した。




