表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

9.僕を見つめてくれますように

「やれやれですねえ。わたしの下駄箱とポストを間違えるなんて」

「ん?」


 自分の下駄箱を開けたまま動作を止め、あきれたようにイヴが言う。

 中から何かを取り出す。手紙みたいだった。おもむろに封が開けられる。


「これはどういう意味なんでしょうか。海さんの意見をあおぎたいです」

「どれ」


 横から覗き込む。こんな文章が書かれていた。


『今日の放課後、二階の会議室で待っています』

(ラブレターだ!!)


 衝撃だった。なぜイヴに。転校生ゆえか。それとも見た目はいいからか。田中さんだからか。


「捨てちゃっていいでしょうか? ポストと間違えるなんて、この差出人はおばかさんです」

「おばかさんはお前だよ。ラブレターくらいは知ってるだろ」

「え、あ、え」


 手紙と俺を何度も交互に見るイヴ。


「も、もちろんらぶれたぁの情報はインプット済みです。ほほうなるほどまさかわたしにー」

「絶対知らなかったろ」


 分かりやすい反応だった。しかし実際いかがなのか。内心は喜んでたりするんだろうか。


「どうするんだ」

「と、言いますと」

「いや、差出人が待ってるだろ。向かわなくていいのか?」

「あーえと、んーと」


 また俺と手紙を見比べるイヴ。きっと断るつもりだろう。本質はアンドロイドだから。


「まぁ、行きます」

「行くの!?」

「どうしたんですか?」

「ああ、いや」


 無関心を装う。まさかの返答。そりゃまあイヴの自由だけど、なんだろう、胸の辺りがもやもやと。


「海さんは帰っててください。あっ、冷蔵庫の抹茶プリンは食べたらだめですからね」

「わ、分かってるよ」

「では、あばよー」


 イヴは平然と会議室に向かっていった。まごつきながら後ろ姿を見送る。


(……ううむ)


 落ち着かん。ラブレターが来るとか。つか行くのかよ。いつもみたく家でだらだらしとけよ。


「あれ? 海くん。ひとりでなにしてるの?」


 振り返る。セラ君がいた。帰る途中だったんだろう。いいところに。


「セラ君か。事件だ」

「え?」


 言わずにはいられない。分かち合う仲間がほしいから。ざっと手短に説明し終えた。


「す、すごいね。たしかにイヴお姉ちゃんってかわいいもんね」

「そこはさておきだ。これから暇してるか?」

「え。うん。帰ってのんびりしようかなって」


 なるほどつまりは暇なわけだ。セラ君を無造作にお姫様抱っこ。


「わあっ海くん!?」

「イヴの様子を見に行こう。なにせあの性格だ。相手様に失礼があったらだめだからな」

「え、い、いいけどなんで僕まで!?」


 だって一人で後を追うなんて恋してるみたいで恥ずかしいし。

 急ぎ足で会議室前に着いた。かすかに戸を開けて中を盗見。イヴと男子生徒が向き合ってた。


「よく見えねえな……どけてくれ男子生徒。いやむしろ立ち去れ」

「い、いいのかなこんなことして。イヴお姉ちゃんの問題なのに」

「心配なし。セラ君は気にならないのか?」

「そ、それはその……興味はあるけど」


 正直でいい。でも俺の後ろにいるだけで覗く気はないらしい。

 イヴの表情が確認できた。なにやら社交的な笑顔。会話もはずんでる。どうも男子生徒は喋るのが上手いようだ。


「……ちっ」

「舌打ち!? どうしたの海くん大丈夫!?」

「ああ、すまんつい」


 だめだ。どうも口達者なやつには殺意が。セラ君もいるしそろそろ撤収しとこうか。

 などと思う中で会話が終わった。イヴと男子生徒が出口に向かってくる。


(終わったか!)


 素早くセラ君を抱きかかえて駆けた。会議室から出てくる二人。角から様子をうかがう俺。

 男子生徒はイヴと並んで歩いてる。いつもの俺の位置に立つとは。おのれ新参者の分際で。


(出かけるのか?)


 疑問は振り返ったイヴが晴らしてくれた。目が合う。ぱくぱくと口だけが動かされる。


『たまには面白そうなので行ってきます』


 たぶんこう言っていた。イヴと男子生徒が離れていく。これ以上の介入はやめておこう。


「……仕方ねえか」


 イヴとは一緒に暮らしているだけ。特別な関係じゃない。今の俺に邪魔する権利なんか。


「セラ君」

「なに?」

「抹茶プリン好きか?」

「うん。おいしいよね」

「よしよし。ならうちに遊びに行こうか」


 だから、細やかな嫌がらせをしてやろう。付き合わせたおわびにセラ君にごちそうしよう。

 なんか今日は、心が乱れる放課後。たまにはそんな時もある。原因とかは、ぼやけたまま。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ