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45.聞こえる鼓動がおんなじで

「ねえイヴちゃん。この数学の式って分かる?」

「ええはいそれはなんたらかんたらで」

「あの、イヴお姉ちゃん。歴史の問題について聞きたいんだけど」

「あーそれはほにゃららぴーちくぱーちくが」


 ただいま俺の家で宿題中。イヴは先生的ポジションでセラ君と友香から頼られていた。

 かたや俺は自力で解いている。イヴを頼るなんてプライドが許さん。


「うぐぐ……分からん」

「えっ海さんなにか言いました? まさか問題が解けないんですかぁ?」

「な、なわけあるかよ。幻聴聞いてんなよ」

「まぁせいぜい頑張ってくださいねー」


 思いっきり俺をからかうイヴ。意地でも解いてやるぜこのやろう。

 しかし必然というべきか、コタツのあたたかさに負けて眠くなってきた。この誘惑をはねのけるって大変だよね。


『ぐううぅ』


 お腹の音。先に言うが俺の虫じゃない。ちらっとイヴを見る。


「あー、そうやって特定の人を犯人と決めつけてかかるんですね。今の音色は友香さんですよ」

「え、そうなの?」

「そうだよっ。お昼は食べたんだけどねー」


 肯定する友香。よくイヴは分かったなと思う。音色とかあんのかよ。

 時刻は午後二時半。小腹がへる時間ではある。いつしか場は休憩モード。


「それでは海さん、なにか良さげな食べ物を買ってきてください」

「は、なんで俺が」

「さっき疑われて、わたしの心はひどく傷つきました。お腹ぐーぐー買い出しの刑を命じます」

「なんじゃそら」


 謎の指示を命じてきた。たぶんコタツから出たくないだけだろう。


『ぐうぅー』


 またお腹の虫の声。今度はイヴだ。ほぼ友香と同じタイミングとは。イヴを見つめる。


「な、なんですか」

「いや別に」


 似た者同士だなあと感じた。仲良しゆえか。いっちょイヴが喜ぶようなものを買うとするかね。


「あ、じゃあ僕も行きたいな。友香さんの分は僕が選んでくるね」

「ありがとー。じゃあね、外はかりかり中しっとり、地中海風の甘辛いお菓子がいいなっ」

「うん、分かった」


 無茶な注文を付ける友香。そんなのあるのか。セラ君も分かったのかよ。

 二人で外に出る。好きな人に贈り物をしたいと考えた。セラ君と俺もさりげなく似た者同士。

 雑談しながらコンビニに着いた。目的のお菓子を買って店を出る。しばらくゆったり歩いた時。


『にゃー』


 ネコの呼ぶ声。辺りを見回せば、空き地の草むらから俺たちをうかがう小さな黒猫がいた。


「あれ? あの子って」

「ん?」


 なにか気付いた様子のセラ君。続いて俺も分かった。あれは以前、学校の校舎裏にいた黒ねこだ。

 たしか白い犬と一緒に敷地を出て、それ以来見ていない。セラ君も再会をあきらめていたのだけど。


「わあ、久しぶりだね。元気だった?」

『にゃー』


 話しかけながら近付くセラ君。黒ねこは、しゃがんだセラ君の腕に自ら抱っこされた。お互いに覚えていたらしい。


『わん!』

(おお、あれは)


 空き地の外から元気に吠えたのは、これまた久しぶりの白い犬。黒ねことは今も良い関係みたいだ。

 地面に降りた黒ねこは、犬と一緒にがさがさと草むらを探り始めた。顔を見合わせる俺とセラ君。

 やがて、なにかをくわえた猫と犬が戻る。謎の物体が俺たちの前の地面に置かれた。なんだろうと観察してみた。


「……うわ」

「……わあ」


 バッタの死がいとネズミの死がい。細かな描写は省略しとく。黒ねこと犬はおすわりしてる。なるほどお礼のつもりか。


「ご……ごちそうだな。気持ちだけ受け取るよ。なあセラ君」

「う、うん、ありがと。うえっ」


 きもちわるかった。とはいえ嬉しいは嬉しい。買ったポップコーン(油・食塩不使用)の袋を開けて、手のひらに乗せて差し出してみる。

 二人とも美味しそうに食べてくれた。袋の中身を空き地に全部まける。名残惜しいけど俺たちも帰ることにした。


「あの二人も、どこかに行くのかな。また会えるといいね」

「ああ。必ず会えるさ」


 誰も、ひとつの場所にはとどまらない。風の気持ちに揺られる旅。繰り返して歳を取る。

 でも、お互いがお互いを必要としているなら、きっと再会できる。そんなふうに世界は作られているはずだから。

 歩き続けて帰宅した。鍵を開けて中に入る。いやに静かだな。


「ただいま」


 返事なし。居間の戸を開ける。やんわり想像してた光景が広がっていた。


(さぼる二人の図、か)


 並んで眠るイヴと友香。ひとつの布団を二人でかぶりながら、心地よさそうに寝息を立てている。呼吸のリズムが同じ。

 セラ君と顔を見合わせる。そして笑った。買い物袋をテーブルに置く。


「よし、と」


 友香側にずれていた布団をイヴにかけ直す。足音を立てないように、俺たちは外に出た。

 並んで玄関扉に寄りかかる。ふと落ち着ける日常の隙間。いまあるものを深く感じられる時間。


「またいつか、みんなでのんびり過ごそうな」

「うん」


 風は流れても、変わらないものはある。大切なものは、夢を見ながら記憶に刻んでおこう。


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