41.見慣れた帰り道の片隅で
「人間に見えるわたしですが、アンドロイド特有の機能もあるんです。知りたいですか?」
「わぁ気になるぅー!」
「じゃあ手をにぎりますね。いきますよ放電っ」
「ひゃああ刺激的ー!」
友香に電気を流すイヴ。二人が優しくたわむれる放課後の帰り道。
「なあ、セラ君もああいうことできるのか?」
「うん。でも、あんまり誰かをしびれさせるのもよくないかなって」
「だよな」
その後列を歩くのは俺とセラ君。さすがセラ君は常識をわきまえていらっしゃる。
みんなで歩く帰り道。誰かが誰かを誘わずとも自然と集まれる関係。たぶん今がちょうどいい。
「友香さん。帰る前に少しだけ大丈夫ですか?」
「え? いいよっ」
「セラ君はどうですか?」
「う、うん。大丈夫だよ。どうかしたの?」
イヴの事情をみんなに伝えるのは。メールや電話じゃなく直接届けたいというイヴの意思。
立ち止まったのは、友香が一人で曲がる道の手前。沈黙を埋めてくれたのは冬風の音。
いろいろなものが少しずつ変わった。これからも止まることなく続いていく。現実の形状変化。
「――わたしは、街を出ることになりました。大切な役目を果たすために。三月十四日、みんなの前からいなくなります」
イヴは未来を素直に打ち明けた。あらかじめ知っていた俺は、どうにか平静な顔を保てていた。
「また会えるかは、今は分かりません。わたしがやるべきこと、やりたいことをやってきます」
だけど心は、ぐらぐらと揺さぶられる。確実に期日が迫っているから。
「イヴちゃん……もしかして、イヴちゃんは一人ぼっちになるの?」
友香からの問いかけ。親友を思いやる気持ち。イヴは静かに首を横にふった。
「いえ。ある方たちが側にいてくれます。それに友香さんも。離れてても、心は繋がっていますから」
「そっか……よかった。ありがとね。明日からもよろしくねっ!」
「もちろんです。また学校で会いましょうね」
贈ったのは自然な笑顔。たくさんの音は必要なかった。立ち止まっていた友香が歩き出し、そして全身で振り返る。
「さよならじゃないよね」
「はい」
「えへへ、またね。イヴちゃんのこと、いつも大好きだからね」
「――はいっ」
おおらかに手をふる友香。遠くなる後ろ姿を、イヴはいとおしそうな表情で見送っていた。
みんなで歩く。ふと見たセラ君の表情は寂しそうだった。素直だから、うまく気持ちを隠せない。
(……セラ君)
励ます言葉をかけようとした。落ちていたセラ君の視線が上がる。
「さみしくなるけど、僕が落ち込んだらだめだよね。みんなのおかげで、強くなれたから」
「ふふ、そういえばセラ君、なんだか表情が大人っぽくなりましたよね」
「え、そ、そうかな?」
凛々しい表情から一転して照れるセラ君。みんなで歩く足は止めない。別れ道が近付く。
いろいろ話したいことはあった。だけど区切りを付けなきゃならない。どこかで道は分かれるから。
「じゃあね海くん、イヴお姉ちゃん。明日も、みんなでたくさん話そうね」
「ああ。またな」
「再会を楽しみにしててくださいねー」
「うん。待ってるね」
おだやかな表情のセラ君。離れていく後ろ姿を見送る。その背中は、以前より頼りがいがあるように見えた。
いつの間にかイヴと二人きり。いつもみたいに繋がらない手。静かな景色が流れていく。
「もう冬も終わるな」
「そうですね」
何かを届けようとすればするほど、声は胸の奥に隠れようとして。風の音ばかりが邪魔をする。
雪景色を見ることも減った。いずれは冬ともお別れ。初雪が数日前の場面のように感じた。
「春になったら、朝も起きれるんじゃないか? イヴを起こす俺の身にもなってくれ」
「あーどうですかねえ。まあ、手のかかる子ほどかわいいって言いますし」
「いやそれ俺から言うことだから。ぜんぜん思ってないから」
なにかと俺を振り回してくるアンドロイド。だからこそイヴが好き。
「海さんだって、子供の頃はお母さんに迷惑かけたじゃないですかー。あっごめんなさい今もお子さまでしたねー」
「なんだとこのぉ!」
「やーいやーい」
別れの言葉もいいけど、俺が見たいのはいつものイヴ。くだらないことを平気で口にして、のびのびと生きている恋人。
確約された結末への準備は、無事に済ませられそうだ。その日が来たら、笑ってイヴを送り出そう。




