40.やがて四肢が自由になったら
「ようセラ君。よかったら一緒に帰らないか?」
「あ、海くん」
校舎一階の廊下を通ったところ、外を眺めるセラ君を見付けた。
今日は青空で気温も適度に高め。雲の数でも数えてたんだろうか。
「ごめんね。今日は予定があるから。これからやりたいことがあって」
「そっか。あれ、なんか汗かいてないか?」
「う、うん。ちょっとね」
冬なのに汗かきなセラ君。どちらかというと冷や汗っぽい。何に動揺してるんだろう。
「これから、友香さんに告白しようと思って。校舎裏に呼んだから」
「なるほど告白なぁ」
「うん。でも勇気が出なかったんだ。海くんと話せてよかったよ」
理由が明かされた。なあんだ告白か。そりゃ緊張もするわな。いやあ俺もそうだった。
「ありがとう。僕行ってくるね。一緒に帰れなくてごめんね」
「おう。頑張ってな」
背中を見送る。初々しくて素敵だな。じゃ俺は教室で待つイヴと帰、
「……って告白ぅ!?」
ようやく意味に気付いた。やばい。帰宅してる場合じゃない。教室めがけて走り抜ける。
「おおおおいイヴぅ大変だああぁ!」
「な、ななな、どうしたんですかいったい! 電撃の後遺症ですか?」
「おえっ、ひ、ひとまずこっちに来てくれ」
イヴを連れて廊下に出る。周囲が無人なことを確かめてから。
「いいか……実はな、なんたらかんたらほにゃららで」
さっきのセラ君の決意を説明する。イヴは瞳を燦々と輝かせていた。
「わあっほんとですか? これは帰宅してる場合じゃないですね」
「だろ? こういう時、俺たちはなにをするべきだと思う?」
「んー、なんですかねえ。友香さんを応援したいですけどねえ」
「俺もセラ君を見守りたいんだよなあ」
勝手に動く四本の足。うだうだと会話を交わすうち、いつの間にか校舎の外に出ていた。
「しかし天気がいいなあ。まっすぐ家に帰るのはもったいないなあ」
「近場を散歩というのもありですよねえ」
「そうだなあ、校舎裏とかいいんじゃないか?」
「超同意ぃー」
ぐるりと学校を回る。たどり着いたのは校舎裏。今さらだけど覗き目的ですごめんなさい。
でも続行。二人がいた。物陰に隠れる。向き合って立つ横顔が見える。ナイスな角度。
「成功しますように」
「しますようにー」
心からの祈り。聞こえたのは友香の声。
「どしたのっセラ君。こんな所に呼び出して」
「う、うん。実は話したいことがあって」
「あ、もしかしてジョギングの誘いとか!? いいよ早速ひとっ走り行こう! ひゃっはああぁ!」
「わああ! ち、ちょっと待っていたたた! すごく真面目な話だからああぁ!」
綱引きみたいに腕をけん引されるセラ君。かろうじて友香を制した。
「え、そうなの? もしかしてセラ君のこと?」
「うん。友香さんには感謝してるから、隠し事は消しておきたくて」
「ふふ、そっか。じゃあ真剣に聞くねっ」
姿勢を正して立つ友香。俺も緊張してきた。セラ君の深呼吸。やがて言葉が紡がれ始める。
「その、びっくりしないで聞いてね。ぜったい嘘は付かないから」
「うん」
恋の告白とは異なるように思えた。この空気。以前にも感じたことが。
「……実は、僕」
そうだ。イヴが友香に正体を伝えた時。おそらくセラ君も今から同じことを。
「本当は、アンドロイドなんだ。海くんもイヴお姉ちゃんも知ってるけど、友香さんには言えてなくて」
「え」
「……嫌われたくなくて、嘘ついてたんだ。ずっと黙ってて、ごめんなさい」
「……セラ君」
頭を下げたセラ君。小さくうつむく友香。大丈夫。セラ君が思うほど現実は辛口じゃない。
「なあんだ! イヴちゃんとおんなじなんだね。見分け付かないねーっ」
「……えっ、え?」
友香は二度目だから。むしろ混乱してるのはセラ君の方だった。
「え、もしかして……僕より先に、イヴお姉ちゃんが話してたの?」
「そうだよっ。私は平気。だからセラ君、あんまりひとりで悩みすぎちゃだめだよ」
セラ君の頭に優しく手が乗せられる。
「短所も欠点も、全部がセラ君のいいところなんだから。私は、セラ君がいてくれてすごく楽しいよ」
友香は単に、抜けた性格ってわけじゃない。
「だからね、気にしすぎちゃだめ。もしもつらくなった時は、私を頼ってくれたら嬉しいかなっ」
「……友香さん」
「私を信じて話してくれて、本当にありがとね」
おおらかさを分け与えて生きている。それが友香。セラ君が好きになる理由が分かった。
ふわっと表情が軽くなるセラ君。かなり気を張っていたのだろう。
「うん。僕の方こそありがとう。友香さんって、今恋人とかいるの?」
「え? ううん。ぜんぜんいないよ」
いつかの友香からの質問と同じ言葉。だけど今は、ほんとの使い方。
「そっか。じゃあ、頑張ってみようかな」
「うん。待ってるねっ」
飴玉のような雰囲気。セラ君と友香は並んで歩き、ゆっくり下校道を帰っていった。
少しだけ、セラ君の意思が分かった気がした。今は弱いけど、いつか肩を支えられる男になれたらその時は、と。
「今のままでもいい気がするんだがなあ」
「もはや完全に両思いですよねえ」
のんきな俺たちの価値観は、あくまで一つの模型。命の数だけ答えがある。
自分たちが納得できて歩けるかどうか。それだけが、たったひとつの育みたい約束事。




