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26.覗けるものならのぞきたい

「あれっ、セラ君がのぞきをしていますね」

「ほんとだな」


 下校途中の廊下。音楽室の前を通りかかったところ、挙動不審なセラ君を発見した。

 半開きの扉の前でうろうろ。しきりに室内を気にしてる。話しかけてみるか。


「よっセラく」

「ぅわああ!? え、なっ海くん!? なにしてるのこんなところで!」

「いや……それは俺が聞きたいかもしれん」


 肩を叩いた瞬間、普段とは真反対の調子で驚くセラ君。俺までビビった。


「おどかしてすまん。誰か中にいるのか?」

「うん、友香さんが。一緒に帰りたいなって」

「なあんだ、のぞき注意報じゃなかったんですね」

「ま、まあ近いのかな……うう、僕そんなふうに見えてたんだ」


 セラ君は落ち込んだ。手の早いイヴは音楽室の中を覗き込む。そして呼びかける。


「おーい友香さ、むぐ」


 だがセラ君に口を塞がれた。すぐさま廊下に優しく出される。


「だ、だめだよイヴお姉ちゃん。僕から誘いたいんだ。その、二人きりになるチャンスだから」

「あっそういうことでしたか。すみません先に気付けなくて」

「ううん。僕の方こそ、無理やり引っ張ってごめんなさい」

「いえいえ」


 頭を下げるセラ君。廊下で手をこまねいてた理由が判明した。

 セラ君は友香に好意的。どうも俺たちは、仲が進展する局面に遭遇したらしい。


「セラ君。俺は応援してるからな。気持ちを伝えられるといいな」

「うん。ちょっと不安だけど頑張るね」

「わたしからもエールを贈ります。男の子からの実直な言葉、女の子は嬉しいものですよ」

「ありがとう。緊張するけど、行かないとね」


 ふたつの激励を伝える。セラ君は素直だからきっと大丈夫。俺たちの存在は邪魔になる。


「よしイヴ帰ろうか。いい結果を願おう」

「ですね。明日を楽しみにしていますね」

「よ、ようし。いい報告ができるように」


 戦士の雄姿を目に焼き付けて、俺とイヴは音楽室から離れていく。

 五秒。十秒。角を曲がってまた五秒。そろそろ平気だろう。俺たちは同時に立ち止まった。


「イヴ」

「海さん」


 名を呼び合う。きっとシンパシー。


「このまま帰るのは誠にもったいない。そうは思わんかね」

「はい。今は山場そのもの。見逃すのは愚行としか言えません」

「戻るか」

「さんせぃー」


 最低な俺たちだった。っしゃ、セラ君にバレないよう頑張ろう。

 遠くから扉付近の様子をうかがう。迷っていたセラ君は、意を決して音楽室に入っていく。


「よこしまな気持ちなんてないよなあ」

「二人を応援したいだけですからねえ」


 かさかさかさ。某黒光りする虫みたいに入口まで近付く。イヴと共に中をのぞいた。

 セラ君と友香の二人きり。友香は椅子に座り、金管楽器の手入れをしてるみたいだった。


「セラ君。どうしたのっこんなところで」

「う、うん。友香さんの姿が見えたから。なにしてるのかなって」

「あはは、ただの掃除だよ。楽器って、手入れしないとすぐ音が変わっちゃうから」

「へーっ。まるで生き物みたいなんだね」


 自然な雰囲気に包まれる。学校ならではの一ページ。ほほえましくてうらやましい。


「もしかして、セラ君も音楽に興味ある?」

「うん。大変そうだけどすごいなって思うよ。体力も必要みたいだし」

「そうなんだよねっ。ところでセラ君に聞きたいんだけど、いま恋人っている?」


 いきなりの質問。びっくりするセラ君。


「え、い、いないよ」

「そっか。よかった。じゃあさ、今日から付き合ってくれないかな?」

「えっ!?」

(なにぃ!?)


 爆弾発言だった。ちょっと性急すぎやしないか。今時の高校生って進んでんだなおい。


「私、ずっと一人でしてたんだよね。でもなんか寂しいから、相手がほしいなって考えてた」

「う、えっとあ、あの、僕はなにをすれば」

「んーとね、何度もついてきてほしいかな。そしたらきっと、前より気持ちよくなれるからね」

「う……ううう」


 やばい。赤裸々すぎてセラ君が赤面。まさに決定的場面。わたくし興奮してまいりました。


「どうかな? もちろん、セラ君の元気があったらでいいんだけど」

「う、うーん……あんまり自信ないかな。体力はぜんぜんだから」

「お願いっ! 私と一緒にやろうよ。きっといい気分になれるよっ」

「……そう、だね。大人になるためには、必要なことなんだよね」


 両者が同意。過程をすっ飛ばすとは思わなんだ。まあ恋の形も色々だしこれはこれであり、


「ありがとー! よかった。一緒にジョギングする相手が見付かって」

「うん。え?」


 え?


「楽器は体力勝負だもんね。ありがとね、私に付き合ってくれて」

「あ、う、うん」

「ふふ、セラ君がついてきてくれるし、前より気持ちよく走れるよっ」

「………そっか、僕は勘違いしてたんだ」

「じゃ行こう! ジョギングして汗流してハイになろう! はいさああぁい!」

「うわあああ!」


 腕をつかまれ拉致られるセラ君。出口方向に来たので素早く身を隠す。

 そうだ。友香の性格を忘れてた。言葉までドジなのかよ。あんなん誰でも間違うわ。


「ぼちぼち成功みたいですね。いやあ、素直な気持ちで拝見できました」

「よだれ出てるぞ」

「じゅるり」


 よだれをぬぐうイヴ。邪念まみれのやつめ。俺は落ち着いてるぜ。


「でもよかったな。これからの二人の仲を楽しみにしたいな」

「鼻血出てますよ」

「っは!?」


 血をぬぐう。おかしいな至って冷静なのに。

 でも、応援する気持ちは本当だ。大切な人との出会いは、いつだって曇り空の隙間から。


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