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25.たくさんの尊敬や称賛よりも

「さて海さん。数学のテストはどうでした?」

「の、のぞくなよ。そういうイヴは良かったのか」


 イヴの答案をのぞきこんでみる。いつも通りに百点で腹が立った。

 アンドロイドだけあり突出した記憶力。頭がいいと学年でも評判だった。


『すごいねイヴちゃん。どうやったらそんなに覚えられるの?』

『いえいえ。運よくヤマが当たりまして。赤点じゃなくてよかったです』


 同級生からの質問には謙虚な答え。だから誰からの好感度も高い。

 加えて上手いのは運動。体育でドッジボールをしてて、クラスメイトが当てられかけた際、


『おっとー。危なかったですね。さあさあ反撃開始しましょうか』

『う、うん。ありがとうねイヴちゃん』


 超人的な反射神経でボールを止めた。気配りゆえかみんながイヴをチームに入れたがる。

 さらには芸術。美術で風景のデッサンの授業があったのだけど、


『できましたー』

『!!?』


 イヴが描き上げたのは、写真かよと言いたくなる精巧な絵。教師からの評価も最上級。

 そんなこんなで、全員がイヴを優等生だと思ってる。当人も器用に立ち振る舞う。ただしそれは学校限定の顔。

 授業が終わって自宅。部屋には俺だけ。こうなると素が出るらしく。


「うー、今日も電気が美味しいですねえ。ごろごろしながら食べる抹茶せんべいは最高です」

(こっちが真実だ)


 寝ながら充電しつつ漫画を読んでいるイヴ。はしたない。落ちたせんべいのかけらも拾って食ってるし。


「学校での姿と違いすぎるだろ」

「いいんですー。今時JK(女子高生)はこうなんです。ギャップがたまらんってやつですよ」

「自分で言うか」


 普通は人から言われるもんだと思う。


「結果を出してますからね。海さんは、じゃなくて五十三点さんは、もっと勉強するべきですよ」

「う、うるさいな。数学は苦手なんだよ。イヴよりも努力はしてるぞ」

「あはは、漫画って本当おもしろですねえ」

「………」


 俺だけに向ける態度。むかつく。だが八つ当たりすれば思うつぼ。

 今日のテストの復習を始める。なにごとも前向きに。進歩は少しずつ。継続は結果を運ぶ。


「海さん」

「ん?」

「才能のない人が努力するほど無駄なことはないですよね」

「お前はそうやって俺のやる気を削ぐか」


 挑発には屈さない。笑いたいやつは笑うがいいさ。俺はやるぜ。

 それから一時間ちょい。とりあえず終わった。賢さが三ポイントくらい上がった気がした。


「あっ終わりました?」

「まあな」


 イヴが振り向く。気付けば静かに漫画を読んでいた。気をつかってくれてたのか。


「外に行かないか? 頭を冷やしたいからな」

「そんなにわたしと一緒がいいんですか?」

「わ、悪いかよ」

「いえいえー」


 嬉しそうなイヴを誘う。おかげさまで集中して勉強が出来た。

 コートを着て散歩がてら街に向かう。ありふれた会話を繋ぎながら。

 しかし平穏は中途まで。ふいに降り始めたのは冬の使者。あれよあれよと増えていく。


「完全に雪に包囲されてしまいましたね」

「めんぼくない」


 公園のベンチの屋根の下。しんしんと積もる邪魔者から身を隠す。


「はっくしゅ」


 イヴがくしゃみ。どうしたんだ。また風邪でもひくつもりか。


「大丈夫か?」

「んー、謎ですね。メイド服の防御力が通用しないなんて」

「いやめっちゃ薄いだろ。マフラーと手袋だけってお前」


 本人も不思議そうにしてた。だから重ね着しろとあれほど。とはいえこれはいいチャンス。


「ほら、これ着ろ。汗くさかったらすまんな」


 コートを脱いでイヴの体にかける。あったかさは愛用者の俺が保証する。


「え、でもそうしたら海さんがさむざむで」

「大丈夫だ。ばかは風邪引かないからな……っはくしょーん!」


 かっこつけたそばから盛大な嘘。体の知覚反応は空気を読まず。


「ふふ。二人であったまりましょうか」


 イヴは微笑んで俺にコートをかけると、ロールキャベツみたいにくるまって隣に入ってきた。

 せまいぶんあたたかい。ぬくもりを感じるのは体だけど、同時に心も。


「みんなに認められたり、褒められたり。そういうのも気分がいいですけど」


 おだやかな声と、みんなの前では見せない表情。俺だけが知るイヴ。


「やっぱりわたしは、こっちがいいです。好きな人が側にいるだけで」

「……そっか。ありがとな。俺も同じだよ」

「思い切って口にちゅーしちゃいますか?」

「い、いや、今はいい」

「にやにや」


 イヴはすごいやつなんかじゃない。俺たちと同じで、いろんな工夫を重ねながら生きてる。

 みんな本当は一緒。誰かの近くにいると気持ちが満たされる。深くに『こころ』があるから。

 今後も意識しようと思った。手のひらに降りた雪みたいに、油断すると見えなくなるものを。


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