19.仲良しなのにはわけがあり
「友香さん久しぶりですねえ。去年よりもかわいくなりましたねー」
「そ、そんなことないよ! イヴちゃんは色白美人になったよね」
「いえいえそんなー」
(どっちも変わってらっしゃいませんが)
登校途中に会ったイヴと友香がガールズトークを始めてる冬休み明けの朝。
以前から不思議だったけど、なぜ二人は仲がいいんだろう。なんの出来事がきっかけで。
「ところで、二人とも宿題は終わった? 私すっごく苦労したよー」
カバンから宿題を取り出し始める友香。歩きながらのせいか、平らなはずの地面でつまづく。
よろめいて来る。イヴが避けたせいで、俺は思いきり足の甲を踏まれた。
「いてー!!」
「きゃああ、ごめん! 急所入っちゃったよね本当ごめんね! 今すぐ手当てするから!」
「いや……いいんだうん、わざとじゃないしな」
かなり痛かったが我慢しておく。前からうすうす思ってたけど友香は多少そそっかしい。
「ふふ、友香さんは変わらなくていいですね」
「なに?」
「生まれながらのドジっ娘。それが友香さんのいいところですから」
イヴからの解説。友香は図星を突かれたせいか恥ずかしそう。
「そうなんだよねっ……私、昔から抜けてて。今日はだめな日みたい」
おずおずと話す友香。下向きのせいで眼前に迫る電柱に気付かず。
ごつん。石柱に強く頭突き。しかし怪我はおろか痛がる様子もない。
「……おかげで、頑丈頭になったもん。もう、何百回もぶつかったから」
「……苦労してるな」
心から同情。きっと友香の頭突きは鈍器の殴突に等しいんだろな。
(おっ、セラ君だ)
とか考えてると、後方から小走りで近付いてくるセラ君を見つけた。
イヴたちは気付かないまま学校の庭に入る。いよいよセラ君が友香の背後に着いた時。
「わたしは、とても素敵な個性だと思いますよ。あ、そこの足元にガムが落ちてます」
「ひぇっ!? わあ、やだ踏みたくないっ!」
反射的に後方に大きく下がる友香。それが悲劇を引き寄せた。
「うわぁ!?」
友香の後頭部の一撃がセラ君のひたいにモロ直撃。ばたりと地面にダウンするセラ君。
「きゃあ!? どっ、どうしよう名前も分からない人に! と、とりあえず保健室ー!」
慌てふためきセラ君をおんぶする友香。ダッシュで急行していく。取り残される俺たち。
「友香さんは本当にいい子ですねえ」
「犯人だけどな」
危険人物だ。セラ君の安否が気になるので後を追うことにした。
上靴にはきかえて保健室に直行。扉を開けようとするもイヴに制服を引っぱられる。
「どうした?」
「ほら、見てください」
イヴが窓越しに室内を指差す。手当てを受けるセラ君に向かい、友香は必死に謝り倒していた。
その姿があんまりにも一生懸命なせいか、逆にセラ君と保険の先生になだめられている。
「間抜けとか、危険な子だって思うかもしれません。でも、ほんとのほんとは優しいんですよ」
「……ん、みたいだな」
どうやら俺は、友香を誤解していたらしい。
「どうしてわたしが、抹茶を好きなのか話してませんでしたね」
「ああ」
「友香さんが、ごちそうしてくれたんです。屋上で一人だったわたしに、抹茶パンをまるごと。すごくおいしいからって」
イヴは最初から見抜いていた。友香が描いている内面の空色を。
「本当に、とてもおいしくて。友香さんとも仲良くなれて。わたしにとって抹茶は思い出の味で、じゅるり」
「よだれふけ」
友香もイヴのことを深く気にかけていた。いつかイヴの支えになりたいと話していた。
気の合う二人。きちんと理由があったんだ。
「あ、戻ってきますね」
「だな」
「さて、いつもならここで待っていれば」
「?」
出口付近で姿勢を下げるイヴ。落ち込んでいる様子の友香が保健室の扉を開けた。
がつん。廊下に出る寸前わずかな段差につまづく友香。そのまま前のめりに転倒するも、
「きゃあっ!?」
「おっとー」
イヴが両手で友香を受け止めた。そのおかげで怪我はまぬがれて。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。ありがとね。いつも助けてもらってるね。私は、イヴちゃんになんにも返せないのに」
立ち上がる友香。イヴは首を横にふる。
「いいんです。側にいてくれるだけで。友香さんのあたたかさは、きちんと感じてますから」
「イヴちゃん……」
「教室、行きましょうか」
「うんっ」
並んで歩き始めるイヴと友香。二人の付き合いは長くなると感じた。
誰かを受け入れること。心があるからできる。すごく大事なこと。
にぶく残る足の甲の痛みも、優しい呼吸の産声のように思えた。




