15.白は静かに語らいを見守る
「逃げても無駄ですよぉセラ君。ゆきだま攻撃いきますね、それー」
「わあっ冷たい! それなら僕も行くよ。イヴお姉ちゃんに反撃っ!」
「きゃー」
ちらほら雪降る真冬の公園。積もった白を武器に合戦するイヴとセラ君がいた。
「さむい!!」
冷える。防寒着を着込んでも凍える。平然と走り回るアンドロイド二人。免疫力高すぎ。
「海さんもどうですか? 三回当てられたら脱落のバトルロイヤルです」
「や、やらねえよ。俺は見物客でいいんだ」
「あれぇ? もしかして、わたしに負けるのが怖いんですかね?」
「……なんだとぅ?」
ぴくりと体が反応。これでも中学では卓球部だったんだぜ。反復横飛びなら超はええし。
「しょせん海さんは人間。こごえちゃいますもんね。あっいいんですよ? 安全なところで休んでても」
「……上等だ。その口を閉じさせてやるよ! 後悔しても許さんぞぉ!」
コートを脱ぎ捨てる。
「あああさみー!! おうちに帰りてー!」
「海さんもハイになる時があるんですねえ」
一気に全身が冷凍された。やめときゃよかったこうなりゃヤケだ。
ところが意外な流れが起きた。走り回るうちに体がぽかぽかになった。これは人体の神秘。
やがて戦闘終結。ベンチで並んで休憩中。肝心の結果はといえば、
「疲れた……というか一つ言わせてくれ。なぜ俺の攻撃は当たらない」
「動体視力というやつです。ほら、高性能アンドロイドですから」
惨敗だった。イヴもセラ君も、渡る白鳥のように俺の投球を避けてた。
「イヴお姉ちゃん、たくさん海くんにぶつけてたね」
「えへん」
「このやろう……ちょっとは遠慮しろよ」
誇らしげなイヴ。三連続で顔面に当てられた時は泣きたくなった。
でも、久しぶりに楽しんで運動した。一人じゃ味わえない爽やかな気分。
「なあ。セラ君は、いつから学校に来てたんだ?」
休憩がてら世間話。はらはらと歩く風が静かに体を冷ましてくれる。
「半年くらい前かな。学校で僕の正体を知ってるのは、海くんとイヴお姉ちゃんだけだよ」
「そうか。友達にも秘密にしてるんだな」
「うん。……えっとね。ほんとは友達とかいなかったんだ。なんか、クラスに馴染めなくて」
ぽつりと語るセラ君。細雪は止んでいた。
「だからあの日、みんなと話せてよかったなって。口に出すことも大事なんだって思ったよ」
「そうだな。俺も、見習わなくちゃいけないな。つい、伝えたいことを黙っちまうからさ」
セラ君は勇気がある。俺は口下手を言い訳に逃げているのに。
「セラ君は人間だ。イヴと同じだよ」
なにか届けられる言葉を探した。どうにか拾い集めることができた。
「え……でも僕は」
「セラ君にも『こころ』がある。プログラムの枠を越えて、いろんなことを考えて感じてる」
自分がいると迷惑なんじゃないかって、周りに気をつかう必要なんか、もうないんだ。
「俺だけじゃない。アンドロイドだってことを受け入れてくれる人は、他にもたくさんいる」
「そう……なのかな」
「ああ。もし誰かに否定されたとしても、俺とセラ君は友達だ」
右手を差し出す。
「海くん……うん。そうだよね。僕も海くんのこと好きだよ」
「ん、ありがとな」
力強く握手をかわす。人と同じ、俺よりもあたたかい体温を感じた。
「わたしも参加させてもらいますね。というわけで、ぎゅーっと」
「ふふ、イヴお姉ちゃんの手もあったかいね」
その上からイヴが両手で包み込む。手袋よりも優しいぬくもり。
いい頃合いなので帰宅することにした。セラ君を見送った帰り道。イヴは隣を歩いている。
「海さんって、語るときは語るんですねえ。イメチェンとかですか?」
「なんとなくだよ。そんなに似合わないか」
「いえいえ。ただちょっと、かっこよかったなって」
しおらしく話すイヴ。そんなこと思ってたのかよ。やめろ恥ずかしい。
「わたしの正体も、誰かに打ち明けてみるべきでしょうか。少し、怖い気もしますけど」
「そうだな。いいことだと思うよ」
「もしも拒絶されても――海さんはわたしの側にいてくれますか?」
「当たり前だろ。いらん心配なんてするな。俺は応援してるから」
迷わずに答えた。イヴの葛藤を感じたから。
「そうですね。おかげで勇気が出ました。ありがとうございます、と見せかけて隙ありー」
「ぶわっいてっ!」
横っ面に当てられたのは雪玉。はじけて服が雪まみれになった。
「やったなこのやろう叩きのめしてやるよぉ!」
「あはは、かなうものならばー」
雪玉片手に追いかける。イヴの切り替えの早さは敬服に値するな。
俺もイヴに打ち明けたいことがある。伝えそこねている気持ちは、待ったところで形は変わらない。
例えるなら氷点下の氷。溶かすための方法は、どうも俺自身よく分かってるみたいだった。




