表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/90

第八十七章

第八十七章


 何年ぶりだろう。


 ここに立って、眼下に広がる海の、終わりの果てを目で追うのは。

いつも、いつまでもそうしていた。彼と二人、他愛もない言葉を交わしながら飽く事もなかった。

いつまでも続くと思っていた幸せな日々…


 小石に躓くように簡単に、それは終わった。


 あの時から、私の旅は始まった。

あての無い、取り戻せるかも判らないものを探す旅が。


 私が見つけたものは、この旅の終わりを見せてくれるのかしら。求めていた答えを指し示してくれるのかしら。本当に…本当に…


 緩い風がふわりと髪を巻き上げる。

彼女は瞬きもせず、ただただ遠くへと視線を彷徨わせていた。


 「…さ…ん…おじょうさ〜ん…」

高台の後ろ、下へと通じる細い小道の向こうから彼女を呼ぶ声が聞こえた。

「だれ?ツネさん?」

「へぃ。そちらにおいでで」

海に背を向け林を睨む彼女の前へ、幾らもかからぬうちに白い割烹着姿の男が現れた。

「やっぱりココでしたか。この坂ぁ、そろそろあっしにゃあキツくなってきましたな」

「ツネさん、どうしたの?そろそろ調理場も忙しいんじゃない」

「へぇ、まあそうなんですが。何やらね、捜してるんですよ、おじょうさんを」

「捜してる?誰が?」

「少し前に男が来たんで。東京から来たって言ってました。おかみさんが応対してましたが…こんなモン置いてきました」

割烹着姿の男は小さな紙片を彼女に渡した。

「やたら図体のガッチリした、ブルドックみたいな顔した奴や。探偵だとかぬかしてたが、ありゃあどう見ても悪人の面ぁだ」

何の飾りも無い白い紙に、三行だけ。


 K&M探偵社

 北山 謙二

 03-xxxx-xxxx


 「この人…もう帰った?」

「へぇ。”暫くこっちにいる事になりそうだから、安い宿があったら紹介してくれ”なんてぬかしやがった。ウチぁ旅館ですぜ!おかみさんも御立腹でしょうに」


 彼女…衣笠恵美子は黙って名刺を見ていた。

「おじょうさん、東京で何かあったんけ?あっしでよけりゃあ相談に…」

「何もないわ。教えてくれて有り難う、もう戻っていいから」

にべもなく答え、恵美子はまた海の見える方へと歩きだした。


 急がなきゃ


 細い指の間で、名刺がクシャクシャに握り潰されていた。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ