第八十一章
第八十一章
加夏子は何の迷いもなく行動に移っていた。
早朝に、看護士や医者の見回りの無い時間を見計らって病院を抜け出したのだ。
彼女にとって佐野碧は妹同然の存在だった。何もせずただ待つなんて事は考えられなかったのだ。
タクシーを使い駅まで出ると切符を買った。所持金は僅かだったが、頼りになる援軍はすぐ近くにいる筈だった。
ひとつ隣りの、コンビニ位しかない駅に降りると、久しく使った事の無い携帯電話を取り出し番号をプッシュした。入院中にも使えるように恒彦が買い与えたPHSだったが、電波はちゃんと届いているようだ。
「もしもし」
「ジュン、あたしよ。カナ」
「カナちゃん?どうしたの、こんなに朝早く。僕なら明日には戻るから…」
「聞いて!みーちゃんが…碧ちゃんがいなくなったの」
「なんだって!?」
「昨日から病院じゅうが何だか騒がしくて、わたし他の患者さんとかに聞いてみたの。そしたら…」
「みーちゃんが居なくなってた、そうなんだね」
「衣笠さんは風邪でお休みだし、銀さんには怖い顔でスルーされちゃうし…お願い、協力して。一緒にみーちゃんを捜して!」
「わかった、わかったけど…捜すといったって一体、どこを捜せばいい?」
「それが判れば苦労しないわ。どうすればいい?ジュン」
「そういわれてもなぁ〜…」
電話の向こうで殉が沈黙した。
とにかく迎えにきて。わたし、XX駅の裏手にいるから。
電話を切ると、しばらく考え込んでから加夏子は再びボタンを押した。
「…お姫サマかい。散歩にしちゃ随分と遠手したね。今どこ?」
「長官…九十九先生。わたし、碧ちゃんを捜さなきゃならないの。馬鹿な事してるって判ってる、でもお願い!先生なら何か知ってるんじゃないですか?病院の関係者だし…何でもいいんです!知ってたら教えて下さい!帰ったらいっぱい叱ってもいいですから!」
九十九は、すぐには答えなかった。
加夏子は息を止め、電話から声がするのを待っていた。
「…君にはまだ治療が必要だ」
「えっ?」
「だがそれは、病院では出来ない類いのものかも知れない。いいだろう、行きなさい」
あの子を連れ去ったのは、衣笠君だよ
九十九の声は、どこかむなしさを含んでいた。
(続く)




