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第六十八章

第六十八章


 恒彦はハッキリと見た。


 仰臥した殉の手首の辺りが急激に変色しドス黒い痣が浮かび上がってくるのを。

剛力で握り締められたように、痣は指の一本々々まではっきり判る人の手の形をしていた。

「これは…」


 はふぅっ


 反りかえった殉が、肺の空気を吐き出す音を口から漏らすとバッタリとベットに沈み動かなくなる。


 ガタンッ!


 前のめりに倒れ込んだ加夏子が車椅子から床へと崩れ落ちた。


 「カナちゃん!」

紗季子が血相を変えて加夏子を抱き起こす。

「あなた!カナちゃんが、カナちゃんが!!」

恒彦は殉の脇から飛び降り娘のそばへ駆け寄った。

彼女の右手は何かを握った形のまま硬直している。

「息を…してないぞ!」

「そんな…どうすれば…カナちゃああんっ!!」

「落ち着け!人工呼吸…心臓マッサージ…とにかく何でもやるんだ!お前は救急車を早くっ!!」

言うなり恒彦は、紗季子の腕の中から加夏子をひっぺがし、床に横たえるとマウスツーマウスで人工呼吸を始めた。


 吹き込む。離す。また息を吹き込む。


 チラリと横目で見上げると、狼狽しきった紗季子は呆然と立ち尽くしていた。


 「電話だサキィィィー!!!」


 恒彦の、家をも揺るがす大喝に我を取り戻した紗季子は、狭い階段を駆け降りた。

和服の裾が足に絡まり、転んだ紗季子は数段を残して階段を真っ逆さまに落ちてしまった。


 …短い間だが、気絶していたようだ。

紗季子は壁に手をついて起きあがろうとした。

頭が酷く痛む。額に手を当てると真っ赤に染まっていた。転落した時ぶつけたらしい。


 ピンポーン


 ドアチャイムが鳴った。

紗季子は立ち上がった。鉄芯を脳天から打ち込まれるような痛みに唇を噛んで堪えながら、ヨロヨロと玄関へ向かい鍵を開ける。


 銀さんが立っていた。

右手にAEDを、左肩には救急キットのバッグを下げた銀さんは目を見開いて目前の女を見つめた。

「サキ…おまえ…」

「くが…さん…カナが…」

すっと倒れ込む紗季子の小柄な身体を、銀さんの太い腕がガッシリと支えた。

「おい!しっかりしろ!二人はどこだ?!」

「…かい…二階に…息、してないの…お願い…はやく…」


 銀さんは物も言わず、紗季子を横抱きにすると階段を駆け登った。


(続く)

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