第六十七章
第六十七章
「待ってるひとがいる、帰る家がある、君にはあるんだよ!居場所が…君が居てもいい場所がちゃんとあるんだっ!」
激高しそうになる声を必死に抑えつけながら、殉は加夏子に向かい言葉をぶつけ続けた。
「今までがなんだっていうんだ?君はちゃんと生き続けてきたじゃないか。いろんな事があって、ペシャンコに押し潰されそうになっても、君は君のままで今までやってきたんじゃないか。初めて会ったあの日…君は坂道が登れなくて困ってた。嫌になってた。でも今みたいに投げやりじゃなかった!僕が手を貸したのは偶然なんかじゃない、君が自分の”声”で呼んだんだ!一緒に坂道を進んでくれる誰かを!!」
殉は必死だった。
ここで加夏子を連れて帰れなければ、彼女の人格は確実に崩壊してしまう。
生を…生の営みを、そこに生じる他者との交わりを否定し、拒否し、この無味乾燥な世界に閉じこもるというのなら、現実世界での彼女の居場所は廃人専用のホスピスか、良くて精神病院の隔離病棟でしかない。
いけないんだ
こんな所にいちゃいけない
絶対にダメだ!
「カナちゃん、かえろう。みんなの所へ。大丈夫だから」
「…嫌。あそこには何も無い。あるのは苦しみだけ…奪われた絆だけ。もういいから帰って…一人で帰って。かえってよぉぉぉー!!」
全ての景色が、ミイラのように色褪せ朽ちてゆく。
草木は枯れ、建物は轟音と共に崩れ落ちてゆく。
地震のような地鳴りが響き、大地は滅茶苦茶に裂けてゆく。
”内面世界の崩壊”と呼ぶにふさわしい壮絶な破壊が起きていた。
立っている事すら出来ず、殉は這いずりながら加夏子に手を伸ばした。
パックリと地面が口を開ける。
轟という響きと共に、加夏子の小さな身体が亀裂の奥へと落ちていった。
くそぉぉぉ〜!!
殉はジャンプして加夏子の腕を掴んだ。
ダラリとぶら下がった加夏子。
視線は亀裂の奥、深淵を覗き込んだまま動かない。
「帰るんだ…みんなが…ボクがキミを待ってるんだ!いっちゃダメだ!カナちゃん、キミが好きなんだ!!」
帰るぞぉー!!
かなぁぁぁぁぁー!!!
ピクリと加夏子の身体が動いた。
じゅん
(続く)