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第五十八章

  第五十八章


 バッキャアアアアーン!!!


 ガラスの砕け散る音が夜の住宅街に響き渡った。


 「あなたっ!」

 紗季子が叫ぶ。

 恒彦の巨体がソファをに蹴り飛ばし、階段を踏み抜く勢いで二階へ駆け上がった。

 ドアノブをわしづかみにして一気に部屋へ飛び込もうとした、その時…


 「いいよ、やれよ! 遠慮しないでぶつけろよ! ちゃんと見えてるよな、覗き屋のボクなんかと違って姿も形も見えるんだろう?! やれよ!!」

 ドア越しに聞こえてきた殉の罵声が、彼の手を止めた。

 薄く開いた隙間から中の様子を伺う。

 死角にいる二人の姿は見えなかったが、糸を張りつめたような緊迫感が漂ってきた。


 もう1度、今度は陶器の割れるような音が響き、部屋の壁から飛び散った破片が恒彦の足下にも飛んできた。

 淡い空色の欠片… 加夏子のお気に入りのペン立ての無惨な姿であった。


 「どうした? どうしてぶつけないんだ、僕にはよけられないんだぞ。僕が憎いんだろ? 君を汚した僕が憎くてしょうがないんだろ! 僕はここにいるぞ!!」


 ガシャン! ガシャンッ!!


 車椅子のぶつかる音。

 くぐもった殉の呻き声。

 もう限界だ、止めねば。


 「わからない! わからないんだよぉ!! アタシなんにも覚えてないんだ、でもアンタがいるとキモいんだ! ムカついて自分が止められないんだ! …何とかして…なんとかしろよぉー! 助けろよぉぉぉ!!」


 ドアを開けると、殉の胸ぐらを両手で握りしめ、鳩尾の辺りに額を埋めた加夏子が叫びながら泣いていた。

 「カナちゃん… 君の言う通りだ、みんな僕がいけないんだ。話してあげる、あの時僕が何を見て、君になにがあったのか…」


 殉がゆっくりとこちらを振り向いた。

 瞬かない青い瞳から一筋、透明なしずくが滑り落ちるのを恒彦は見た。

 彼はそっとドアを閉め、部屋を後にした。


 階段の途中で心配そうに二階を見上げていた紗季子に、恒彦は声を掛けた。

 「任そう、彼に。大丈夫だよ… きっと」


 紗季子が小さく頷いた。


  (続く)

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