第五十二章
第五十二章
「そういう訳で、彼女には大事な役目を担ってもらっています。少なくとも私達二人の利害は一致している。貴方はどうですか? 久我銀次さん」
ズンと斬り込む重さで、九十九が問いかけた。
「俺はあの二人にとって一番いい結果を出してやりたい、それだけだ」
「なら問題無い、一緒にやりましょう」
「断る」
「ほう、何故?」
九十九の口の端がクイッと釣り上がった。
「先生、あんたにとって今が戦争だというのは判る。精神科の医者だからな。でも俺はトレーナーだ、心って奴が切った貼ったで何とか出来るとは思っちゃいない。あの二人は自分達で答えをださなきゃならない。そういう定めなんだ」
「定め…ですか。えらく芝居がかってますね」
「そんなんじゃねぇ、そんな生易しいもんじゃねぇんだ! あいつらはなぁ!!…」
そこから先を、銀さんは言う事が出来なかった。
言えば殉も加夏子も、今とは違う嵐の中に巻き込まれてしまうから。
「久我さん。彼女と堀川君を私達の監視下で引き会わせます。万が一、彼のサイコダイブが前回のように彼女の深層意識に障害を与えそうになったとしても、コントロールされた環境にあれば被害は最小限に抑えられる。彼女の心の障壁を突破する、これはまたとないチャンスです。この事は決定事項として了承願いますよ」
「しかし…」
「堀川君が一時帰宅から戻り次第、とりかかるつもりです。協力するしないは御自由にして頂いて結構。でも何も出来ず悩みを抱えるよりは、私達と一緒にやった方がよほどいい結果を残せると思いますがね」
こいつ、俺まで見張っていたのか
この分じゃエミちゃんの事情も何もかも、全部知った上で仲間にしたんだろうな
「…好きにしたらいい。その時がきたら考えるさ」
「いいでしょう。では後程、戦場で」
二人に背を向けた九十九は、ゆっくりと廊下を遠ざかっていった。
「ワザと、だ」
「え?」
「眼鏡を割って俺の気を殺いだ。恐ろしくケンカ慣れしてやがる。一体どういう男なんだ?」
「…」
「いいぜ、エミちゃん。迷うなら迷えよ。自分のやらなきゃならない事が何なのか、よく考えな。俺は自分に出来る事をやる」
「銀さん…」
三日後の朝、殉は一時帰宅していった。
(続く)