第四十二章
第四十二章
銀さんの“声”が聞こえた。
昼休み
病院裏の雑木林
通用口から小道が続いてる
話したい事があるんだ
来てくれ
ここは小児病棟。
トレーニング室は敷地の反対側にある。銀さんはそこに居る筈だ。
随分と離れているが、殉の能力を知った上で、よほど強く“叫んで”いるようであった。 繰り返し繰り返し、野太いダミ声が殉の脳裏に響き渡る。
こちらから返事は出来ないから仕方ない事ではあるが、幾度も続く木霊のような声に、彼は少し閉口していた。
トランシーバーじゃないんだから、後で話しに来てくれればいいのに…
ひとしきり“声”は続き、やがてピタリと聞こえなくなった。
後にはノイズのような種々雑多な呟きが聞こえてくるだけ。
他愛ないお喋りを続ける殉の顔に、僅かな憂いの表情が浮かんできたのに気付く子供はいなかった。
普通じゃなかった、さっきの“声”は
訴えるような…誰にも聞かれたくないような…切実な想いに彩られた“声”
何かあったんだ、きっと
殉は抱えていた子供をそっと降ろすと、ちょっとだけ微笑んで病室を出ようとした。
その時だった。
「(おじちゃん、おにいちゃんを呼んでたんだよ! あんなにおっきな声で! 聞こえてたんでしょ? おにいちゃんの声もちゃんと聞こえたもん!)」
女の子の声がキンキンと頭の中に鳴り響いた。
ドキリとして思わず振り返る。盲目の殉にはその子の顔など判る筈も無いのだが、反射的に振り返ってしまったのだ。
「ウチだよ。おにいちゃん」
今度は生身の声が聞こえた。
下の方から、柔らかな小さい手が殉の右手を引っ張った。
「君は…」
「やだなぁ、さっき一緒に折り紙したよ」
「確か…碧…ちゃん?」
「うん、みーちゃんでイイよ♪」
少しずつ、少しずつ胸が熱くなってくる。
殉にとって初めての、同じ力を持つ者との出会いであった。
(続く)