第二章
第二章
ブルーアイがふたつ、彼女のほうへ向けられていた。
彫りの深い東洋系の顔立ちの中で、その目だけが明らかに異質であった。
ハーフ?…
「(あなた、誰?)」
聞こえる筈の無い問いを発しながら、彼女は奇妙な違和感を感じていた。
暖かな波動を放つその目は、こちらへ向けられてはいても彼女を“視て”はいなかった。 焦点は彼女を素通りし、何処か知らぬ遥か彼方へと結ばれていた。
「(もしかしたら…)」
次の瞬間、彼女は心臓がとび出る程驚いた。
「ウン、そうだよ。見えないんだ」
彼が答えたのだ。心の声に。
「(○×△□☆ッ!!…)」
小さな体のちいさな心臓が、破裂せんばかりにバクバクと鳴り響く。
あまりの動揺に、危うく歩けない事を忘れて車椅子から走り出しそうになった彼女を彼の左手が支えた。
バランスを崩しかけた彼女の左肩を、思いがけず力強い手がしっかりと包む。
「ゴメン、驚かせるつもりじゃなかったんだ。その…困っているんじゃないかって…それでボク…」
ハッと気付き、彼は左肩に添えた手をあわてて離した。顔を真っ赤にしている。
それを見て少し鼓動の収まってきた彼女は改めて彼を見た。青いTシャツにジーンズ、スニーカーがヨレヨレだ。
うなじの髪が、風になびかずピョンと跳ねている。
「(ワタシの声、聞こえるのね)」
「そうだよ、ビックリした?」
間髪を入れず彼が答える。
「(ビックリって…それって普通じゃないよネ)」
彼女が問掛ける。
奇妙な語らいだった。傍から見れば、無表情な車椅子の少女に盲目の少年がひとり言を呟いているようにしか見えなかった。
「小さい頃から声が聞こえた。でも気がついたら誰も喋ってない… 聞こえてたのはみんなの心の声だったんだ」
「(目は?その目は何時から?)」
小首を傾げて彼女が聞く。
「産まれた時から。ボクはこの世の中を自分の目で見た事は一度もないんだ…」
「(そうなんだ)」
彼女の“声”の口調が沈む。
「キミ、可愛いのかな?」
急な言葉にまた鼓動が上がりそうになる。
「(しっ失礼ね!ナニよもう…アナタ名前は?)」
「殉。キミは?」
「(加夏子、カナでいいよ)」
不思議な出会いの始まりだった。
(続く)