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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

かつて悲劇

作者: 沈没船

やがて少年と少女は何を思うのか。



短い架空の世界の話ですが、

中世の雰囲気と、

秩序が稀薄だった時代の人類の過ちを物語にしました。


今の世の中では考えられませんが、

世界史に少し興味のある方には何かしら伝わるのかなと。


明るい話を書き始める前に暗い話を残して置こうと思いました。



1313年13月13日

快晴の日。




天秤が揺れる。

傾き、傾きもせず。



彼の名、ホル・トロース。

裁理を司る褐色の裁審判の法皇。



深く埋もれ込む椅子はギシギシギシ、カシカシギシと軋みを上げる。

病に蝕まれた彼の胸には塞ぎようの無い穴が空いていた。


法皇の名、ホル・トロース。




裁きの天秤が揺れる。

定まる事なく、ゆらりくらり、ひらりふらり。

ホル・トロースは胸の穴を両の手で塞ぎながら天秤を見つめる。

いつまでも、ゆらりくらり、ひらりふわり。



胸に開いた穴、彼の心は光を失った。


天秤を見つめる裁審判の法皇。

ホル・トロースはいつしか全てに憎しみを抱くようになっていた。

天秤を見つめる裁審判。

やがて気が触れた。


天皿を右の腕で叩き伏せて彼は言う。


『この世界の全ては有罪で在る。』




裁きが始まる。


明るい空に星座、

そして太陽の見下ろす中、

処刑された無数の魂と感情が天へと昇って渦を巻いていく。


在る憎悪、在る悲愴、在る狂気、在る憐憫。


有罪に傾いた天秤は降されたまま、

いつしか錆び付いて動かなくなっていた。




骸、骸、また骸。


吊り下げられた骸の大樹。

法皇ホル・トロースの権力の元に絞首刑は盛んに行われた。


弔われる事なく啄まれ、

千の陽に焦がされながら流す骸のその赤い雫が、

いつしか止まる事の無い赤い河川となった。





川は国境を越え、

遠く月森の奥深く、奇地獣の穴暮へと流れ注ぎ続けた。




翌年1314年13月10日

快晴。




狂気の法皇ホル・トロースは人民に裁かれた。


およそ一年、絶え間無く流れた赤き血の河川はその流れを止めた頃、

月の森に赤い泉が産まれていた。


生温かく、光沢を抱きながら艶やかに耽美な赤。



やがて赤き泉は反射する鏡の様に光沢を増した。

空を映し、太陽と星座を映し、月光を映し、

全ての光を空へと反射した。


全ての光は赤き悲愴と絶望と共に。


いつしか空は赤き泉が反射して放った黒怨の光によって、

蝕み、焦がされ、大きな黒い穴を開いた。




空に大きな穴が開いた。







かつて、四つの国があった。


法皇ホル・トロースは四つの国の血を継いだ混血の王国。

オアシスに建てられた太陽の王国の法皇ホル・トロース。



海底に沈んだ宮廷の国。

遠くの森に住む人々の国。

雨の降り止まない湿原の国。

雲に覆われた霧の国。


人々は国を棄て、一つの王国に集い四つの新たな国を建てた。



砂の風の中に建てられた新しい四つの国。

四つの国を束ねたのが混血の法皇ホル・トロース。

太陽の王国を築いた過去。




翌日1314年13月11日

相変わらずの快晴。




太陽の王国の隅に小さなスラム街。

そこは異形の孤児が集う小さなチャペル。


祝福の鐘が鳴る。


一人の聾唖、彼の名はレイテフィヒラ・ロイハー。

ロイハーは耳が聞こえない。

耳の聞こえない聾唖のロイハー。

だから何もわからない。




何もわからない聾唖のロイハーは何も恐れない。


孤児達は崇めた、何も恐れない人喰いのロイハーを。


孤児達は手足を縛った神父を吊し、

南の王子と北の農婦達を檻に詰めて燃やした。


檻の中で肉が燃える。


孤児達は狂喜し鐘を鳴らし、声を上げ、走り回り、

やがて炎が治まった頃、焼け焦げた檻の中で孤児達は肉の晩餐を始める。


だけど何もわからないロイハーは全てわかっていた。

食事を済ませ空に開いた穴を眺めながら、

誰もいない孤独の城へ帰る。




翌日1314年13月12日。

狂いそうな程の快晴。




赤い月と白い夜の混ざり合う朝方、

廃街の路地裏で隻眼の山羊が泣き始める。


河川敷で潰れた蛙が笑い出す。


森の虎は鼠達を従え街へと向かう。


かつて囚われた排水溝の老婆が言う。


もう間もなく森の賢人達が、箱舟を持って全てを浄化する、と。

空を見ろ、太陽と御目が私達を見ている。

御目が見ている、と。




褐色の人民達もまた首を跳ねられて。

殺戮と共に王宮へ歩み進むは東の白民と西の邦民の歩兵達。


黒旗を掲げを太陽の城下街を進む。

王宮へ向かう鼠達を踏み潰し、赤い歩幅で王宮を目指す。


何も知らずに赤い歩幅で。


王宮へ向かう、赤い歩幅で。





それは暗闇の日曜日。


日触の最中で月の焦げ付く昼下がり、

城下町で虎の首が三回転して体を残し宙を舞った。


やがて太陽と月が皆既する。

日触が完成する。



やがて赤き泉の反射する光線に照らされ月は割れた。

太陽の光が降り注いだ。

王宮は照らされて千年停まっていた時計が動き出した。



やがて陽が傾き、


砂漠の街を越えて来た西と東の黒旗が王宮を取り囲む頃。

空に開いた巨大な穴に、碧か翡翠の色をした巨大な瞳が現れた。


空の穴は目玉、瞳孔がぐるりと踊る。

時に瞼を上下させ、まばたきをしては見渡すように。

巨大な目玉が空から見ていた。

ただただ見ていた。


ただ見ている。


見ている。






幽閉された法皇ホル・トロースは、

裁審の元に逆さ絞首刑にかけられた。



黒旗が夕凪になびく。


照り返す日差しと長く伸びる影。

砂煙とむせ返る匂い。

侵略により殺戮された人々の血と臓物の匂い。



その頃、

両の目玉に銀の十字架の突き刺された13人の修道女が、

溢れかえる奇形の孤児達に犯されていた。

満開の花畑に置いた大きなロッキンチェアーに座らせられて、

大開きにされた足は、針金で縫うように椅子に括り付けられて。


血液と精液が飛び散り、

取り囲む錆びた有刺鉄線を赤く白く染めていく。

雫は滴り落ちては草花を潤していく。


奇形の孤児達は苗木を修道女達の膣の深くに植え付けて、

聖水を苗木に注ぎ込んみ、

孤児達は鉄のパイプを片手に狂喜して言う。

カミよお許し下さい。

狂喜して笑う。


ドシャリ、グシャリと骨格と血肉を叩く音が響く。

純心と笑い声の中。




翌日1314年13月13日。

やはり疑いようのない快晴。


奇形の孤児達が神に許しを請うた翌朝、

教会の花畑に13の原形を失って潰れたロッキンチェアーの頭蓋に、

青く美しいエイズの花が咲いていた。


その頃、

太陽の王国を侵略した兵士達は返り血で染まった黒い旗を王宮に掲げた。



隻眼の山羊は笑っていた。

潰れた蛙は笑っていた。


虎の首は笑っていた。


踏み潰された鼠達は笑っていた。


遠く、北の孤独の城で聾唖のロイハーは泣いていた。




橙の日暮れ。

斜陽を抱いて遠く太陽の王国のシルエットが浮かぶ。

砂の風と夕闇が滲み寄り、雲を紫に染めていた。


太陽の王国から遠く離れたオアシスは波打つ水面に虹色のプリズムを揺らす。


少年は少女と手を繋ぎ、座り込んで水に足を浸けていた。


やがて陽は落ち、深緑が闇に沈む頃、

二人は千の星空の下で汚れなき笑顔と寝息をたてる。


空には割れた月の代わりに目玉が浮かんでいた。

赤く瞳を滲ませながら。




その夜、

目玉は赤き雫となり地へ落ちた。


雫は太陽の王宮と大地を赤く染め、全ての生命を赤く染め、

そして赤く染まった全てが燃え上がった。



絶命していく全ての命が悲鳴を怒号を、

断末魔の発狂を響かせた。


やがて空は目玉の穴から太陽が光線を地上に降り注ぎ照ら始めた。

穴から高密度の紫外線粒子のフレアは降り注ぎ、

焦がしていく、焦げていく、燃え尽きて、

生に焦がれる全てを焼き焦がしていく。


悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、

やがて静寂に。




2012年13月14日の朝。

満開の星空と星座の海。


裁きは完成した。


太陽の王国は容赦なく照り付ける陽射しの元に滅び、

全てが、景色が、ただ黒く大きな一つの塊となり、やがて塊は宙へと浮かび、

球体となって天高く昇っていった。






遠く離れたオアシス、

少年と少女それを眺めていた。

繋いだ手を離さずに、強く握りしめ合ったまま。


ただ眺めていた。




そして少年は言った。

僕達が新しい、本当の太陽の王国を作ろう。


少女は何も言わず、

少年の手を強く握り返し、

静かにうなずいた。





-fin-




哲学の教科書や、世界史の教科書。

または逸話や映画。


魔女狩り、異端尋問、免罪符、政略結婚とか。

過去を開けば人類の歴史はよっぽどサブカルじみていて。



現代は現代で狂った事件や社会の闇などもありますが、

グローバル化したこれからの時代を生きる僕らはどんな歴史の一部を生きるのか。


願わくは、清く正しい時代の1ページでありたいと思いながら。



では、短い話でしたがありがとうございました。


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