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スタイリッシュざまぁ  作者: Aska
本編
1/22

第一話 愛される姉を持った妹の結果




「これは、……なんて面白い展開なの」


 ルルリア・エンバースは、とある貴族の家の次女である。彼女は現在、藪の中に潜み、目の前の光景をにやにやと眺めていた。十六歳の少女が行っている奇行と表情を見れば、誰もが確実に引くだろう。


 ルルリアの髪や眼は、この国ならどこにでもいるような栗色の色彩。容姿はまぁまぁ整っている方だが、振り返るほどの美人ではない。次女という立場を含め、なんとも中途半端な感じだと彼女は思う。だが、彼女はこの立ち位置に非常に満足していた。


「さすがはお姉様。参考になるわ。男の落とし方を学ぶには、これ以上ないほどの逸材よね」


 彼女が藪の中に隠れている理由は、目の前で自分の姉が繰り広げている恋愛模様を見るためである。ルルリアと違い、輝くような黄金の髪とマリンブルーの瞳。美人として有名な母にそっくりな姉。妹の彼女と本当に血がつながっているのか、と問いかけたくなるほどにこの姉妹は似ていなかった。


 会話や表情、ボディータッチを含め、男を捕らえる手腕は歴戦の風格を感じさせる。嫌悪や呆れよりも、もはやそこまで極めたのなら何も言うことはないよ、ぐらいの悟り状態である。話のダシとして、さりげなくルルリアを落とす発言や身に覚えのない行為を言葉巧みに押し付けている姿だって、いつものこととしか思わなくなった。



「それにしても、私の婚約者にもがっかりだわ。密会の場所ぐらい、もう少し他になかったのかしら。しっぽを出すのが早過ぎ」


 自身の姉を抱きしめている婚約者を、ルルリアは呆れたようにただ見つめる。彼の姉への態度を見ていれば、いつかこうなることはわかっていた。悲しい気持ちになるかな、と思っていたが全く堪えていない。彼にも呆れたが、むしろ自分の感情に一番呆れた。


 十五歳の時に出会った彼とは、婚約者という立ち位置ながら友人のような関係であった。挨拶をして、会話をして、たまに勉強を見てもらって。それなりの付き合いをしていたというのに、心に響かない。妹の評価を話す姉の言葉を、否定せずにうなずいている姿を見ても、傷一つつかない。


 嫌な慣れだなー、とルルリアは自嘲気味に笑った。そして自分は、どれだけ表面的な付き合いしかしていなかったのだろうと感じる。真剣に向き合っていたら、もしかしたら涙ぐらい流れてくれたのだろうか。婚約者はずっと自分と一緒にいてくれたのだろうか。


 そんなふと思い浮かんだ感傷的な考えを――ルルリアは堂々と鼻で嗤った。知ったことじゃない。


「面の皮が厚いところは、血筋なのかしらね」


 ルルリアの父親も母親も姉も、みんな整った顔立ちをしているのに、その妹のルルリアは美貌を受け継がなかった。それに彼女の父親は、本当に自分との間にできた子なのかと母親に詰め寄ったほどだ。母としても、そんな疑いをかけられたことが心外だったのだろう。


 おかげでルルリアは、両親からほとんど見放されてしまった。一つ違いである姉のカレリアに全ての愛情が注がれ、おまけ程度の扱いをルルリアはされたのだ。かわいらしい服も、新しいおもちゃも、何もかも姉が優先だった。彼女が受け取るものは、古いものばかり。食事は使用人に任され、六歳からは自室に一人で食べるようにされた。


 両親から冷遇される妹は、お姫様だった姉にとっていい奴隷だったのだろう。何もかも持っている自分と、何も持っていない妹。カレリアにとって、これほどまでに見下せる存在は他にいなかった。自分の失敗をルルリアに押し付けるのは日常茶飯事。面倒なことも押し付け、命令する。妹などと、思ったことすらなかっただろう。


 そんな風に、幼い頃から苦しい生活を強いられてきたルルリアは――見事にグレたのだった。



「だいたい、顔とかどうしろって言うのよ。文句があるなら、自分たちの顔の遺伝レベルの低さを恨みなさい。姉で全部使い切りやがって」


 彼女だって頑張ったのだ。勉学もマナーも、貴族の子女として学ぶために色々と努力をした。様々な本だって読んだ。幼子であったルルリアは、愛情をもらうために必死になって取り組んだのだ。それなのに、認めてくれなかった。姉ばかりを褒める。だから一人ぼっちで夕食を取ったあの日、……ルルリアは六歳でグレた。


 彼女の即断を褒めるべきか、もう少し頑張ろうよ、と言うべきなのかはわからないが、ルルリアの我慢は六歳が限界だったのだ。ふざけんなよ、こいつらー! と取られた大事な人形を七歳の姉が楽しそうに振り回しているのを見て、それに微笑む両親を見て、ルルリアは決意した。


 彼女のお気に入りの絵本は、王子様と虐げられてきた身分違いの娘によるお話である。簡単に言うと、シンデレラストーリーだった。幼子向けにかかれた絵本だが、ルルリアはこれを何度も読み返したのだ。燃えるような恋に? 王子様と言う憧れに? 健気な娘への感動に? どれも違う。彼女が大好きだったのは、悔しがる周囲の反応だった。


 冷遇していた娘が、まさかの王妃になってしまい、立場が逆転して媚び諂う両親の反応に。いじめていた姉が、恋した王子に失恋し、虐げていた妹に奪われる様に。劣っていると思っていた娘に、悔しがる周囲の表情に。ルルリアは、頬を赤らめて興奮した。


 何この、私の人生をバラ色にするためのバイブルはっ! と絵本制作者から猛抗議を受けそうな感想を抱きながら、ルルリアは何度も読み返したのだ。にやにやと何よりも嬉しそうに絵本を読む六歳児。たまたま通りかかったメイドが、寒気で思わず全力逃走をはかるぐらいだった。


 はっきり言えば、ルルリアは性格が悪かった。むしろこの家庭環境で、物語みたいに性格が良く育つ方がおかしいのよ、と彼女は悪びれもなく言うだろう。彼女の目標は、10年経った今も変わらない。


 一途なまでに目標を目指す彼女の姿は、言葉だけ取れば健気な少女だろう。ルルリアは姉と一緒にいる婚約者の様子をメモし、彼らの会話を一語一句逃さずに書く。栗色の目は鋭く爛々と光り、彼女の気迫は歴戦の戦士ですら怯ませるだろう。それほどまでに、ルルリアは本気だった。


 彼女は、ただの貴族の子女ではない。ただの次女ではない。ただの哀れな小娘ではない。



「くくくくっ。待っていなさい、私を見下す者どもよ。このルルリアが、あなたたちを絶望の底へと導いてあげるわ。……私の清々しい『ざまぁ!』のためにねッ!!」


 ただの魔王だった。



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