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愛し子 10

挿絵(By みてみん)


泣きじゃくる「山の神」が愛おしく、僕は彼を精一杯抱きしめた。

「山の神」の背丈はまた僕の肩ほどしかなかったけれど、彼の精神は僕よりもずっと神々しく輝き、僕を希望に導いてくれる気がした。

彼は、自分の名を「山野神也」と自ら名付けた。


「神也」

漢字こそ違えども、その響きは、僕の心の一番大切な場所に居る、あの人…「伸弥さん」と、同じだった。

この導きをなんと言おう。


偶然?奇跡?運命?


いや、僕がふたりに出会えたのが運命であっても、彼らを愛したのは、僕の切なる欲求だった。

愛すると言う事は、生きていく糧になる。それがどんなに苦しくとも…。

僕は、愛することを捨てない。



愛し子 10



「山の神」の役目を終えた神也くんは、それまでの慣習と同じく、神官たちの手により人柱として土に埋められていた。

そして、なんとか神也くんを助けた僕は、トウキョウの咲耶さんに助けを求めた。


国際情報機関、ニッポントウキョウ支部で働く此花咲耶さんは、幼い頃、僕のアルト(魔法使い)としての資質を見つけ、そして、サマシティの天の王学園へ送り出してくれた恩人である。

僕より十歳年上だが、東洋美人的な見かけよりも若く見えるかわいい女性で、支部長という立派な指揮官でもある。


前もって、神也くんのこれからの事を咲耶さんに相談していたのだが、ある程度の学力をトウキョウの施設で学び、それから「天の王」へ行く方がより良い選択だろうと、僕の意見と一致していたのも心強かった。

神也くんが、ひととおりの学問を身に着けるまでには、少なくとも半年は必要だろうと、僕らは予想した。


「神也君のことは、こちらで任されても良いけれど、その間、スバル君はどうするの?天の王の仕事は大丈夫?」

「ええ、許可は取っているし、神也くんをひとりにするのは無責任でしょ?僕は親代わりみたいなものだし…」

「あら、恋人にする気じゃなかったの?」

思ったことをはっきりと口に出すのも、咲耶さんの良い性格なのだろうが、少しは僕の立場も考えてもらいたいものだ。

そんなデリケートな質問、答えにくい。


「恋人にするとか…僕の一存では決めれないし、神也くんはまだ十二歳だから…。それも普通の十二の子とは違って、彼の場合、人とのコミュニケーションの経験が少ないわけだし…」

「なに?まだ子供だから手が出せないって?…スバル君って、気が利かないっていうか、能天気というか~。君が子供って思っていても、神也君はあっという間に大人になっちゃうわよ。あの子だって、今はスバル君しか見えてないかもしれないけれど、他の人に目移りしたり、横取りされちゃうかもよ」

「…」

そう言われると…心配になる。


確かに、あの子は生まれたてのヒナのようなもので、目を開けたばかりのあの子の前に偶然に居た奴が僕であり、親の様に懐いているだけなのかもしれないのだ。

だけど、僕が求める「愛する者同士」には、まだまだ遠い気がする。

だからこそ、僕もせっぱつまって彼を性的なものを求めたくないし、自制している。

だからって、何もせずに彼を他人に取られては元も子もない。


「咲耶さんに言われなくても…わかってます。僕があの子を守るって約束したんだし…」

「じゃあ、さっさと神也君とセックスすることね。そうすりゃあの子も大人の自覚を持ってくれるだろうし…」

「…」

なんというか…咲耶さんの方が天の王のスタッフに向いているんじゃないだろうか…。



咲耶さんからの助言は一応聞いたものの、僕は神也くんをすぐに抱く気にはならなかった。

ひとつのベッドにふたりで寝ることは多かったし、神也くんは僕の腕に抱かれて寝たがっていた。

彼は、母親も父親も知らない、今まで一度も誰からも抱いてもらったことのない少年だった。

人のぬくもりを僕の腕の中で初めて味わっている神也くんに、今はただ安らぎを与えたかった。



「スバルはわたしを何時抱くのだ?」

と、ある日、唐突に神也くんは尋ねた。

「え?だ、抱くって?」

「セックスだ。お互いが裸になって、くちづけをして、受け身と攻め体があり、それで攻める方が受ける方を犯すのだ」

「…誰から聞いたの?」

「色々な人たちだ。お互いが好きあっていたら、セックスするものだと、言われた。それを求めないのは、愛し合っていない証拠だとも。わたしはスバルを愛している。だからセックスをしたいのだ。スバルはそうではないのか?わたしとセックスをするのは嫌か?」

「…」

なんと答えればいいのか、悩むには悩んだけれど、有耶無耶に誤魔化すのも愛がないみたいに思われても嫌だ。それに神也くんは、嘘を見抜く体質だ。


問題はそこにある。

神也くんには、僕ら「天の王」が求めるアルト(魔術師)の資質は今のところ、見つかっていない。

しかしながら、何の魔力も持っていないイルトとも違い、彼の勘の良さや、集中した時の透視能力などは、計り知れぬものがあった。


一般に魔力とは、生まれ持った能力であり、それが身体の成長の様に、魔力が育ったり、強まったり、多様な魔法を使えるようになるものではなかった。

魔法使いとは、生まれた時にその能力が決まっているものなのだ。

それを自覚する時期が、第二次性徴期に現れるのだ。


十二歳の神也くんの身体に、第二次性徴の顕著な発現はまだ見当たらない。だとすれば、まだ彼に性を求めるのは時期尚早なのではないのか。


僕はわかりやすく神也くんに説明した。

愛していることと、セックスをすることは、同じではなく、お互いが愛を育てていれば、身体の成長と共に、性欲も育つのだ、と。

彼は少し不満そうに「それはいつだ?いくつになったら、わたしはスバルと結ばれるのだ?」と、責められ、僕は仕方なしに答えた。

「あのね、神也くん。周りから見れば僕も初体験は遅くてさ、十五の時なんだ。だから、まあ、それくらいになったら、自然と欲情しちゃうからさ。そしたらしよう」

なんというか、間抜けな答えだったが、神也くんは「わかった。じゃあ、あと三年待てばいいのだな。それまで色々と勉強しておこう」と、前向きなのかなんだかわからないが、納得してくれたのだった。


そんなこんなで、神也くんは咲耶さんや僕が思うよりも早く、一連の一般教養を習得し、三か月で「天の王」に行く準備ができてしまった。

「神也君は努力家だね。本当によく勉強を頑張ったわね」と、咲耶さんが褒める。

「わたしも驚いている。こんなに知らないことが大量にあったとは…。世間知らずとは、わたしのような者をいうのだな」

「後は、彼の地の言葉を覚えるだけだけど、それはスバル君との旅行がてらでいいわね」

「そうだな。咲耶にも色々と世話をかけたな。ありがとう」

「いいえ、神也君はすばらしい生徒だったわ。天の王に行っても、そのマイペースを忘れないでね」

「わたしはどこにいてもわたしでしかないからな」

「そうね、それは間違いないわね」

咲耶さんはカラカラと明るく笑って、僕らを見送った。


そして、僕と神也くんは東回りの船旅を楽しみにしながら、サマシティへと出航した。

途中、ユーラメリカの大陸を横断し、伸弥さんが登った渓谷や、歩いた砂漠を辿ってみた。

道すがら、僕は神也くんに伸弥さんとの思い出を語った。

神也くんは、僕の話を興味深く耳を傾けた。


「その伸弥さんという人に、わたしも会いたかったな。なんとなくだが、わたしは彼を理解できる」

「…そう…なんだ」

「うん、伸弥さんは、本当に、スバルが好きで、ずっと一緒に居たかった。ずっと生きていたかったって…そう、言っている気がする」

「…」

「伸弥さんができなかった分を、わたしは果たさなければならない。わたしはずっとスバルと生きていく。ずっとだ」


まっすぐに僕を見つめる黒い目が、今まで僕を支えてくれた伸弥さんまでをも救い上げてくれる気がした。

だが、その底知れぬ力強い眼差しは、ふと、アーシュを思いださせ、伸弥さんを偲んで泣きそうになりながらも、僕は笑いが込み上げてしまった。


ああ、きっとアーシュは、この「山野神也」を面白がるのだろう、と。






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