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愛し子 その六

挿絵(By みてみん)

6、


ジョシュアは僕たちと同じ「天の王」学園の卒業生で、卒業した後もアーシュとはずっと連絡を取り合っていたと言う。

よく見るとオリーブ色の髪に、白くてどことなくエキゾチックな顔立ちは、無為に人を惹きつけるものがある。

彼は魔法を使えないイルトだが、生まれ持った魔性で、多くのアルト(魔法使い)を惹きつけるのだと言う。

カリスマのイルトに惹かれるアルトたち…

今回のクーデターの首謀者、ハールートと彼を慕うアルトたちの構図が浮かび上がってくる。


僕が伸弥さんに惹かれた事も、そういう関係だからと、昔、言われたことがある。

僕は…本当はそんな関係なんて認めたくはない。

伸弥さんは僕にとって、アルトとイルトの惹き合う感情じゃなく、たったひとりの運命の人だった…って、信じたい。


でも、ジョシュアって人の生き方は、なんだか興味深い。

彼は世界中をあちこち飛び回る旅人で、色んな世界の景色を見てきたという。それは伸弥さんと僕が語らい、一緒に夢見た未来だったから、なんとも羨ましく感じたんだ。


「どうだい?ジョシュアはなかなか魅力的だろ?」と、アーシュは僕に言う。

「なんだよ、なかなかって。中途半端すぎじゃね?」と、苦笑するジョシュア。

「俺より劣るっていう意味だよ」

「…あいかわらずだな…魔王さまは」

「さあ、行こうか。トゥエのところへ」

アーシュはジョシュアの腕から離れ、彼方の海を見つめた。


「残念だが、アーシュ。トゥエが拘束されている船は、この港から一時間ほど前に出航しちまったんだ。大型客船とまでは行かないが、敵さんは五十と言わず、それにピストルやライフルやら、魔法使いどもが大勢いるくせに、ぶっそうなもんも持っていやがる。今からじゃ、船を借りて追いかけるにしても、シロウトじゃ船も動かせないし、夜も更けて、危険だ」

「おうおう、ジョシュア。俺を誰だと思っていらっしゃる?魔術師界の類稀なる大魔王アスタロト様だぜ」

「…自分で言うな。こっちが恥ずかしいわ」

「ついでに神さまも兼用しちまってる俺に、できねえことはないっ!さあ、君たち、俺の腕に掴まりたまえよ!」

「「え?」」

「飛んで、その船に追いついてやるからさ」

「「はあ?」」

目を丸くしながらも、僕とジョシュアはアーシュの両方の腕をそれぞれに掴んだ。それを確かめたアーシュは、全く力も入れずに、その場から空中に飛び上がったのだ。


「うわあ~」

ゆっくりと港の景色が小さくなっていく。

強い魔力を持つアルトが空を飛べる魔法が使えるってことは知っていたけれど、僕は試したことがなかったから、空中浮遊は初体験だった。

横を見ると、黙ったままのジョシュアは少し青ざめた顔で歯を食いしばっていた。

なんだか変に可笑しかったから、思わず笑ったら、ものすごく睨まれてしまった。


ふわふわ飛んでいるはずなのに、海を航行する船にたちまちのうちに近づき、その甲板に僕達三人は降り立った。

「この船で間違いない?ジョシュア」

「…あ?…ああ」

「なんだよ。君、顔色悪いぜ。ジョシュアは高所恐怖症だったのか?」

「バカ言えっ!ちょ、っと、寒かっただけだ!」

「確かにね…ここ、寒いよねえ~。そんなあったかそうな皮のトレンチコート着てても、凍えるよねえ~」と、アーシュはせせら笑っている。

そういうところ、ホントに性格が悪いんだよなあ~、アーシュは。


「で、トゥエの居る場所は大体ここらへんだと思うけれど…」

ジョシュアはポケットから紙切れを出し、僕たちに見せた。船の内部のあらましが書かれ、ひとつの部屋に赤く丸が付けてある。

「OK。じゃあ、そこへ行こう]

「行こうって…このまま?ワープしないの?」

こういう時の為に、携帯魔方陣があるんじゃないの?僕はあわてて聞いたけれど、アーシュはお構いなしに「どうせ結界が張り巡らされて、ワープしたら逆に警戒されるよ。こういう時は逆にお客さま気分で、堂々としてろよ。まあ、俺が居るから危険はないから安心しろって」

「…」

マジで?疑ってしまう僕だったけれど、隣りのジョシュアが呟いた一言でもっと不安になった。

「安心できねえのがアーシュなんだよなあ。場当たりもいいとこでさ。おまえの計画でロクな目に会わなかった試しがない」

「…」

…やっぱりこんなところに来なきゃよかった…

後悔しても遅いから、僕はふたりの後に遅れないように、平常心を振り絞りながら付いていった。


ライフルを持った数人の兵士にすれ違ったけれど、彼らは僕らをチラリと見るだけで、何故か銃口を向けたりはしなかった。

時折アーシュが道でも聞くみたいに、話しかけ、にこやかに笑っていたりもする。

…トゥエを取り返しに来た…なんて思ってもいないんだろうか。

それをアーシュに聞いてみたら、「この船に自分たちの敵が乗船してるなんて思ってないからね。それに、俺、人から好かれるタチだし~」

などと、暢気に鼻歌を歌いながら、階段を降りていく。


明らかに…三か月前のアーシュとは違っている。

お伽話みたいだと笑っていたけれど…もしかしたら、本当にこの星の遥か遠いクナーアンって世界の神さまになって、すごい魔力を得てしまったのかもしれない…。


階段を降りたところで、アーシュは僕らに小声で話しかけた。

「あの部屋にトゥエが閉じ込められてるらしい。俺、ちょっと話しつけてくるからここで待っててよ」

「え?」

そう言うと、アーシュはドアの前に立つライフルを持ったごつい黒人男に近づいて行った。

追いかけようとする僕を、ジョシュアが襟を掴んで止めた。

「じっとしてろ。アーシュに何かあったら、俺が仕留める…」

ジョシュアは片手をコートに入れたまま、緊張した眼差しでアーシュの一挙手一投足を見つめていた。


アーシュの姿を見つけた兵士は、ライフルを身構えたが、アーシュはそれに怖れるふうもなく、彼に近づくと親しげに話しかけている。

話しの内容はわからないけれど、アーシュよりも上背のあるベレー帽をかぶった男は、アーシュを怪我な顔つきで見下ろし、黙って聞いている風だった。

その男が二、三言話し、頷くと、アーシュはこちらを振り返って僕らを手で招いた。

僕らが走って近づくと、兵士は黙ってドアの鍵を開けてくれた。


「ありがとう。ジョージ。恩に着るよ」

「別に…オレも年寄りを監禁なんてセコいマネは好きじゃねえんだ。まあ、後は知らねえけどな」

「充分助かったよ。無益な血は見たくないしね。これから先、もし、なにか俺に用事がある時は、サマシティに来いよ。力になるから」

「…」

男は苦笑を浮かべ、手を振ると、その場から去って行った。


「ア、アーシュ、ど、どうやって仲よくなったの?」

僕はあわててアーシュに聞いた。

アーシュは「別に…。奴の名前を呼んで、母親がどこに居るのか教えてあげただけだよ。彼がもっとも知りたいことみたいだったからね」と、平然と答えた。

「…そ、そんなこと、わかるの?それとも、アーシュの知ってる人?」

「今、初めて出会ったけれど、俺の特技というか…そういうのがわかっちゃう能力が身に付いたんだよ。まあ、必要な時だけしか使わないけどさ」

「…」

なんと凄い…というか、それ、便利かもしれない…


「さあ、行こうか」

僕たちは鍵の開いたドアを開けて、暗闇の部屋に入った。

廊下から漏れる仄かな灯りと、ジョシュアが照らしたライターの火で、なんとか辺りの様子が伺える。

「ランタンがある。これを使おう」

ジョシュアがランタンの火を点け、やっと部屋の様子が見通すことができた。

窓もない部屋の隅に、手足を縛られたトゥエが倒れていた。

僕たちはトゥエの名を呼びながら、あわてて近づいた。

ジョシュアは縛られたトゥエの縄を、持っていたナイフで解き、ぐったりとしたトゥエの身体を少しだけ抱き起こした。


「…学長、大丈夫ですか?」

トゥエの返事はなかった。が、微かな呼吸音が聞こえた。

アーシュはトゥエを抱くジョシュアの向こう側へ跪き、トゥエの手を握った。

「遅くなってすみませんでした、トゥエ。俺、無事、帰ってこれましたよ。セキレイも一緒です。あなたの言ったとおり、俺は…本物のアスタロトだった」

アーシュの言葉に、トゥエは閉じた目を少しだけ開け、そしてうっすらと微笑んだ。

「…お帰り、アーシュ…良かったよ、最後に君の顔を見られて」

「さ、最後なんて…言わないで下さい。学長…」

「ああ、スバル…君も来てくれたのかい?そうか…少し見ない間に…強くなったのだね。…それから、ジョシュア…久しぶりだね。…元気そうで良かった。…君の様子はアーシュから時々聞いていたよ。…できれば、私も色んな旅の話を聞きたかったけれどね…」

「…学長…」


トゥエ・イェタルの死期が迫っていることは、ここに居る全員が理解できた。何故こんなことになったのかと問う意味が不毛であることも…


アーシュは痛みに脂汗を掻くトゥエの額を優しく拭いながら、穏やかな声で静かに話しかけた。

「トゥエ…俺はもう人じゃなくなったんだ。向こうでは神さまになっちまってさ。まあ、ちっとばかし稀有な力が身に付いちまった。勿論、こちらではこれからも人として生き続けるつもりけれど、いつだって大好きな人の為に闘う魔力はあるのさ」

「そう…か…」

「さて、あなたをこんな目に合わせた彼らを…、あなたの教え子をどう始末したらいい?魔王アスタロトは、死にゆくあなたの命を受ける覚悟がある」

「…では…魔王アスタロトではなく、愛し子アーシュに…こいねがう。耳を…」

アーシュはトゥエの口唇に耳を近づけた。


ピエタのようなふたりの姿に、僕は…厳かな感情に打ち震えながら、じっと見守り続けた。




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