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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
妖々夢
9/41

春の雪

妖々夢編始動します!

 卯月の始め。いまだ終らない冬を感じつつ、いつも通りの巫女服を着た家の主、霊夢は居間にある炬燵に身を埋めて顔を卓袱台にくっつけていた。


「寒いな~」


 隣で同じように身を埋めているゴシックに近い黒と白の服を着ていて、傍らに黒いとんがり帽子を置いているのは魔理沙。家の中なのに手袋をしている左手の腕を擦りながら震えている。


「そうね~」


 その向かいには、先々月に異変をお越した張本人。桃色のパーティードレスに、その背中からは蝙蝠の羽を生やしている吸血鬼。レミリアが同じく身を埋めていた。その後ろにはいつも通りにメイド姿の咲夜がきちんと正座をして控えている。


「お嬢様。お茶をお持ちしましょうか?」


「う~ん。お願~い」


 咲夜の問いかけに、やる気のない返事を返すレミリア。それに便乗して魔理沙もお茶を催促する。


「しかしなんでこう毎日毎日寒いかね」


 魔理沙の疑問はもっともだった。今は暦的には春の季節。それなのに桜はおろか花も咲いておらず、しまいには雪が降るしまつ。完全に冬だ。


「さあねぇ。私はなんとなくこうなるのはわかってたけど、なんで起こしてるかまではわからないから」


「お前の未来予知でも見えないんだな」


「前に話たでしょ。だいたい見えるのよ」


 レミリアの運命読みは細部が欠けているために大まかな情報しか得られない。恐らく今回は、この季節に雪が降っていることは見えていたけど、なんで起こっているかはわからない。と言ったところだろう。


「案外使えないんだな」


「悪かったわね」


 魔理沙は卓袱台の真ん中に置かれた蜜柑の入った籠から、蜜柑を一つ取り出し剥き始める。それと同時に咲夜が台所からお茶の入った急須と人数分の湯飲みを持ってくる。ちゃっかり自分を含んでいるとこは、さすが咲夜と言ったところか。


 魔理沙は手袋をしてない手で蜜柑を剥きながら咲夜にお礼を言って湯飲みを貰い、レミリアは籠から蜜柑を取り出し咲夜に押し付ける。


「それにこれは明らかな異変だと思うけど。なんで私の時と違って直ぐに動かなかったの?」


 レミリアの問いに魔理沙は肩を竦める。


「私は独自で調査はしてたんだが、こいつがな」


 視線の先の霊夢を見る。今もレミリアたちの話を聞きながらだらけているように見える。


「またどうして?」


「わからん。巫女様の考えることは常識を越えてるからな」


 魔理沙は剥き終わった蜜柑の実を一房食べる。レミリアが溜め息を吐いたところで咲夜が蜜柑を向き終わったのか、花のように開いた蜜柑の皮の上に中身が置かれる。レミリアはその実から一房摘まみ食べる。


「一つ聞きたい」


 今まで沈黙を決めていた霊夢が喋った。この場にいる全員が霊夢に注目する。


「なんでお前らはここにいる」


 その霊夢の問いに三人はキョトンとする。同時に顔を見合わせ、満面の笑みで。


「「「霊夢の様子を見に」」」


 三人が同じタイミングで、まるで打ち合わせでもしかのごとくキッチリとそろった。それについて霊夢はイラッとする。


「まず第一に。異変解決は金のためであって金がある今はあまり乗り気ではない。次に、クライアントの指示にはだいたい従うけど、別にクライアントがいなくて企業から催促もないのなら動くのもだるい。最後に、勝手にあがって勝手に蜜柑食ってんな!」


 最後はまあどうでもよいことでも、今聞いた通り霊夢はやる気がまったくとゆうほどなくなっている。先々月起こった紅霧異変は魔理沙の予想を大きく外れ、八十万とゆう大金だった。それに加え、霊夢はレミリアからの依頼金を前払いで貰っているため。八十万を山分けしたとしても百万はくだらない額になっている。だったらわざわざ危険を冒してまで異変解決に乗り出すこともない。とゆう訳だ。


「けど霊夢。クライアントは私よ? 私が今解決して欲しいって言っているんだから、行くべきじゃない?」


「私が請け負ったのはあんたが言うもっとも危険な異変の解決よ。これの依頼じゃないでしょ?」


「……そりゃあね」


 ごもっともな反論に、レミリアは溜め息を吐き魔理沙を見る。


「魔理沙はやらないの?」


「あいにくと、私もだいたい霊夢と同意見だ」


 さらにレミリアは溜め息を吐く。そして五秒くらい考えたところで、話を切り出した。


「わかった。じゃあ私からあんたたちに依頼するわ。この異変を止めて」


「報酬は?」


 霊夢がレミリアの蜜柑から一房取り尋ねる。


「賢者の石」


「何!?」


 レミリアの言葉に反応したのは魔理沙だった。霊夢は頭に?マークを浮かべている。


「本当か……レミリア」


「私は嘘をつかない。本当よ」


 それを聞いて魔理沙は数秒間考え。


「わかった。その依頼、受けるよ」


 そう答えた。


 レミリアはそう来るのがわかっていたみたいな顔で、ニヤリと笑った。


「また随分な心変わり様ね、魔理沙」


「まあ賢者の石だからな。これは私たち魔法使いが喉から手が出るほど欲しいものなんだ」


「ふーん。でも私関係ないから」


「霊夢には咲夜を一週間貸してあげる」


 そう言われ霊夢は眉がピクリと動き、咲夜の眉もピクリと動いた。


「それは本当?」


「だから嘘はつかない。咲夜もそれでいい?」


 そう言われ、咲夜は満面の笑みで「大丈夫です」と答えた。


 咲夜の内心では、その一週間の館の管理をどうしようと考えていた。


「ふーん」


 どうやら満更でもない感じの霊夢は、咲夜を一瞥して目で大丈夫なの? と訴えかける。咲夜はまあなんとかなるでしょ、と目で訴えかける。


「最近境内の掃除を一人でするのが疲れてきてね。調度人員が欲しいと思っていたとこなのよ」


「じゃあ。交渉成立ね」


「それで。この異変を起こした張本人の目星はついてんのか?」


 魔理沙の問いかけに咲夜が、ええ、と答える。


「誰だ?」


 レミリアは一呼吸置いて、その名前を口にした。


「恐らく起こしてるのは西行寺幽々子。西行寺家の跡取り娘だ」


 その名前を聞いた瞬間。霊夢は「ゲッ」と狼狽える。


「西行寺ってあの西行寺? 見ただけで人殺しちゃうとかゆう」


「その通りよ」


「でも幽々子って先月あたりで亡くなったんじゃ?」


 魔理沙の発言に皆は?を浮かべるが、レミリアは首を横に振った。


「よくはわからないけど生きてるのよ。私が見た未来には、枯れた木を眺めている西行寺の後ろ姿が見えたの」


「……レミリアが言うなら、たぶんそうなんだろ。だとすると幽々子の相手は私か」


 魔理沙は腕を頭の後ろで組んで仰向けに倒れる。


「まあそうなるわね。魔理沙、頼んだ」


 霊夢の軽い感じに魔理沙は苦笑いをする。正直なところは戦いたくはないだろう。当主とゆうのは強いか弱いかのどっちかななのだ。そして噂によれば、西行寺幽々子は死霊を操るらしいと言われ、生半可なやつは一蹴らしい。


「まあそうなるわな。けど二人だけで乗り込むのは些か心もとない気がするが」


 魔理沙は跳ね起きて、レミリアの後ろに控えている咲夜を、口元をニヤかせながら見る。


「私にも来いって言うの?」


 飽きれ半分、諦め半分で魔理沙に尋ねる。魔理沙は笑って頷く。


「……お嬢様」


「わかってる。行ってきなさい」


「さっすがレミリア。話が早い」


 レミリアと咲夜はまた呆れる。すると咲夜が、炬燵の卓袱台に顎を乗っけて、障子の僅かに開いていた隙間を除いている霊夢に気づいた。


「どうしたの?」


「いや。珍しく参拝客だと思って」


 そう言って霊夢は障子を開けて皆に見せる。そこには確かに霊夢が言うように、妙に姿勢のいい参拝客の少女がいた。遠くからでよくはわからないが、短く切り揃えられた髪は、白とゆうかは銀色に近くカチューシャのように黒と緑のリボンをつけている。服装は灰色のコートのようなものを着て、脛まである緑色のスカートの裾には白い水玉や波のような装飾を施されていた。


「少女?」


 疑問に思うほど少女はまるで少年のような体躯をしていた。ほどよく引き締まった足は女性では珍しく、霊夢を越える程筋肉質に見える。


「でも本当に珍しいわね。こんな寂れた神社に参拝客なんて」


 咲夜失礼発言に睨みを効かせる。たが事実故に何か反論する気にはなれなかった。


「おい。帰るみたいだぞ」


 魔理沙がそう言って皆参拝客見る。参拝客は一礼を済ませ、踵を返して来た道を引き返していった。


「…………お嬢様。そう言えば、美鈴に伝言を伝えるのを忘れたので、行ってきます」


 咲夜の急な切り出しに霊夢と魔理沙は不思議に思うも、レミリアは素知らぬ顔で手であしらった。


 咲夜は一礼をして家の玄関に向かう。


「伝言ってなんだろうね?」


 霊夢は純粋な気持ちで聞くが、レミリアは少し怖い顔をして「さあね?」と言った。

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