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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
紅魔郷
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永遠に紅い幼き月

 魔理沙たちが調度フランとドンパチやっていたころ。咲夜を退かせた霊夢は、何かに導かれるようにある部屋に来ていた。


 そこは王の間とでも言えるような玉座とそれに続く道、そして玉座の後ろにはステンドグラスがあった。


 霊夢はそのステンドグラスを一瞥して、玉座に座る幼女を見る。


 桃色のパーティードレスにフランと色違いの帽子。紫に近い青色の髪に背中に生えている蝙蝠の羽。見ただけで、幼女が吸血鬼だとわかった。


 背丈の倍近くある背凭れ堂々と背中を預ける姿は圧巻で、対面しているだけで並みの人間ならば意識が飛ぶくらいの威圧感がある。


 霊夢はそれを肌で感じつつ理解した。


 こいつがこの館の主だと。


「あなたが……博麗霊夢?」


 急に名前を呼ばれ、眉をしかめる。名前など名乗った覚えもなければ、初対面だ。いくら霊夢が異変解決を生業としていても、そうそう知っていることはない。


「そうゆうあんたは、レミリア・スカーレット?」


 先ほど咲夜に教えて貰った名前を口にすると、幼女はさして驚きもせず「そうよ」と言った。


「私が吸血鬼にしてこの館の主、レミリア・スカーレットだ」


「ご丁寧にどうも。私はあんたを倒しにきた今代の博麗の巫女、博麗霊夢よ」


「知ってるよ。でも私はあなたとは戦わない。とゆうか、あなたが私とは戦えない」


 霊夢はまた眉をしかめる。正直よくわからない。これがあいつの常套句なのかもしれないが、今のレミリアの言葉は異常な気がしたのはわかった。


 まるで、全てを知っているかのような物言い。未来が見えているかのような物言い。そんな違和感。


「あんたは……何を見ているの(・・・・・)?」


 霊夢は自分で何を言っているのかはわからなかったが、反射的に出た言葉にレミリアは驚愕した。


「何を見ているの? か。こんなこと初対面で言われたのは初めてだな。私が適当に喋って理解されないことは大半なんだが……お前は面白いな」


「面白いなんて言われたのは初めてだよ。私は回りからはたいして愉快な人間じゃないと言われるから」


「いや、面白い。私から見れば愉快な人間だよ。気に入った、教えてあげる。私の能力は『運命を見る程度の能力』。簡単に言ってしまえば、未来がわかるんだ、なんとなくだが」


 未来がわかる。なるほど、咲夜が言っていた未来がわかる人の意味がわかった。


「まあだからと言って全てが全てわかる訳じゃないんだよ。ざっくりと、大まかにわかるんだ」


 抽象的な表現だったが、しかし理解はできた。もしもこれから起こるであろう全てがわかっていたとしたら、対処のしようがいくらかあったはず。例えば、美鈴にしかり咲夜にしかり、私がどんな動きをするのかあらかじめ伝わっていたら、恐らく私はここにはおらず既に死んでいたかもしれない。きっとレミリアがわかっている未来と言うのは事象のことで、これから起こる現象でしかないのだろう。だから一個人の未来の状態は把握できていても、何があってどうなったが抜けていては、対処の仕様がない。


「だけど私はそれでいいと思っている。なぜかと思う輩もいるかもしれないが、未来が全て見えてしまっては詰まらないじゃないか。私はちゃんと今を生きたいんだよ」


「未来が少しでもわかるだけで、今を生きるなんて無理だとは思うけど?」


 霊夢の疑問にたいして、レミリアは考える。


「確かに一理ある。未来がわからない普通の人間や妖怪や魔物からしたら、本当の意味で今を生きてはいないのかもしれない。未来が抽象的でもわかっていれば、嫌な未来なら回避するし良い未来なら実現させてしまう。人間の……いや、妖怪や魔物でさえ欲には勝てない。だけど私は、だからこそこう言おう。何かしたくらいで未来が簡単に変わるだなんて思うなよ」


 レミリアの凄みに、霊夢は威圧された。


「未来って言うのはそんなに単純じゃないんだよ。最悪の未来があって、それを回避するためにあらゆる手をつくしたとしても、結末って言うのは結局のところ変わらないことが多いんだ。それが必ずしも起こるようにできてはいないんだが、だがしかし殆ど、ほぼ確実な確率で起こるようにはできている。1/10000000の……違うな。もはや天文学的な数字分の一になるが、わかりやすく今は1/10000000としよう。それで、そのどちらかと言われたら、だいたい一千万のほうが選択される。


 だがしかし。希に未来を回避できる時がある。1/10000000の一が選択されることがある。それは未来が起こる過程で劇的な何かがあった時だ。私は嫌な未来を見た時は必ずそれを期待する。私の予測を越えた何かが起こるのを期待する。今回もだ」


「今回?」


 話が見えなかった。レミリアが何を言いたいのか、何を見たからこう言っているのか、未来が見えない霊夢にはわからなかった。


「そう、今回。その未来を回避するために、私があなたをここに呼んだ。あなたをスカウトするために」


 スカウト? それに今。


「もしかして、紅い霧を出して異変を起こしたのは態と?」


「頭の回転が早くて助かるよ。その通り。態とだ」


「なんで?」


 意味がわからなかった。私を呼びたきゃ態々異変なんか起こさずに、直接博麗神社に来るかすればよかっただろうに。


「なんで? と言われたら、試したかった。としか言えないわね。私はあなたの実力が知りたかった。あの異変を解決できる度量があるか確かめたかった」


「あの異変?」


 霊夢の疑問に、さも当たり前のように返す。


「これから起こる異変だよ。春の雪でもなく、神の戯れでもなく、太陽の暴走でもなく、花の異常な生態系でもなく、天候の以上気象でもなく、誰かの解放や、誰かの復活でもない。あの異変」


「……何が見えたの?」


「それは言えない。言えば混乱を招くし、私自身その変化には気づけないと思う。だから伝えない」


 レミリアの言葉に納得した訳ではなかったが、霊夢は直感的に、この話はこれ以上聞いてはいけないと思った。そして同時に、必ずその異変は自分が解決しなければいけないものだと思った。


「だけど聞くよ博麗霊夢。私の依頼を聞いてくれるか?」


「まさか敵だと思っていた奴がクライアントになるなんてね」


「私はこうなるとわかっていたよ?」


 初めから本当に争う気なんてなかったんだ。こいつにとっては、これはただの依頼だったんだ。


 霊夢は毒気が抜かれ、右手で頭をかく。少し考え、迷ったあげく。


「わかったわよ。私もなんだか放って置けないし。今はあんたをクライアントと認めるよ」


 霊夢の言葉にレミリアの顔が笑う。


「なら、あの魔法使いも交えて話をしましょう。咲夜にお茶でも淹れさせるわ」


 レミリアは立ち上がり、霊夢の横を通り過ぎ部屋を出ていく。


 魔理沙のこともわかってるのか。もしかしたら私は、とんでもない奴に目をつけられたかもね。


 霊夢は一度伸びをすると、溜め息を吐いて。


「面倒臭いことをしちゃったかな?」


 そう呟いた。

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