悪魔の妹
大図書館。フランはパチュリーと魔理沙を見ながら、いかにして殺すかを考えていた。
さっきの感じからすると、魔理沙とかゆう奴も魔法使いみたいだし。正攻法じゃ今回は殺せないか。
フランは唇を舌でペロリとすると、嬉しそうに笑った。
魔理沙はそれを見て寒気しか感じなかった。今すぐに逃げ出したい気持ちがあったが、だからといってフランから逃げられる気がしなかったし、パチュリーを一人残して去る訳にもいかなかった。
「パチュリー」
共闘を持ちかけようとしたその時、パチュリーは顔を向かずに魔理沙に手を翳した。
「ジェリーフィッシュプリンセス」
そう唱えると魔理沙を包むように水の泡が出現して、魔理沙は泡の中に。
「パチュリー!? おい! どうゆうことだよ!?」
魔理沙は力任せに内側から泡を殴るが、柔らかい感触と共に弾かれる。
魔理沙にはパチュリーの意図がまったくわからなかった。あのフランドールとかゆう奴は危険だ。二人でかかれば確実に勝てる。それなのに。
「何してんだよ!?」
魔理沙の怒号にパチュリーは優しい笑みを返す。
「あなたはお客さん。身内の問題は身内で解決するものよ」
魔理沙はポカーンと呆然する。
「大丈夫。私も魔法使いだから」
「そいつはわかってるけど。私だって魔法使いだぞ。あいつの能力なら効かないはずだ」
「確かにね。でもあの子は、それだけのアドバンテージで勝てる相手じゃないわ。本気でやらないと殺される」
それはわかってる。だがそれなら尚更共闘しない意味がわからない。
「私の力をみくびるなよ」
魔理沙の殺気の籠った発言に、パチュリーは目を丸くしたが。またクスリと笑った。
「別にみくびってなんかいないわよ。最初の一撃を防いで見せてくれた時から、あなたは強いとわかってる」
「なら……」
「ただ私の魔法は、味方がいると本気を出せない」
パチュリーの憂いを混ぜた表情に、魔理沙は思い知らされた感じだった。
私はこいつとは今会ったばかりだ、だから信用や信頼はしてない。だけどみくびっていたのは私の方だったな。相手は魔女。私なんかの三流魔法使いじゃ到底辿り着けない領域にいる人種だ。だが、だからこそ気になる。
「パチュリー」
「何?」
「お前はその力を手に入れるために、何を犠牲にしたんだ?」
聞いてはいけないこと。パチュリーもその質問をされるとは思っていなかったので、魔理沙の顔をジッと見る。
「それは……あなたも教えてくれるから、その質問をしてると取っていいのよね?」
怒りと軽蔑を込めた質問に、魔理沙はしっかりと頷く。それを見届けて、パチュリーは深い溜め息をついて頭を押さえる。
「まったく。まあ取り敢えずはそこで待機してなさい。フランを押さえたら話てあげるわ」
そう言って、魔理沙を少し離れた場所に移動させる。
「危ないからそこで見てて」
そう言ってフランに向き直る。
「お待たせ」
「ううん。別にいいよ。フランも調度パチュリーを壊す算段がついたから」
そうゆうとフランは悪魔の尻尾のような剣を出現させ、その先っぽを地面に突き立てる。
「さあ迷いなよ。恋の迷路!」
剣を中心に円を描くように紅の波状の壁が、幾重もパチュリーに迫る。
「これは……避けることはできないわね」
後ろに魔理沙がいるこの状態。もしもこの攻撃を避けたなら、魔理沙に攻撃がおよぶ。
「さすがに、それはさせないわよ」
手を前に翳し、魔方陣が展開する。
「シルバードラゴン」
陣の中心から八つの白銀に輝く竜の頭が、白い靄と残像を残しながら様々な起動を描き恐るべき速度で波状に迫る。
一つが衝突した瞬間、岩が砕けたような強力な音がし、靄だけを残し霧散する。波状はその間も形成されているが、白銀の竜はそれより早く波状を壊し、ラスト一頭がフランに当たる瞬間。
フランは剣を引き抜き竜を叩き割り、ニタ~とした顔をパチュリーに向ける。
「さすがパチュリー」
パチュリーはやれやれと思いつつ、魔理沙を気にかける。
ここいたら不味いな。早く移動しないと。
そう思ったパチュリーはその場から飛び立とうとしたが。紅の炎塊が行く手を阻む。
「これは」
「か~ご~め~か~ご~め~」
カゴメカゴメ。私を逃がさない気か。
「か~ごのな~かのと~り~は~、い~つ~い~つ~で~あ~う~、よ~あ~け~の~ば~ん~に~、つ~るとか~めがす~べった~、うしろのしょ~めんだ~あれ~」
フランは綺麗な歌声で高らかに歌っている。
パチュリーは避けたり、魔方陣の盾などで防いだりしてるが、次第に劣勢になってくる。
「不味いかな? だったら」
足元に大きな魔方陣を展開させ、パチュリーは両手を外に突きだし、体で十字を作る。
「ベリーインレイク」
水泡が魔方陣の上に幾数も出現し、パチュリーが両手を前に持ってくると、水泡から高水圧レーザーが打ち出され、炎塊を全て霧散させる。
さらにパチュリーは左腕を横に振り、一つの水泡から打ち出されたレーザーが一直線にフランを狙う。
しかしフランは口元だけニヤリと笑うと、両手を前に突きだし勢いよく握る。
「スターボウブレイク」
「しまっ!」
パチュリーの周りが幾多の星の煌めきのように輝くと、多重爆発を引き起こし辺りを硝煙が包む。
「おいおいマジかよ」
遠くから見ていた魔理沙は、今の惨状に寒気を覚えた。
あのフランとか言うやつ、いくつかスペルは見たが一つ一つが桁外れだな。あんなの一つでもくらったら一溜まりもないぞ。
だが魔理沙は心配はしていなかった。確かにスペルは強力だが、一つ一つは単調で対策するには簡単だからだ。
それをパチュリーが怠っているとは思えない。必ず防ぐ手だてを考えているはず。
硝煙が晴れると、中から大きな水泡に包まれたパチュリーが現れた。
「危ない危ない」
ジェリーフィッシュプリンセスを使ってなかったら死んでたわね。
「生きてる。ならこれ」
フランは片手を上に掲げると、掌の上に光の球体が生まれ、そこを中心に十字に紅の魔力が出現する。
「過去を刻む時計」
フランはそれをパチュリーに向けて投げる。後ろに魔理沙がいるパチュリーにとって避けるとゆう選択肢はない。
受けるしかない。
「エメラルドメガロポリス」
パチュリーが片手を前に翳し、上に振り上げる。すると前方の地面から、幅三メートルほどの翡翠色に輝く岩柱が出現する。それが十字の攻撃を防ぐ。
「じゃまだよ!」
フランは岩柱より高く飛び剣を高らかに振り上げる。深紅輝きが剣を包むと、輝きが剣から垂直に伸び、さらに大きな剣が形成された。
「レーバテイン!」
それを振り下ろすと、岩柱を切り裂きパチュリーの横に叩きつけられる。
岩柱には、切り口からまるで溶けたかのように溶岩が流れ、当たった地面は焦げて炭になっている。
「ちっ! 外した!」
フランはまたレーバテインを振り上げ、パチュリーに振り下ろそうとした。
「フランがその気なら、一瞬で終わらせるわよ」
その間パチュリーは地面に魔方陣を展開し、詠唱に入る。高速で唱えられたスペル群の文字は、パチュリーの回りを輝きながら漂い、両手を前に翳すと漂っていたスペルは両手の調度真ん中になるところに集まり、太陽のコロナのような輝きを放つ。
「ロイヤル」
パチュリーは両手を上に掲げる。
今まさに振り下ろそうとしているフランに、パチュリーはニヤリと笑い最後の一言を言おうとしたが、急に胸を締め付けるような強烈な痛みが襲った。
「ぐっ!」
こんな時に。
苦痛に顔を歪め、吐血する。発動しようとしていた魔法は消え、パチュリーは胸の服を掴む。フランは振り下ろそうとしていた手を一瞬止めるが、好機と思い振り下ろす。
その瞬間。黒いレーザーが、パチュリーの頭上を通過し、フランを包んで吹き飛ばす。
「何?」
訳がわからずレーザーが来た方向を見ると、八卦炉を構えて立っている魔理沙がいた。いつの間にか、ジェリーフィッシュプリンセスが解けている。
「あなた……」
「まあ。手を出すつもりは本当はなかったんだけど、目の前でやられるのは……気分が悪い」
パチュリーは歩くそ笑むと、八卦炉を持っている魔理沙の左手に目がいった。
「その腕……」
さっきまであったはずの人の腕ではなく、鋼でできた義手をつけていた。
「もしかして。それが代償?」
「あとで話すよ。今はこいつをどうにかするのが先だ」
魔理沙はフランが吹き飛ばされた方向を見ると、怒り狂ったフランが狂気を撒き散らしたながら叫んでいた。
「あれをくらって火傷だけとか、化物だなあいつ」
「邪魔してんじゃねぇぇぇよ!」
「邪魔するつもりはなかったんだぜ。と言っても信じてくれないか」
魔理沙は右手の人差し指を上に向け、そこから下に向ける。
「ドラゴンメテオ」
するとフランのいたところに巨大な光の柱が立ち、それが収束するとフランは気を失って倒れていた。
「以外とあっけなかったな。色々算段を考えていたんだが、無駄だったな」
魔理沙は目をぱちくりさせ、態とらしく肩をすくんで見せるので、パチュリーは疑問しか感じられなかった。
魔女である自分ですらこんなすんなりいくことはそうそうない。なのに。
「……あなた、本当にただの魔法使い?」
パチュリーの純粋な質問に魔理沙は目を丸くしたが。
「ただの魔法使いだぜ」
と言って気さくに笑ってみせた。