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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
紅魔郷
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完全で瀟洒な従者

「……迷った」


 霊夢は迷っていた。別に方向音痴な訳ではないんだが迷っていた。


「てかこの館、見た目より随分広くない? なんだか空間も妙に歪んでる気するし」


 外から見た感じはもっと小さかった。やっぱり誰かが空間を弄ってる?


 霊夢は人差し指を唇に当て、考えながら適当に廊下を歩いていく。すると。


「そんなことないわよ」


 すぐ前の曲がり角から、短く切った灰色の髪に、揉み上げ部分を両方三つ編みにし、紺色のワンピースと白いレースエプロンに白いカチューシャをしたメイドさんが現れた。


「いちようこれがこの館の広さです」


 嘘と本当を含んだような疑わしい笑みに、霊夢は苦笑いをする。


 もしかしたら、嫌なタイプに出会っちゃったかな~?


 心の中で愚痴る。霊夢は知略謀略を得意とする策士タイプの人間が苦手なのだ。理由としては、単に自分がそうゆうのに精通していないので、相手の考えがいまいち理解できないからだ。そうゆう奴等は平気で嘘をつき、相手を欺くためにプライドも捨てられる。


 会ったばかりだからまだなんとも言えないけど、こいつの笑い方、あいつにそっくりなのよね。なんていうか、胡散臭い感じが。


「先程から黙りこくって、何を考えているんですか?」


 メイドは胡散臭い笑みを崩さず、敵対心を感じさせない振る舞いをする。


「いや別に、何も考えちゃいないわよ。ただあんたが似てると思っただけ」


「誰にですか?」


「私の知り合い」


「……そうですか」


 数秒の睨み合い……いや、一方的な睨みつけにメイドは微動だにしない。


 こいつ。私と争う気は本当にないの?


 一瞬の疑問。しかし、それがまずかった。


 考え事をするとゆうことは、それだけ思考の反応が遅れるとゆうことになる。よくある話で、物思いにふけていると回りが見えなくなる現象がある。あれはいわゆる自分の世界に入っているから起こることで、それの最大の原因は、考えていることだ。


 その結果、ふとしたことの反応に普通に間に合わない。それゆえ霊夢は今、自分の首筋にナイフを突き付けられている。


「くっ」


「集中たりていませんよ?」


 コンマ一秒程の思案を付けるメイドもメイドだが、それより驚かされたのが、首にナイフを突き付けるまでの移動だ。


 まったく見えなかった。とゆうか気づいたら目の前にいた。まるで、移動の時間が切り取られたように。


 焦りと緊張から冷や汗を垂らす。このまま動かなければ今は斬られることはないが、いずれは斬られる。その光景が目に浮かび、霊夢は寒気を感じる。奥歯をギリッと鳴らし、口を開く。


「何をしたの?」


 これは単なる時間稼ぎだ。自分がこの状況から脱出するための時間稼ぎ、延命措置。しかし相手がこのことについて、わかっているかもしれない疑念が拭いきれない。もしそうなら、このメイドは間髪入れずにこの首を斬るだろう。それだけはごめん被(こうむ)りたい。


 その心情を読み取ったのか、メイドはしばし考えた後に、その体制を維持したまま話始めた。


「いいですよ。教えてあげます」


 軽薄だが冷徹さのある声に、霊夢は恐怖心が生まれた。このメイドは、冥土の土産に話てやるが、それで私が油断すると思うなよ。と言っているようだった。それほどメイドに隙はない。


「私の能力は時間操作。時を止めたりゆっくりにしたりできる」


 時間操作。概ね破られそうにない能力だ。だが強力な能力にはかならずそれ相応のリスクが伴うはずだ。だけどこいつは、それを軽々とこなしてみせた。


「ほとんど無敵ね」


 素直な感想だった。正直な話、時間操作が完全なものなら勝てる訳がない。


「そんなことありませんよ。時間操作をしたところで、未来が見えている人には敵いません」


 まるで自分が、以前そうゆう敵と合いまみえた言い方に、霊夢は違和感を覚える。


「さあ、話は終わりです。侵入者さん、遺言はありますか?」


 殺気の籠らない、まるでそれが当たり前のように言った。


 今まで十六年やそこらだけど、生きててこんな奴に会ったのは初めてだ。殺すことに、何一つ疑問を感じていない。


「あんたは……今まで何人殺して来たの」


「遺言……ではないですよね。これで最後ですよ」


「……わかった」


 メイドは溜め息を吐いて、一瞬考えた。その瞬間霊夢は動いた。稲妻のように閃いた手がナイフの刃を握ると、力任せに砕く。メイドは唖然としていたが、すぐさま思考を切り替え何処からか取り出したナイフで霊夢の首を切断しようとする。しかし、霊夢の驚異的反応速度でそれは躱され、反撃に出る。


 普通は距離を取ってじっくりといくのがセオリーに思えるが、こうゆうとんでも能力には電撃戦が効く時もある。考えとしては、相手が時間を停止する前に攻撃を当てればいいのだ。


 霞む程の速度で脇腹目掛けて打ち出された拳に、メイドはギリギリのところで反応し、ナイフで受ける。だが霊夢の拳は岩をも砕く。女の細腕で受けきれるレベルではない。案の定ナイフは弾かれ、メイドは拳を受ける結果となった。


「がっ!」


 滑るように後退し、量膝をつく。口から血を吐き、四つん這いになる。


 私の真似をされた。隙のつきかたが私そっくりだった。違いがあるとすれば、時間が動いてることか。


 メイドは苦虫を噛み潰したように顔を歪め、霊夢を見上げる。


「油断大敵ね」


「一ミリも油断した覚えはないんですが……化け物ですか? あなたは」


「ただの人間よ」


「そうですか」


「……あんた。もしかして人間?」


 ただの勘だった。なぜそう思ったのかはわからないが、ふとそう思った。先程会った門番は妖気を纏っていたので妖怪であるとわかった。そしてこの館には妖気や魔力が至るところに満ちている。だからかもしれないが、ここに妖怪しかいないものだと思っていた。それゆえ、今まで気づけずにいた。


 このメイドは間違いなく人間だ。メイドから妖気は一切感じないし、魔力のような力も感じない。完全に霊夢と同種の、魔の力を持たない者だ。


「だとしたら……どうすると言うの」


 否定をしないとゆうことは、こいつは人間なんだろう。だがなんで人間が、これほどまでに魔に満ちた場所にいるんだ?


「疑問に思ってるみたいね。なんで人間である私がここにいるのか」


 図星をつかれてギクリとするが、すぐに平静を取り戻し、頷く。


「私はここの主。レミリア・スカーレット様に生きる意味を教えて貰った。だから忠誠を誓った」


「生きる……意味」


 重い言葉だ。誰かが誰かに生きる意味を授けるのは、その人の人生を一緒に背負う覚悟がなければならない。子供の戯れ言のように軽い気持ちで口にしていいものではないし、その場凌ぎのような曖昧なものであってはならない。無論霊夢はそんなことは言えない。相手に生きる意味を与えるほどの度量もなければ、覚悟もない。


 ここの主は、このメイドと一緒に生きる覚悟を背負ったんだ。


「だから私は、お前をここで足止めする」


 強力な気迫と共に、メイドは立ち上がった。


「……」


 決意の瞳に、霊夢は消失感を感じずにはいられなかった。


 これが、ただ生きてるだけの奴と。生きる意味を知った奴の違いか。


 霊夢は日々を流すように生きている。適当に過ごして、適当に生きている。この仕事だって自分の生活費を稼ぐためだし、生き甲斐を感じてなんかいない。


 自分で考えて笑えてくる。嘲笑するように自分を笑い、片手で顔を覆う。


 気にくわない。何のために戦うとかどうでもいい。私は私のために戦っている。誰かのためなら強くなれるなんてものは、アニメや漫画の世界でしか存在しないんだよ。それを教えてやる。


「先に聞いておこうかな?」


 メイドは眉をしかめる。


「あんたの名前だよ。私の名前は博麗霊夢」


「私の名前は……十六夜咲夜」


「咲夜か。じゃあ咲夜。今から私はあんたを殺す」


 笑顔で言われたらその言葉に、咲夜は唖然とした。そしてすぐに恐怖に変わった。


 なんだこれは? なんだこれは!? ただ対峙してるだけなのに体が震える! 先程までとは違う。あの霊夢とゆう奴は何者なんだ!?


 このままここにいたら殺される。そう思っていてもその場に繋がれたように動けず、ただただ恐怖に犯されていた。


 だが、時間操作とゆう一筋のような希望が、なんとか咲夜に勇気をあたえた。時間操作とゆうアドバンテージはそれだけ咲夜の中では心の支えになっているのだ。


 そうだ。大丈夫だ。まだこいつは私の力の条件を把握していない。きっとそこに勝機はある。


「……お前の時間操作だけど、さっきの一撃でなんとなくわかったよ」


 えっ?


 咲夜は目を見開き、霊夢を凝視する。


「細かな限定条件はわからなかったけど、あんたのそれは酷く集中力を使うみたいだね。今みたいに集中できるならまだしも、猛攻の最中での時間操作はできない」


 咲夜は絶句して、力なくヘタリと座る。


「どうやらだいたい合ってたみたいね。なら時間操作される前に、殺しにかかるか」


 驚異的な速度で咲夜と間合いを詰め、拳をくらわそうとしたら。


 咲夜は一瞬フッと笑うと、忽然と姿を消した。






「……逃げた」


 咲夜はある部屋の扉に凭れかかり、ズルズルと滑り落ちると、体育座りになった。


「お嬢様に、勝てないと思ったら逃げろとは言われていたけど……あれはそんな次元の話じゃないわね」


 その時の恐怖を思い出し、両手で肩を抱くようして自嘲するように笑う。


 下の方から地響きがしたが、咲夜は聞く気力すらなかった。


「すいません、お嬢様。あなたを守れなくて」


 咲夜は多々呆然と、部屋の窓から見える外景色を眺めた。

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