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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
紅魔郷
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動かない大図書館

 首尾は上乗。潜入もうまくいった。だけど……。


 魔理沙は館内の一階の廊下を歩きながら、辺りを観察していた。


 これだけ大きな館なのに、使用人が一人も見当たらないのはどうゆう訳だ? 普通なら見つかっても可笑しくないはずなんだが。


 物気の空と言っていいくらい館内は静まりかえっていた。聞こえるのは魔理沙が廊下を歩く靴音だけで、窓もドアも空いている場所はどこもなく、不気味なことこの上ない。


 魔理沙は妙な緊張感に汗を一つ垂らす、無意識に左手に持つ箒を握る手が強くなり、スカートのポケットから八卦炉を取り出し警戒心を高める。


 数分の間歩いていると、上に登る階段は見つからないのに、下に降る階段を見つけた。


「ここは地下もあるのか」


 このまま一階を捜索しても埒があかないと考えた魔理沙は、地下に降りてみることにした。


 長い階段を降りていく。が、一向に下に着く気配がなかった。


「まだ降りるのか?」


 もういい加減着いてもいいだろうと思っていたころ。妖しく光る何かが下から魔理沙に向かって飛んできた。


「なんだ? って」


 妖しく光る物体は近づくにつれてはっきりと見え、それはハードカバーの本の形をしている。


「なんで飛んでんだ?」


 能力による何かか? それでも原理がいま一つわからない。


 色々と考察していると、本は魔理沙から一定の距離を空けて止まり、パラパラと魔理沙に向けて開いてみせた。あるページで止まると魔方陣が空中に浮かび上がり、火球が飛び交った。


「何!?」


 火球は魔理沙の顔に目掛けて来たので、横にずれることで躱し。人差し指を本に向け、指先からレーザーを放った。


 本に直撃し、激しく燃え上がり階段に落ちる。


「なんだったんだ?」


 ゆっくりと歩み寄り、上から本を覗く。


「魔道書か? だとしても自律して動くなんて。これはそうとう手練れの能力者が施したのか? いずれにしても尊敬できる」


 火が収まり、殆ど炭になったカバーの切れっ端を摘まみ、自分の目の前にさらしてみる。


 その時、背後に悪寒を感じ振り向くと、今度はさっきの本と装飾の違う本がページを開き魔方陣も展開していた。


「嘘だろ!」


 魔理沙は箒に跨がり下に向かって降りていく。それと同時に本から水圧レーザーが放たれ、魔理沙は後ろを確認しながら躱していく。


 本は魔理沙の後ろにピッタリくっついて来て攻撃を続けている。


「しつこいなこいつ!」


 魔理沙は缶状の魔具を取り出し、それを後ろに放り投げる。するとその缶は青く光輝き始め、本の前で爆発した。


「吹っ飛んだか?」


 後ろをチラリと確認すると、さっきと違う本が二つ、硝煙の中から突進してきた。


「うをっ!」


 それが魔理沙の横スレスレを通過し、背面飛行しながら本が開かれる。魔方陣が浮かび上がり、魔理沙から見て右の本は鎌鼬を放ち、左は銀色のナイフを生成しそれらを放ってきた。


「マジかよ」


 魔理沙は全てを紙一重で躱し、ピンポイントで本を撃ち抜こうとしたが、また感じる背後の悪寒に、チラリと後ろを確認した。すると目の前にラベンダー色の結晶が幾つも飛んできた。


「くっ!」


 ギリギリ上に行くことで躱し、まず後ろの本をレーザーで撃ち抜く。前からくる攻撃に対応して左を撃ち抜いた後に右を撃ち抜く。


 見える全ての本を打ち落とした瞬間、階下に光が見えた。魔理沙はまた本が攻めてくる前に入ろうと思い、全速力で降る。光を抜けてついた場所は、巨大な図書館のような場所だった。


「……すげぇ」


 圧巻の一言だった。背丈の三倍はある巨大な本棚が背中合わせに幾つも横並びに立っていて、二階もありそこも同じようになってた。


 ユラユラと飛行を続けて奥に向かっていると、下から声をかけられた。


「どちら様ですか?」


 魔理沙は下を向くと、両腕で大事そうに本を抱え、朱色のロングヘアーに蝙蝠の羽飾りのような物をつけていて、白のブラウスに黒のジャケット、赤いネクタイに黒のロングスカートを履いた女の人がいた。


「………」


 じっと見つめる魔理沙。別にその女性が美人だからではなく、その背中に生えている蝙蝠の翼に目を取られていたのだ。


「……あの、なんですか?」


 女性は居心地が悪そうに抱えていた本をいっそう強く抱き締め、魔理沙から少しだけ身を引く。


「あっ、悪い。なんでもないぜ」


 魔理沙はゆっくりと高度を下げて地面に降りる。小悪魔は姿勢を戻して、だが少しだけ警戒心を強める。


「あなたは誰ですか?」


「名前を聞く時はまず自分から……とはいかねぇか。私は霧雨魔理沙。ただの魔法使いだぜ」


「私は小悪魔。ここの図書館の司書をやっています」


 小悪魔……悪魔か。てことは、こいつは誰かの遣い魔か?


 魔理沙は思案していると、小悪魔は凛とした態度で尋ねてくる。


「魔理沙さん。あなたはなんでこの館にいるんですか?」


「私か? 私はここの主に呼ばれて来たんだよ。言うならばお客様だぜ」


 平然と嘘をつく。魔理沙は霊夢と違って戦いはなるべく避けて、目的を確実に達成することを優先する。そのためには知略謀略は当たり前で、馬鹿正直に自分の正体を明かす訳はない。そのてん霊夢は馬鹿正直で戦闘馬鹿だ。


「……お客様?」


 小悪魔は疑惑の念を払えないのか、ジッと魔理沙の風体を上から下までじっくりと見る。


「別に怪しい物は持ってないぜ。私はただ屋敷内で道に迷ったから、手当たり次第人を探し回ってたんだ」


「にわかに信じ難いですね」


 疑惑の目を向けられたじろぐ魔理沙。だがここで平然を欠けばさらに疑われてしまう。どうしたものかと頭を回転させる。すると。


「どうしたの? 小悪魔」


 小悪魔の後ろから姿を表したのは、紫色のロングヘアーに左右の揉み上げに赤と青のリボンを着け、三日月の髪飾りを左にしていて、薄い紫色の裾の長いカーディガンに立のストライプが入ったワンピースを着た血色の悪そうな女性が立っていた。


「パチュリー様!」


 パチュリーと呼ばれた女性は小悪魔を見た後、魔理沙に視線を移した。


「……あなた」


 パチュリーはそれ以上何も言わなかった。何かを悟ったのかわからないが、踵を返して歩き出す。


「パチュリー様?」


「こあ、あなたは仕事に戻りなさい。この人は私の客よ」


 えっ?


 魔理沙は心の中で戸惑うも、顔は平然を保っている。


「レミィに呼ばれたんでしょ? あれは私がレミィにお願いしたのよ」


 パチュリーの発言にチャンスとばかりに、魔理沙は話に乗っかることにした。


「そうなんだ。なんでも友人が話があるからって言われて、待ってたんだよ」


「それでトイレに行こうとしたら道に迷ったと」


 パチュリーは立ち止まり振り向いて言う。


「そうなんだよ」


 なんだこの、話が勝手に進んでいく感覚は。こいついったい何を考えてんだ?


 魔理沙は表面上は気さくに振る舞っているが、内心は不安で一杯だった。このパチュリーとゆう女性の掌の上で踊らされている感覚、それが胸に蔓延(はびこ)っていた。


 パチュリーはそうそうに小悪魔をその場から追いやり。二人だけがその場に残る。


「さて、魔法使いさん。まず名前を聞きましょうか? 私はパチュリー・ノーレッジ。ここに住む魔女よ」


「魔女か。私は霧雨魔理沙。ただの魔法使いだぜ」


 パチュリーは何を考えているのかわからない顔をして魔理沙を見る。魔理沙は怖くなるも表にはそれを現さず、毅然とした態度を取り続ける。


 パチュリーは溜め息を一つ吐き、魔理沙を哀れんだ目で見つめる。


「なんのために来たのかだいたいわかるけど、止めときなさい。レミィはそうとう強いわよ」


 やっぱりバレてたか。


 やっと表した本性に、魔理沙の不安が一気になくなる。普段と変わらない少しお茶らけた態度に戻る。


「別に倒しに来た訳じゃないぜ。霧を止めて欲しいって頼みに来たんだ」


「殺されるわよ」


「そいつは嫌だな。でも、頼みに行くだけ行ってみるさ」


 パチュリーはまた溜め息吐いて、踵を返して歩き始める。


「おい!」


「勝手にすればいいわよ。忠告はしたからね」


「優しいなお前」


「同じ魔法使いのよしみよ」


 魔理沙は歩いているパチュリーの隣まで走り寄って、そこから速度を合わせて歩き始める。


「何?」


 パチュリーは嫌気な感じに顔を歪めるが、魔理沙はいっそう普通に言った


「ここの本は全部魔道書か?」


「ええ……そうだけど」


 戸惑いながらも答える。魔理沙は嬉しそうに目をキラキラ輝かせ。


「読んでみていいか!」


 その一言に驚き足を止める。するとすぐに面白くなり、パチュリークスリと笑った。その反応に魔理沙はムッとなるが、パチュリーが笑いながらごめんごめんと謝るので、文句を言うのは止めた。


「レミィに話をつけるのはいいの?」


 パチュリーの問いに、満面の笑みで返す。


「それは後回しだぜ」


「面白いわね、あなた。いいわよ。好きなのを読みなさい。ただし、図書館の外に持ち出すのは禁止だからね」


「わかったぜ」


 パチュリーはそれだけ言って立ち去ろうとするが、何かを感じ取り右上を睨む。


「……パチュリー?」


「魔理沙、すぐここから離れなさい」


 真剣な声にただ事ではないと思った魔理沙は、パチュリーの見ている方向を見る。そこにいたのは、特徴的な七色の翼にボンネットのような帽子と赤いワンピース。その中に白いブラウスを着て黄色に近いスカーフを巻いている少女がいた。


 少女は本棚の上に腰をかけ、足をパタパタとしている。


「今日はどうしたのかしら? 妹様」


 妹様と呼ばれた少女はニヤリと笑うと、嬉しそうに言った。


「今日は月がとても綺麗だから、遊んで欲しくなっちゃって」


「……そうですか」


 パチュリーは冷や汗を流しながら困った目付きで少女を見る。


「それにどうやらお客さんもいるみたいだし、今日は楽しくなるかもね」


 少女は右手の掌を魔理沙に向ける。それを見たパチュリーは焦る。


「!! 魔理沙!」


 パチュリーは咄嗟に手を伸ばして魔理沙の腕を掴もうとしたが、一瞬早く魔理沙がいた場所で爆発が起こった。爆風を防ぐべく、咄嗟にパチュリーは腕で顔を覆う。


「アハッ♪ 吹っ飛んだ」


 不安の表情で魔理沙がいた場所を見ていると、硝煙が晴れ魔理沙が姿を表した。


「危ねぇな。急に爆発させるなよ」


 魔理沙は見たところ怪我はなく、いたって正常に見えた。その様子を確認してパチュリーは胸を撫で下ろす。


 だが少女は気に入らなかったらしく。先程の楽しそうな顔を一転、無表情になる。


「死ななかったんだ、残念。死んでくれればよかったのに」


「なかなか頭がいってる奴みたいだな。私は霧雨魔理沙。お前は誰だ?」


 魔理沙の問いに少女はフワリと体を浮かせ、魔理沙とパチュリーの前に降りて来て言った。


「私はフランドール・スカーレット。この館の主、レミリア・スカーレットの妹よ」

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