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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
地霊殿
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八岐大蛇

 凄まじい威圧感だった。

 ただでさえ大きく、諏訪子の力で強力な念が籠められているというのに、それが七匹ともなると規模が違う。

 到底太刀打ちできない圧倒的な力を前に、魔理沙たちは完全に萎縮してしまった。


 ヤバい。これは洒落にならない。ここにいたら殺される。どこか、出口……出口を探さないと! 脱出する手段を!!


 頭の中で警鐘が鳴り響く。逃げろと体が叫んでいる。それでも、頭が思っているよりも体は正直で、四肢を動かそうにも上手く伝わらない。恐怖心から来る震えで地面に張り付いたように足は動かず、目の前の恐怖から目を逸らすこともできなかった。

 ただ一人を除いて。


「魔理沙!」


 彼女の声で魔理沙は意識を引き戻す。気付かぬ間に、フランは魔理沙の手を強く握っていた。それすらに気付かなかった魔理沙は、握られた手とフランの顔を何度か見返して、徐々に落ち着きを取り戻していく。


「……悪い」

「大丈夫。それよりも」


 フランの視線は床に倒れているさとりに向かった。虫の息で、今にも死んでしまいそうだったが、それでもさとりは生きていた。空を救う。その気持ちだけで、命を繋いでいるのだ。


「助けないと!」

「……ああ!!」


 無理だ。そう心は言っていたが、そんな気持ちは殴り倒した。

 今はそんなことを言っている場合じゃない。助かる方法を考え続けろ。逃げる方法を考え続けろ!! ただ時間がないのも確かだ。少しだけ、ほんの少しだけ時間があれば。


「フラン! 今からお前……死にに行け」


 魔理沙のその言葉に、フランはニヤリと口角を上げた。それでも顔は、必死に恐怖を押さえつけるようだった。


「いいよ。5分あげる!!」


 そう言って、フランはさとりの元に飛び出した。


「魔理沙! 何でフランを!」


 取り乱した妖夢に魔理沙は胸倉を掴んで「ちょっと黙ってろ」と、強く念を押す。あまりの気迫に妖夢はそれ以上何も言えなかった。

 隣に居た燐も、妖夢の肩を掴んで魔理沙から引きはがす。


 考えやがれ、てめぇの仲間を死なせたくなかったらな!!


 ~~~


「あははっ!! さすが吸血鬼! もう八岐大蛇(やまたのおろち)についてこれるんだ!」

「そんなに図体デカけりゃ、誰だって対応できるわよ!」


 渦中に飛び込んだフランは、諏訪子の挑発に成功して、なんとか攻撃の矛先をさとりではなく自分にむけさせることができた。だが想像以上に劣勢なものになっているのは事実だ。

 一歩間違えればさとりに攻撃が当たるし、かと言って攻勢に回ることもできない。八岐大蛇が思っている以上にやっかいだった。

 攻撃と防御。両方をやりながらじわじわと相手を追い詰めていく。さながら本物の蛇のように。

 今は避けることに専念しているからなんともないが、攻撃をする隙はない。


「いいねいいね~。でもいつまで持つのかな?」


 そう。相手は諏訪子だけではない。今はさとりの封印術が効いているが、空が動き出したらフランにはどうすることもできない。それになにより、諏訪子は全く本気ではないのだ。彼女が本気を出したら。もはや誰にも止められないだろう。


 どうにかしないと。せめて、一瞬の隙さえ生まれれば。

 奥歯を噛みしめ、期を待つことしかできない自分が情けなかった。目的は時間を稼ぐことだとしても、目の前でさとりの腕を食いちぎられたのは、フランにとってショックなことだった。

 この中で一番強いはずの種族で、今回は神を相手にするからと息巻いて来たというのに、なんなんだこの体たらくは。自分で自分が情けない。

 だからこそ、一矢報いたかった。さとりの腕を食ったんだ。お前のその腕をぶった切る。フランの頭の中は、その気持ちで一杯だった。


 逃げる前に、どうにかする!


 その時だった、諏訪子を囲うように幾本の刃が、回転しながら迫っていたのだ。諏訪子の意識がそこにそれる。その一瞬の隙を、フランは捕らえることができた。

 さとりが最後の力を振り絞って、隙を作ったのだ。


 いっ――――けぇっ!!!


 フランの手から、炎が舞った。それが掌を包むように燃え上がると、やがてそれは一本の剣になった。


「レーバ!」


 瞬きをする間に、フランは諏訪子の頭上に現れる。そして、炎を纏った剣を叩きつける。


「テイン!!」


 フランの有する神具、破滅の剣(レーバテイン)。万物を破壊するその剣は、例え神でも壊しきる。ただ同じ神格を持った者同士が相手だと、力に押されるという現象も起こる。

 剣が触れた。蛇の鱗に。フランは蛇を斬るつもりでいた。だが鱗に触れたその瞬間、フランの両腕縦に罅割れ、血が吹き出る。あまりの衝撃に、身体が耐えられなかったのだ。

 その影響で剣が滑り落ち、空中で炎に変える。そしてフランも、重力に引っ張られ床へを落ちて行った。


 くそ……くそ!!


「神具を持っていたのか……でも残念だったね。その剣じゃ私は壊せない」


 蛇が、フランを見定めた。さすがに避けることのできないフランは、下唇を噛みしめて、悔しさに顔を歪めた。


「それじゃあ。し――」

「つーかーまーれぇぇぇぇ!!」


 魔理沙の声に、諏訪子は振り向く。その瞬間強力の空気の圧が、諏訪子に襲い掛かった。

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