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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
紅魔郷
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華人小娘

 紅魔館が大きく見えてきて、取り敢えず場所が裏側みたいなので正面に回る。裏側から入ればいいのに、と思うが霊夢は真っ正面から突破するのが好きなのだ。そもそも裏側とかコソコソ動くのは霊夢の性に合わない。正面に回ると大きな門と城壁がそびえ、霊夢はそこに降り、門の前に立つ誰かに話しかけた。


「ねえ。そこの門開けて貰えない」


「……賊ですかね? だったら開ける訳にはいきませんが」


 緑の帽子には龍と刻まれた星が正面に取り付けられていて、緑色のチャイナドレスに白いろの足首が窄められているズボンを履いている女性だった。


「そこをなんとか」


 霊夢はわかりやすく両手を合わせてお願いするが、緑帽子の女性は頑として首を縦には振らなかった。


「お断りします。私は門番ですので」


「そう」


 霊夢はまるでこう言われるのがわかっていたかのようにあっさりとしていた。そしてわかっていたからこそ、霊夢は攻撃の体制になる。


「なら押し通らさせてもらうわ」


「そうはさせませんよ。ここは通しません」


 緑帽子の女性は右手を顎近くに持ってきて、左手をだらりと下に下ろした構えをとる。隙があるように見えてこれは実はそこまで隙はない。


「……こうゆう形式上だから、いちよう名のっておきましょうか。今代の博麗の巫女、博麗霊夢よ」


「紅魔館の門番。紅美鈴です」


「紅美鈴か、覚えとくわ。取り敢えず押し通る」


 霊夢は飛び出し美鈴に飛び蹴りをいれようとしたが、左手で円を描くように攻撃を外に流すと掌低を打ち込んで来て、霊夢も反射的に円を描くように攻撃を流す。


 入れ替わるように立ち位置を変え、霊夢は門に背中を預ける。美鈴は振り向き構えを取る。


「あなたも武芸に富んだ人でしたか。だが我流ですね?」


「まあ殆どね。私にとって戦いかたは喧嘩の中で身につけたものだから」


「それなのに、体捌きは達人級なんですが?」


「私の親は私以上に強かったのよ。そんな人の動きを見続けたんだから、そりゃあ達人にもなるわ」


 その言葉に美鈴は疑問を覚える。


「まさかあなた。見ただけで動きを習得したんですか?」


「当たり前でしょ? だって私の親は私が小さい時に死んだんだもん。教わってる時間なんかなかったわ。いつも稽古してるのを見てただけ。それでも九割は動きを再現できるわよ」


 何が当たり前なものか。簡単に言ってくれるがそんなことできる方が可笑しい。


 確かに人は自分より上の存在の動きや考えを真似る傾向があるが、所詮そんなのは物真似で実際の半分も力は出せていない。だがこいつはそれを九割と言ってのけた。本当かどうかはまだ定かではないが、先程の体捌きなら或いはあるかもしれない。だとしたら私は、こいつには勝てないか?


 そこまで考えていた、美鈴は自嘲するように軽く息を吐くように笑った。


 そんなことはないだろう。格闘術で私に勝てる奴なんていないと言ってもいいくらいなんだから。


「来なさい博麗霊夢。あなたの力がどんなものか、確かめてあげます!」


「ふ〜ん。じゃあちょっと本気でいこうか……なっ!!」


 全身のバネを使って一瞬で美鈴との距離を詰めた霊夢は右の掌低を放つ。しかしそれは左手で捌かれそこから美鈴の右後ろ回し蹴りが放たれるが、霊夢はそれを躱し攻撃を加える。


 一進一退の攻防が続く。端から見れば恐らく速すぎて何をやっているかわからないくらいが、二人は互いの攻撃を反射と経験則に基づき躱したり防いだりしている。


 こいつ。私より重いか。


 この人。私より速い。


 霊夢と美鈴だからこそわかる違いである。ほぼ対等の者同士がぶつかれば互いの良し悪しが目についてくるものだ。美鈴は霊夢より重い拳打を放ち、霊夢は美鈴より速く動くことができる。


 人間の反応速度の最大までいっている気がする。ここまで来ると化け物ね。


 確かに霊夢は常軌を逸しているところはある。恐らくもう既に人間の領域から片足を一歩外に出しているのかもしれない。だがだからと言って霊夢は妖怪の類いではない、あくまで人間の延長線上にいるのだ。ゆえに化け物と言われようがそれは人間での話で、妖怪や魔物から見ればたいした力を持っていない。


 私も武芸者として、本気でいきますか。


 攻防が続いていたが、美鈴が霊夢の拳を右手で払ったと同時に気を左手の拳に集め放つ。


 破裂音が鳴り響きその時起こった衝撃に当てられ、霊夢は後ろに飛んだ。


「……何?」


「ただの衝撃波ですよ」


「へ〜。いいわね、そうゆう技」


 霊夢は右拳を大きく引いて、美鈴との距離を一歩で詰め、目の前で拳打を放つ。美鈴は紙一重で躱すが、破裂音が鳴り響き、その時起こった衝撃に当てられ美鈴は霊夢から遠退く。


 たった一度見ただけで。本格的に化け物かもね。


「案外簡単ね、この技」


「なら、これはどうですか? 彩光乱舞!」


 美鈴の手に虹色の霊力が気のように集まり、霊夢との間合いを詰め手刀の形にした手で切るように攻撃する。霊夢は紙一重でそれを躱すが、服に若干の切れ目が入る。


「!!」


「いきますよ!」


 そこから反撃の隙を与えなように連続技をくりだし、霊夢は避けるだけになってしまった。


「くっ!」


 どうやらこれは、真似できないみたいですね。


 それがわかった美鈴はさらに隙の少ない連続技をくりだした。


 くそっ。なかなか防ぐ手立てが思い付かない。虹色霊力に触れてしまえば斬れるかもしれないし、気の範囲が広すぎて迂闊に飛び込むことができない。一旦間合いを空けるか。


 霊夢は勢いよく両掌を打ち合わせる。すると霊夢を中心に霊力の波動が球体のように広がる。美鈴は腕で顔を庇うようにガードしたが吹き飛ばされる。


「……」


「…………」


 二人は互いを睨み付ける。一瞬の静寂、先に口を開いたのは美鈴だった。


「どうしました? そんなに慎重になって」


 霊夢は苦笑いをして。


「わかってるくせに」


 でも、まだ勝てる手段はある。武芸者としては不本意だけど。


 霊夢は袖から札を四枚取り出し、それが縦に捻れ針のようになった。


「封魔針」


 紅に染まる針を空に向けて投げる。美鈴はそれに気を取られていると、前方から来る気配を感じとり横に切るように手刀を振るう。気に当てられた封魔針は払われたと同時に七〜八の札に戻り、それが美鈴を中心に四方に散らばり、封魔針が札を上から撃ち抜くように落ちてくる。


「これは」


「封魔陣!」


 美鈴を飲み込むように四角柱の霊力が空に立ち上る。


「彩虹の風鈴!」


 立ち上った瞬間に美鈴は旋風のごとくの回転でその場を回り始める。それが虹色の竜巻になり封魔陣の中で暴れる。


「はあぁっ!」


 交差斬りをしたように両手を外に切り払い、竜巻を拡散させ封魔陣を吹き飛ばす。


「!?」


 封魔陣を霧散させた瞬間、霊夢が懐に入り込んで来た。咄嗟のことで反応が遅れ、迎撃することができない状態になっている。


「博麗式武術」


 霊夢は左の拳打を美鈴の腹に決める。


「かはっ!」


 衝撃そのものが体を通り抜ける奇妙な感覚になり、威力があるが体はちっとも吹っ飛ばなかった。


 そこから右の膝で胸を蹴り上げ、地面から少し離れた美鈴に少し飛んで左足の踵落としで頭を蹴り抜き、重心を下に置いていたことによって美鈴より先に降りた霊夢は、最後に渾身の掌低を美鈴の腹に決めた。


「夢想封印!」


 美鈴は声もなく吹き飛ばされ門に背中を強打する。門に罅がはいり美鈴は口から血を吐き、門から落ち俯せに倒れる。


「くっ……」


 力が入らない。


 必死に起きようとするが、腕はガクガクと震え上体を起こすのでさえ困難だった。


 たった一回……たった一回の攻撃でここまでになるなんて。


 美鈴は相手を憎むような顔を上げ、霊夢を睨む。


「さぁ。そこの門を通してもらうわよ」


 霊夢の勝ち誇った笑顔に美鈴は悔しく思うも、完全に敗けを認めた。


 すいませんお嬢様。役目を果たすことが、できませんでした。


 そこで美鈴は意識を手離したのだった。


「……なんとか勝てたか」


 実力は拮抗してるように見えたけど、実際は私の方が小指一本程度には敗けていた。霊術をうまく使って誤魔化したけど、もしあのまま格闘術だけで戦闘していたら、私は果たして勝てていただろうか?


 そこまで考えて霊夢は首を横に振った。


 グダグダ考えるのは止めよう。勝ったんだからそれでいいんだよ。


「よく言うしね。勝てば官軍負ければ賊軍って」


 霊夢は美鈴を一瞥して、罅の入った門を開けた。

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