私の家族を
私はここが嫌いだった。私はここが嫌いになったのだ。
理由はハッキリとしていて、そのことがとても許せなくて嫌いになったのだ。
「空」
私はこの人の声が好きだ。この人の手が好きだ。撫でてくれる時のこの手が好きだ。だからこそ許せない。ここが許せない。叶うことなら、その全てを焼き尽くしたい。
そんな時だった。
「ねぇ君。ちょっと私と遊ばないかな?」
この人に出会ったのは。
―――
「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
空。さとりの口からそう漏れた言葉は、彼女の咆哮にかき消された。なみなみならぬ威圧感、肌が焼けるような霊力の塊に、吸血鬼であるフランでさえ息を飲んだ。
魔理沙は勿論、人間である妖夢は呼吸することさえままならなくなり、息を吸うたびに肺が焼けるような熱さに苛まれる。
「なんだよこれ? 霊力が桁違いだ!」
これは、私達でどうにかなるような相手じゃない!
魔理沙は一瞬で悟った。このままこの場に居れば彼女に焼き殺されるということを。でも、だからといって逃げれるのかと言われればそういう訳でもない。もし背中を見せたらすぐさま塵にされるだろう。だからこそ、魔理沙たちは動くことができなかった。ただ一人を除いて。
「空ー!!」
さとりは己の体の状態を考えずに前に飛び出す。それを目で追うことはできても、体が頭に付いて行かない。いますぐ止めなければさとりは殺されてしまう。それほど危うい状態なのにも関わらず、足は地面に張り付き、腕は鎖に繋がれたように微動だにしない。
動いてくれ、頼む! 動け! 私の体!!
「――っ! ああああ!!」
自身の魔力を放出して、重くなった体を楽にする。それにより緊張の糸が解けたのか、魔理沙の手はさとりの腕を掴んでいた。
刹那。さとりの頭上に、おん柱を振り上げた空が現れる。
「くっ!」
なんとかそばに引き寄せる。空の振り下ろした腕はさとりの前髪を掠り、そのまま地面に叩きつけられた。
凄まじい轟音と共に地面に巨大な罅が入る。衝撃に魔理沙たちは入口付近の壁に叩きつけられる。
「ぐっ! ……おい。無事か?」
魔理沙は全員に呼び掛ける。さすがに、さとりは体調のこともあり気を失っているが、他は全員意識があるようだ。
「なんとか……ですが」
妖夢の言いたいことは魔理沙にもわかっている。戦わずに逃げる。それが最善策で、今はそうしなければいけない。
本来ならこの状態になることすらもいけないことだ。これほどの強者を相手にする時は、相手にしないというのが鉄則で、それが正しいことなんだ。こうなった時点で、私達は負けを確定させている。
「せめてさとりだけでも――」
「そうさせると思う?」
魔理沙の考えを読むかの如く、諏訪子から悪寒がする。
ヤバい。どこに逃げる。取りあえずここじゃにどこか。まずはそこにいかないと話にならない!
視線を走らせて退路を探す。そこが詰みでも最早そこ逃げるしか生きるための道はない。
「――! 扉に急げ!!」
魔理沙の号令と共に全員が空が出て来た扉に急ぐ。魔理沙はさとりを抱え直し、扉に急ぐ。
考えろ。恐らく諏訪子からの攻撃と空からの攻撃は防ぐことはできない。逃げたところで追撃されて結局やられる。まずは時間を稼ぐことだ。打開する策を思いつくまで、思考を止めるな!
「ば~あ~い」
諏訪子からの霊力弾と、空が恐らく最初に見せたであろう熱線を撃ってくる。狙いは、最後に動き始めた魔理沙とさとりだ。
「魔理沙さん!!」
妖夢は手を伸ばす。その手に届くように、必死で走る。だが後ろから迫り来る圧迫感に、魔理沙は振り返った。
駄目だ! 間にあわ――!!
轟音と共に、爆風が辺りを包む。先に避難したフランたちは茫然とその様を見ていた。
「嘘……嘘ですよね。魔理沙さん!!」
土煙が晴れる。誰しもが絶望していた中、その姿はあった。魔理沙を庇うように、さとりが立っていたのだ。
「返せ……」
冷たくなるほどの霊力と殺気。その全ては、諏訪湖に向けられる。
「私の家族を返せぇぇぇぇ!!」
怒号が響き渡る。
諏訪子は不敵に、舌鼓をした。




