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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
地霊殿
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答えは簡単だよ

「いやはや、人間と悪魔の友情物語か。これは今世紀最大のヒット作になりうるんじゃないかな?」


 警戒心の全くない、まるで十年来の友人のようにフランクに話しかける諏訪子。その異様な様に、魔理沙含めその場の全員が唖然とした。


「ねえ、君はどう思うんだい? 魔法使いさん」


「……さあな。少なくとも、私の中じゃヒットしてるぜ?」


 何とか声を絞り出す。だが依然として、この場の支配権は諏訪子にあった。


「そう? ならこれはヒット作になるんだろうな~。うん。でも私はさ~、誰かが支持してる作品ってどうにも好きになれないんだよね~。なんていうの? 逆に冷めるってやつ?」


 皆動きたいのに動けない。隙もある、相手の警戒心はない。こんな付け居ることが容易い敵なのに、いった瞬間殺されかねない。そんな漠然としたイメージが、本能として訴えかける。


「だから私はこれから別の作品をプッシュしようと思います。とある神様によって願いを叶えた子供が、願いに食い殺される話。題して、その代償は幾らか?」


 不吉なセリフ。頭の中によぎるのは、幾つか考えられる最悪の光景。


「空は?」


 震える声で呟くさとり。


「空は生きてるの!?」


 彼女の問いに、諏訪子は口角を釣りあげる。


「安心しなよ。あの子はちゃ~んと生きてる。私は人殺しなんてしたくないからね。きちんと生かして、きちんと君の元に返してあげるよ。そこだけは安心してくれていい」


 さとりには心が見える。だが諏訪子のこころは以前としてドロドロと渦巻いているため、その中から真意を読み解くのは至難の技だ。特に彼女の心は、見るに堪えない。


 口元を押さえて屈みこむさとり。燐が支える。


「にしても、たった三カ月でこうも変わったか。むしろ生きていることの方が不思議だよね~。死ぬと思ったのに」


「……何の話だ?」


 魔理沙の問いに「気付いてないのかい?」、と小馬鹿にするように煽る。


「なら種明かしだ。マジックっていうのは、最後に種明かしがあるから私は好きだね~。さとりは衰弱している。しかも殆ど死ぬ間際だ。さすがに人間、水だけで生活すればこうなるだろうが。さとりは喉に飯は通らなかっただろうが、ちゃ~んと食べ物を摂取している。それならばここまで弱ることはないだろう」


 確かに気になったことでもある。いくらなんでも弱りすぎだ。遭難してる訳じゃないんだぞ?


「答えは簡単だよ、さとりには私が呪いをかけた。こうやってね」


 そう言って諏訪子はさとりの隣にいる燐を睨みつける。すると、彼女は呼吸がままならなくなったのか、喘ぎだす。


「……」


 魔理沙は燐の肩を抱き、「リカバリ」と短い呪文を唱える。すると、突如として空気が吸えるようになり、大きく深呼吸をする。


「へ~。解呪の魔法が使えたんだ。魔法使いって自分は状態変化に強いから、そういうの覚えてないと思ったのに」


「てめぇ。今何しようとした?」


 明らかな怒りが、魔理沙に見てとれる。そんな姿を初めてみた妖夢とフランは、魔理沙の威圧感に肩をビクリと震わせた。


「何って……強めにかけて殺そうとしただけだよ? そんな怒んないでよ」


 当たり前のように諏訪子はそう言った。全く悪びれのない顔。本人にとって、他者の死はなんてことない普通のことなのだ。


「地獄の業火ってな、案外そこらへんに散らばってるもんなんだよ」


「……で? それが何か?」


「てめ~の目の間にも転がってるぜ? クソ神」


 魔理沙は八卦炉を諏訪子に向ける。刹那。八卦炉から強力は電力をレーザーが見舞われる。それは諏訪子を飲みこみ、その後ろの扉にぶち当たる。


「――――――――――っ!」


 魔理沙は確かに加減はした。こんな狭い空間でマスタースパークを使えば、周りに居る人間も巻き添えがくう。だがだからと言って諏訪子を殺せない程度にはしなかった。勿論殺す気で、肉片も残さないくらいの気概で。なのに。


「あっはははは! 甘いよ! クリームをてんこ盛りにしたケーキよりも甘いよ!」


 諏訪子の体は無傷だった。そして余波が当たったであろう後ろの壁にも、傷一つついていない。


「知ってるよ霧雨魔理沙! あんたが何で呪いにそこまでの憎悪を抱いてることも! 呪いによって殺された人間は、輪廻の輪から外され、二度と浄土には召されない! 一生この地に囚われ、地獄のような苦しみを味わうしかないんだよ!」


「……なんで、私の名前を……?」


 狼狽する魔理沙に、諏訪子はまた高らかに笑った。


「聞いたのさ、霧雨魔理沙。あんたが、実の親を呪い殺した罪悪人だってね!」

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