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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
地霊殿
36/41

ただのしがない神崩れだよ

「は~あ~い♡ 初めましてだねさとりちゃ~ん」


 そう言って現れたのは、市女笠に目の飾りが付いた特徴的な帽子に、青と白を基調とした壺装束を身に纏っている少女だった。


 彼女はまるで自分の家のようにずけずけと部屋に上がり込み、目の前のソファに腰を下ろす。


「心が読める君には名前は言わなくていいのかな~? それともちゃんと自己紹介は必要?」


 馬鹿にしているのだろうか? いや……それよりもなんだこれは? 渦巻いている。奴の心は全てを飲みこみ溶かしている。心が読めない。


 気持ち悪さに私は口元を押さえ、彼女から距離を取る。目を背けたかったが、逸らしたら何をしでかすかわからない危うさがある彼女を、野放しにする訳にはいかなかった。


「……空。この方はいったい誰なんですか?」


 少女の隣に居るのは、私の家族である子供。最近は私よりも背が大きくなり、大人びてきてはいるがまだまだ子供らしさが抜けない子だ。


 彼女は満面の笑みで頷くと「私の友達!」とだけ言った。それを聞いて少女は高笑いをする。


「友達と来たか。まあそうか。一様名乗ってはおくよ。私だけが君のこと知っているのも不公平だしね、ここは仲良くいこうじゃないか。私の名前は諏訪子。ただのしがない神崩れだよ」


 不敵に笑う彼女の顔に、薄ら寒さを覚えた。背筋が凍り、今にも空をこの手で引っ張ってそばに寄せたい。でもそうすることが出来ないほど、彼女から感じる恐怖はただごとではなかった。


 呼吸が荒くなるのを感じる。深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、諏訪子を睨みつける。


「何が目的ですか? 何のために空に近づいたんですか?」


 彼女は薄ら笑いを外さず、空を部屋の外に出るよう指示する。素直に従った空が出て行き。部屋の中には、私と彼女の二人だけとなった。


「他でもない彼女の意志さ。だから私はここに居る」


 スイッチを切り替えたみたいに、能面のように表情を消す諏訪子。冷や汗が一気に噴き出る。


「だから安心しろ。私は力を貸すだけだ……まあ、それで何が起こるかなんて、私の知ったことじゃないけどね」


「空に何を!?」


 食ってかかる私に、彼女は眼光を向ける。それだけ……たったそれだけのことで私の体は止まった。喉が絞まり、呼吸がままならない。


「手を出すんじゃないよ……これから楽しくなってくるのにさぁ~。とりあえずここの地下を使わせてもらうよ。全てが終わるまで、指を加えて待ってなよ。待ってることが出来ればの話だけど」


 待って! お願い待って!! 私の家族に手を出さないで!!


 彼女はそういうと立ち上がり、部屋を後にしする。緊張の糸が解けたのか急に呼吸が出来るようになり、私は焦って部屋を出る。が……そこにはもう諏訪子の姿はなかった――――――――――




 ――――――――――それが、つい三か月ほど前です。それから私は、ずっとここで空の帰りを待っています」


 さとりは話を終えると、魔理沙を見やる。


「お願いです、魔法使いさん。あなたの力が必要です。お願いです」


 頭をさげ懇願するさとりに、魔理沙は頷きはしなかった。そもそも、情報量が足りなすぎるのだ。だから今すぐに頷く訳にないかないのだ。


「……まずは諏訪子がどんな奴なのか私達は知らない。心が読めるお前には嘘を言う意味はないから白状するが、私達は頼まれてここに来ただけで、あんたたちを助けに来た訳じゃない」


 魔理沙の薄情な物言いに、フランは食いかかりそうになったが、妖夢が制する。


「私は一時の感情で、死ぬようなことはしたくない。だから情報を寄越せ。なんでもいい、あいつに関する全ての情報を私にくれ。そしたら、お前らは勝手に助かるよ」


 これは魔理沙なりの優しさなのだろう。その優しさに触れたさとりたちは、また感極まってまた涙を見せる。


「で? 一体その神崩れはどんな能力を持ってんだ?」


 魔理沙の問いに、さとりは涙を拭い話し出す。


「彼女の能力は大まかに分けて二つ。土と呪いです」


「土と呪い? 多重能力者なのか?」


 魔理沙の問いにさとりは首を横に振る。


「一目見ただけなので断定は出来ませんが、恐らく違います。あいつの能力は坤を創造する能力。大地その物が、あいつにとっての能力なのです」


「大地その物って。じゃあなんで呪いなんて物があいつに使えるんだよ?」


 魔理沙の疑問はもっともだろう。だがこの坤を創造する能力は極めて厄介なのだ。浄土、という言葉ある。それは天に召されることを意味し、死んだ霊の魂は天に帰る。逆に、地は死んだ霊の魂を束縛し、そこに怨霊としていすまわせることを意味する。怨霊は呪いの溜める。それが溶け、大地は腐る。地の底にはそんな怨霊の呪いが渦巻いているのだ。


「つまり諏訪子が呪いを使えるのは、この大地に呪いが溜まっているからなんです」


 じゃあ諏訪子の能力に上限値はないのか? この大地を相手にする……こんなちっぽけな人間に、何が出来るんだ?


 魔理沙自身には直接的な能力的な介入は出来ない。だから呪いの類は効きはしないのだが、大地その物を使われるとなると、たとえ魔理沙と言えど危険には変わりない。魔法使いにとって最も厄介な敵というのは、単純な物理攻撃。ようするに殴られると痛いし、切られたら血が出る。


 諏訪湖の大地を操る能力においては、石を投げられたり、岩をぶつけられたらアウト。体は普通の人間なのだから、そんなことをされてしまえば死んでしまう。


 無理だな、死ぬ。たぶん何も出来ずに死んじまう。そうなるのが目に見えてる。


 魔理沙の動悸が激しくなるのを感じていた。まだ会ったことすらないのに、既に蛇に睨まれたように手先が震え動かなくなっている。


 はは。まさかここまで直接的な死を想像しちまうとはな。我ながら情けねぇ。


 魔理沙は震えが止まるように一度大きく深呼吸をするも、そういうのはなかなか止まるものではなかった。


 クソ! 止まれよ!!


 心の中で叫ぶと、フランがその手をそっと包んでくれる。


「フラン?」


 意識がそれ、手の温もりに震えが止まる。


「大丈夫。魔理沙は強いよ。私は保証する。それに……一人じゃないよ」


 フランの言葉で理解した。このグループにおいて神を殺せるのは魔理沙だけ、唯一一人。そのプレッシャーが知らず知らずに募っていたのだろう。そしてそれが、魔理沙の考えを独立させていた。


「……悪い。ありがとな」


 ニカリと笑うフランに、魔理沙は安心させられた。


「いや~。なかなかの友情だったね~」


 安心させられたのも束の間。聞きなれない声に魔理沙たちは振り向き、さとりの顔は険しくなる」


「……諏訪子!」


「はぁ~い♡ 諏訪子ちゃんだよ~」


 扉の前で、諏訪子は妖艶な笑みを見せる。

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