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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
地霊殿
35/41

さとり

「ところで人間のお二人さん」


 さとりが居るというある場所に向かうために。四人は長い廊下を歩いている。そんな時、燐が歩きながら魔理沙と妖夢を見やる。


「いい加減その仮面外したら?」


 ここに来るまでたいして気にしていなかったのか、今更になって仮面をしていることに違和感を感じ始めた二人は、燐に指摘されいそいそと仮面を外した。


 ヤマメに聞いた感じだとさとりも仮面を所有しているらしいので、恐らくは人間の類なのだろう。だからこの館の中では、仮面をしているメリットなど無いようなもの。


「それで、さとりの様子はどうなんだ? 私は実は噂程度にしか聞いていないんだ」


 距離が縮まり、協力関係を得た魔理沙は、少しずつ情報を引き出そうとしている。


「うん……」


 気分が優れないのか、燐は俯く。話したくないのか、どう話せばいいのか分からないのか。それは定かではなかったが、燐は「会えば分かるよ」と言ってはぐらかした。


 廊下を歩き階段を下る。感覚的に逆時計回りに回りながら地下に下りているイメージだ。一体何分間歩いたのか分からないが、ついに最深部に辿り着いた。


「この先にさとり様は居るよ。ただし……覚悟はした方がいい」


 燐の忠告に三人は頷く。


 扉が開き、埃っぽい風が流れてくる。魔理沙たちは口を手で押さえて、なるべく埃を吸わないように努めるが、それは難しかった。


 上とは比べ物にならないほどの埃にフランは咽る。さすがの妖夢も、息苦しそうだった。


 こんなところに居んのかよ。人間なのに、どんな神経してんだ。


 心の中で愚痴る。ランプの淡い光だけが立ちこめるその部屋は、大きな扉が一つだけあり、その前に椅子が一脚置いてある。


「あの椅子に座ってるのが、さとり様だよ」


 燐に指摘され、魔理沙たちはどんな人物か確認するために椅子に近づいた。そして前に回り、さとりの顔を確認した時に、三人の顔は驚愕に歪む。


 声にすらならなかった。ただただ息を飲み、その者を見た。


 衰弱し、肉の削ぎ落とされた頬。やせ細った体。生きているのが不思議なくらい、その少女は弱っていた。無造作に伸びた髪。恐らく鮮やかだったであろう紫色の髪は、この過酷な状況下で色彩を失い、毛根から白く染まってきている。目も虚ろで、もはやどこを見ているのかも分からない。視界に入っているであろう魔理沙たちですら、見えていない。


「こんな……こんなことがあっていいのか?」


 狼狽しうろたえる魔理沙。そう思っているのは魔理沙だけではない。妖夢は見ていられないのか、口を押さえて視線をそらした。フランも息を飲み目を見開いてさとりを見ている。


「一体何があった?」


 燐は俯き。答えない。


「何があったか答えろ! 燐!!」


 魔理沙の怒号に、燐は悔しそうに歯を噛みしめる。


「…………り……ん……?」


 燐という言葉に、さとりが反応を示す。少しだけ、目に生起が戻った。


「さとり様!」


 慌てて駆け寄る燐。


「燐……戻ったの?」


 消え入りそうな声。何とか聞こえることは出来るが、近づかなければ聞こえない。燐は立ち膝になり、さとりに擦り寄る。


「はい。燐はここにおります」


「複数の声が見えます……誰か来たのですか?」


「はい。さとり様に用があるとで、霧雨魔理沙と言う方が、今目の前に」


 さとりはゆっくりと魔理沙に視線を向ける。


 視線が噛み合った瞬間。魔理沙は言い知れない悪寒に背筋を凍らせた。さとりの薄紫色に光る目が、魔理沙の心打ちを全て見透かしてような、そんな不快感に襲われる。


 ニ~三秒見続けた後に、さとりは目を見開いて、前のめりに倒れるように魔理沙に近づく。


 突然のことに、四人は慌ててさとりを起こした。


 目の前にいた魔理沙が率先して抱き起こすと、さとりは魔理沙の服を手放さないようにキツク握った。


「……お願い」


「え……?」


「……お願い……魔法使いさん」


 既に乾き切っていた体のはずなのに、泣くことすらも難しいはずなのに、さとりはぽろぽろと涙を流して懇願する。


「お空を……私の大切は家族を、あの神から救って!!」

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