さとり
「ところで人間のお二人さん」
さとりが居るというある場所に向かうために。四人は長い廊下を歩いている。そんな時、燐が歩きながら魔理沙と妖夢を見やる。
「いい加減その仮面外したら?」
ここに来るまでたいして気にしていなかったのか、今更になって仮面をしていることに違和感を感じ始めた二人は、燐に指摘されいそいそと仮面を外した。
ヤマメに聞いた感じだとさとりも仮面を所有しているらしいので、恐らくは人間の類なのだろう。だからこの館の中では、仮面をしているメリットなど無いようなもの。
「それで、さとりの様子はどうなんだ? 私は実は噂程度にしか聞いていないんだ」
距離が縮まり、協力関係を得た魔理沙は、少しずつ情報を引き出そうとしている。
「うん……」
気分が優れないのか、燐は俯く。話したくないのか、どう話せばいいのか分からないのか。それは定かではなかったが、燐は「会えば分かるよ」と言ってはぐらかした。
廊下を歩き階段を下る。感覚的に逆時計回りに回りながら地下に下りているイメージだ。一体何分間歩いたのか分からないが、ついに最深部に辿り着いた。
「この先にさとり様は居るよ。ただし……覚悟はした方がいい」
燐の忠告に三人は頷く。
扉が開き、埃っぽい風が流れてくる。魔理沙たちは口を手で押さえて、なるべく埃を吸わないように努めるが、それは難しかった。
上とは比べ物にならないほどの埃にフランは咽る。さすがの妖夢も、息苦しそうだった。
こんなところに居んのかよ。人間なのに、どんな神経してんだ。
心の中で愚痴る。ランプの淡い光だけが立ちこめるその部屋は、大きな扉が一つだけあり、その前に椅子が一脚置いてある。
「あの椅子に座ってるのが、さとり様だよ」
燐に指摘され、魔理沙たちはどんな人物か確認するために椅子に近づいた。そして前に回り、さとりの顔を確認した時に、三人の顔は驚愕に歪む。
声にすらならなかった。ただただ息を飲み、その者を見た。
衰弱し、肉の削ぎ落とされた頬。やせ細った体。生きているのが不思議なくらい、その少女は弱っていた。無造作に伸びた髪。恐らく鮮やかだったであろう紫色の髪は、この過酷な状況下で色彩を失い、毛根から白く染まってきている。目も虚ろで、もはやどこを見ているのかも分からない。視界に入っているであろう魔理沙たちですら、見えていない。
「こんな……こんなことがあっていいのか?」
狼狽しうろたえる魔理沙。そう思っているのは魔理沙だけではない。妖夢は見ていられないのか、口を押さえて視線をそらした。フランも息を飲み目を見開いてさとりを見ている。
「一体何があった?」
燐は俯き。答えない。
「何があったか答えろ! 燐!!」
魔理沙の怒号に、燐は悔しそうに歯を噛みしめる。
「…………り……ん……?」
燐という言葉に、さとりが反応を示す。少しだけ、目に生起が戻った。
「さとり様!」
慌てて駆け寄る燐。
「燐……戻ったの?」
消え入りそうな声。何とか聞こえることは出来るが、近づかなければ聞こえない。燐は立ち膝になり、さとりに擦り寄る。
「はい。燐はここにおります」
「複数の声が見えます……誰か来たのですか?」
「はい。さとり様に用があるとで、霧雨魔理沙と言う方が、今目の前に」
さとりはゆっくりと魔理沙に視線を向ける。
視線が噛み合った瞬間。魔理沙は言い知れない悪寒に背筋を凍らせた。さとりの薄紫色に光る目が、魔理沙の心打ちを全て見透かしてような、そんな不快感に襲われる。
ニ~三秒見続けた後に、さとりは目を見開いて、前のめりに倒れるように魔理沙に近づく。
突然のことに、四人は慌ててさとりを起こした。
目の前にいた魔理沙が率先して抱き起こすと、さとりは魔理沙の服を手放さないようにキツク握った。
「……お願い」
「え……?」
「……お願い……魔法使いさん」
既に乾き切っていた体のはずなのに、泣くことすらも難しいはずなのに、さとりはぽろぽろと涙を流して懇願する。
「お空を……私の大切は家族を、あの神から救って!!」




