火焔猫燐
ヤマメに連れらてこられた場所は、紅魔館よりも少し小さ目なお屋敷だった。ただ、もの凄く周りが暗く、お化け屋敷でも見ている気分だった。
「ここがさとりの家だよ。じゃあ私は警備とかいろいろあるから、ここで失礼するね」
案内を終えて役目を終えたヤマメにお礼だけ言って、魔理沙たちは改めて屋敷に向き直る。
「うし。行きますか」
魔理沙の呼びかけに妖夢とフランは頷き、魔理沙を筆頭に屋敷の中に入っていく。
中は思ったより酷かった。埃りが喉に張り付く。むせ返る程の量のそれは、歩くたびに舞い上がった。
「酷いな、これ」
家具も装飾も、数カ月は放置されているようだった。誇りを被り、蜘蛛の巣が貼られている。
「本当に人が住んでいるんでしょうか? まるで、白玉楼のようです」
妖夢の元家も、主が居なくなり、人が少なくなるとこのような感じになっていった。確かにそれを考えると、人が済んでいる気配がない。
「……いや。居るよ」
そんな中、フランは屋敷の奥をジッと見ていた。
「奥にいる。微かだけど話し声が聞こえる」
吸血鬼としての特性でもあり、普通の人間よりは五感が優れているようなのだ。もちろん普通の人間である魔理沙や妖夢には何の音も聞こえない。
「どっちか分かるか?」
魔理沙の問いに、フランは「あっち」と指を刺す。
フランの誘導に従い、屋敷の奥に入って行く。長い廊下を抜け、目の前に扉を開けると、開けた場所に出た。天蓋がガラス張りで、そこから降り注ぐ光が、床の草花を照らしていた。
「なんだここ? 太陽が差し込んでいるのか?」
魔理沙は上を向く。しかし光に目が眩む。
「ここは地下ですから、そんなことはないと思うのですが」
妖夢も不思議そうに辺りを見渡す。すると、フランがキッ! っと右側の扉を睨み付ける。
「何かいる」
その言葉に、二人は警戒態勢に入る。
睨み付ける方向の扉がゆっくりと開く。すると、そこから姿を現したのは。
「……!? あんたたち、誰?」
赤い髪を三つ編みにし、黒いドレスワンピースを着た、猫耳の少女だった。
少女は警戒し、身構える。魔理沙は咄嗟に警戒を解き、人のよさそうな振りを装う。
「ああ、驚かせて悪かったな。私は霧雨魔理沙だ。こっちは妖夢、そんでこいつがフラン。私たちはさとりに用があってここに来たんだ」
捲し立てるように話し始める魔理沙。交渉に関しては魔理沙に任せようと、二人は成り行きを見守る。
「……どうも」
猫耳の少女は、まだ少し警戒しているようだった。
「勝手に入ったことは悪かったと思ってるよ、でもお前もさとりも、客の出迎えが出来るほど余裕がないだろ?」
「!! なんで……!?」
釣れた。
「なんとなく耳にしたんだ。お前たちが屋敷から出てこないって。だから様子を見に来たって訳さ」
「あんたたち……もしかして諏訪子の知り合いか?」
「……」
魔理沙は考える。ここで諏訪子の知り合いと言うのは簡単だった。だが即答は出来ない。そうする要素が足りないし、まず何でこいつ等が諏訪子と言う名前を知っている? 何か接触があったからだろうと推測は出来るが、それによって何をされたのか。
よく見ろ……彼女は今も明らかに警戒している。それに、怒りも垣間見える。何かひどい仕打ちをされたのか……さとりが引きこもった原因を作ったのか。とにかく、いい印象はないかもな。
「……嫌、違うよ。どちらかと言えば逆だ」
「もしかして! 諏訪子を殺しに来てくれたの!?」
その通りだ。だが、この食いつきようは何だ? こいつら……何をされたんだ?
「諏訪子がここに居るんだな? 案内しろ」
結果として彼女からの助力を得ることは出来た。結果オーライではあるが、三人は些か不安になっていた。
彼女の取り乱しよう、必死に求めるさまは、判断力を鈍らせるほどのことだった。それだけのことをされた。そしてそれは、諏訪子がそれだけ人道的ではないと言うことにもなる。
考えてても始まらない。まずは懐に入らないとな。
「ああ、そうだ。あんたの名前は?」
思い出したように訪ねる魔理沙に、彼女は素直に答える。
「あたいは火焔猫燐。さとり様の従者だよ」




