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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
地霊殿
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変人根暗の嫉妬女

「旧地獄。ここはならず者。所謂世の中に害をもたらした罪人たちが集まる場所なんだ。簡単に言ってしまえば、幻想郷にある地底の監獄。外で言う刑務所みたいなもんだね」


「にしては。まるで繁華街みたいに騒がしいし、明るいんだな。刑務所って言ったら、もっと暗くてジメジメしてんだと思ったよ」


 魔理沙の意見はもっともで。大抵の人間は刑務所と言えば汚い、暗い、飯が不味いだと思う。その考え方は妖夢もフランも同じで。ここが監獄だと言われても信用ができない。


「刑務所も刑務所だよ。まあすぐわかるよ」


 ヤマメに連れられ旧地獄に続く橋を渡る。だが途中、何か空気のようなものを通り抜けた感覚が肌を捕らえた。


「いま……」


「そう。これが刑務所の刑務所たる所以だよ」


 ヤマメの一言、魔理沙それだけで理解できた。


 結界だ。


 この旧地獄の中心に巨大で強力な結界が張り巡らされている。その結界は目には見えず、内側からは触ることも許されない。しかし外からなら侵入は可能なのだ。ただ入ったら最後。この空間からは任意に出ることは無理なのだ。出ようとすれば、元と場所にいつの間にか戻ってきてしまう。だから出るには必ず監獄の管理人に許しを得なければならない。


「これ、出れるのか?」


 魔理沙の疑問にヤマメはあっけらかんと笑う。


「大丈夫だよ。出る時にまた私に声かけてよ。出したげるからさ」


「……そういえば、なんでヤマメは出て来てたんだ?」


 当然の問いである。これだけの結界。任意では出られないこの状況で。なぜヤマメは外に出ることができたのだろう。


「ああ。それは私がこの刑務所の看守してるからな」


 さらりと言ってのけた。魔理沙たちは驚きの表情でヤマメの後ろ姿を見る。全くそんなそぶりは見せなかったし、尚且つ看守ということは組織に所属する者のはずだ。しかし見た目では看守と言われてもしっくりは来ない。


「本当に看守なのか?」


「本当だよ。ほら」


 そう言ってヤマメが提示したのは、パスポートのような物だった。顔写真が付きご丁寧に名前と階級まで明記されている。そして、そのパスポートには管理組職と左上に書かれていた。


「マジなんだな」


「だから言ってんじゃん」


「俄かには信じられませんが。こう証拠を出されると、信じるしかありませんね」


「失礼だな君は」


 妖夢は「あ、すみません」と謝り、続けた。


「余りにもフレンドリーだったもので。看守と言うと、勝手な妄想ではありますが、怖いと言う印象がどうしてもあるので」


「まあ間違っちゃいないよ。私も一様で看守任されてるだけだしさ。前々からやってる奴なんかは結構恐いらしいし。でも私の知ってる奴らだといないんだけどね」


 そう言うと。ヤマメは「あっ」と何かを思い出した。


「一人いたわ。変人根暗の嫉妬女が」


「誰ですかその、いかにも社会不適合者てきな人は」


 妖夢だけでなく、フランも興味を注がれるようで聞き耳を立てている。魔理沙は特に関心はないようで周りを見渡していた。


「そいつはね~」


 ヤマメが話し始めた時だった。適当に近場の橋を見ていた魔理沙は、その上に立つ一人の女性に目が行った。行ったというよりは、見るべくして見たといっていいかもしれない。金髪のショートボブの髪型のその女性は、恐ろしい形相で魔理沙たちを見ていたのだから。


 女性と魔理沙の視線が合わさる。だが女性は一切視線を逸らすことなく、結果怖くなった魔理沙が視線を逸らした。


「どうしました?」


 魔理沙のちょっとした異変に気付いた妖夢は尋ねる。キスメはいつの間にかフランと楽しく談笑しているようだ。


「ああ。なんか……あっちの橋の上に居る人が、ものっそい見てくるから」


「橋?」


 妖夢がそちらを向く。


「……誰も居ませんが?」


「はい?」


 妖夢の言葉に疑いを覚えた魔理沙は、改めて橋を見る。だが妖夢の言うように誰もそこには立って居なかった。


「……マジか」


「見間違いだったんじゃないですか?」


 妖夢にそう言われたが、魔理沙は納得は言っていなかった。心にべたつくような何かが残っていて、それが払拭できないでいるのだ。


 本当に見間違いなのか? 今私は、何か大切なものを逃した気がする。






「もしもし」


 一人の女性が、携帯電話に話し出す。


『ああ。パルちゃん? そっちの状況どんな感じ?』


 電話の相手は幼さの残る声をしている。女性は溜め息を吐く。


「その呼び方は止めてくれないかしら? 煩わしい」


『パルスィなんて舌を巻く名前なのが悪い。諦めてパルちゃんと呼ばれなよ』


 パルスィは舌打ちをする。だがこれ以上の反論はせずに、本題に入る。


「恐らく企業の者と思われる輩が入って来たわ。恐らくこれから地霊殿に向かうかもしれない。さっさと終わらせなさい」


『はいは~い。了解了解。かしこまりましたよ~。でも安心して、もう終わってるから』


「……あっそう。じゃあ」


 パルスィは切り上げるようにと提案しようとしていた。しかし声の主はパルスィの言葉を遮る。


『嫌だよ。この子がどれくらい近づいたのか見届けなきゃいけないんだから。あ~楽しみだな~。いったいどうやって壊れるんだろう』


 相変わらず良い趣味してるよ。


 パルスィはそう思った。こいつは、失敗することを前提としている。失敗することになんの後悔、後ろめたさも持ち合わせてはいない。こいつのとっては、ただの遊びなのだと。


「じゃあ私は帰る仕度を始めるとするわ。準備出来たら例の場所に」


『はいは~い。諏訪子ちゃん了解しました~』


 それだけ言って電話の相手、洩矢諏訪子との電話を切る。再度溜め息を吐き。


「さてと」


 パルスィは、旧地獄の繁華街の雑踏に紛れ、地霊殿を目指す。

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