表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
星蓮船
28/41

死神

「魔道試験?」


 霊夢には聞きなれない単語だった。元々企業との接点も金の受け渡しのさいにあるだけで、深くまで企業に関わりをもってはいなかったからだ。今でさえそのスタンスは変えずにいる。だからこそ知らなかったのだ。聖白蓮に起こっていた事実を。そしてもしそれがわかっていたのなら、今こうして向かい合っていることもなかっただろう。


「魔道試験は、企業が行っていた人体実験の名前です。元々、対天人用の実験でした。魔法素質のあるものを集めて、人為的に天人にとっての天敵である、死神を作ることを目的として」


「死神」


 名前だけなら聞いたことがある。死を操る荒唐無稽な能力の加えて、霊子を切断できることから、能力封じの異名さえある怪物。ただその数は非常に少なく。今わかっているだけで死神の能力を持っているのは二人、いや……そう言えば一人になったんだったわね。


「霊夢さんもわかっているでしょ? 死神は希少価値の高い種族。能力も桁外れで、人為的に習得すらもできない奇跡の存在。それを作ろうなんてもっての他なのよ。


 だけどね。企業のやつらは最悪の方法でその奇跡を再現しようとしたの。


 魔法使いを使ってね」


 鬼気迫ると言う表現が似合う。それほど今の白蓮は冷静ではなかった。恨み辛みが言葉の端々に感じとれ、その凄みに霊夢は動くことができず、ただただ聞き入る。


「ここからは少し順を追って説明しましょう―――



 まず、企業がなんで天人の天敵である死神を欲したのか。それは単純に天人にたいする抑制力として必要だったからよ。天人って、人類最強の種族って言われててね、いくら企業の管理下にあるとはいえ、いつ反旗を翻すかわからない奴等を野放しにできなかったのよ。だからこそ死神が必要だった。


 死神は世界に何人もいるものじゃない。企業も血眼になって死神を探してみたけど、結局見つかったのは二人だけ。その内の一人は協力はしなかったけど、変わりに企業の管理下に収まり、この幻想郷に来た。もう一人は協力を受け入れ。天人の住む天界の監視役になったの。


 だけどそれだけでは企業は収まらなかった。死神は確かに強い。だけど全能ではない。たった一人で天人たちを押さえ込むのだって不可能だ。そこで考えられたのが、死神化計画。


 死神の能力を科学的に解明して、それを普通の人間にも使わせようとする計画。そのために死神の力を研究して、数多くのデータを手に入れた企業は、それが魔術的能力であることを発見した。


 それから企業は、魔法使いを集め始めた。けれどね、魔法使いは常に自分の知識欲を満たすために動く存在。死神を作るという計画に共感はすれど、自分ではならずに誰かをサンプルにしたいと思っているやからばかりだった。そのせいで企業に反発して一時的に争いが起こったこともあるわ。


 魔法使いは強い。能力が効かないだけじゃなくて魔法使い自身の能力もバカにできなかった。このままでは消耗するだけだと考えた企業は、そこで新たな計画を立案させた。


 それが魔道試験。


 魔道輪廻の術は知ってるでしょ? あれは普通の人間を魔法使いにするための術。それを使い企業は人為的に魔法使いを量産することにしたの。


 だけど、それが悲劇の元になった。


 わからないかもしれないけど、あれはとても成功例の少ない術。行った人間全てが魔法使いになることはけしてない。約8割。それくらいの人間は全て死んでしまうのよ。


 運良く生きていたとしても、それからさらに死神化の実験が始まり、たった2割の残った人間はさらに8割に減らされてしまう。百人いたら四人しか残らない計算ね、まったく吐き気がする。


 まあそれくらい死神にするにはかなりのリスクが伴ったのよ。だけどその中でも成功例はいた。完璧とは言えなかったけど、死神に近い性能を持った子達ができた。できた。と言うだけで、実際使えたものじゃなかったようだけどね。


 死神の力を手にいれても、その力を持った子達は皆半狂乱になってしまい、やがて自我が崩壊してったそうよ。死神の力は想像を絶するものみたいで、大人ならもしかしたら耐えられたかもしれないけど、何故か成功例は全員が全員十歳前後の子供だった。それは何度実験しても変わらなかった。


 そこから成功例を増やしていくために死神化にほぼ成功している子供の研究を始めたわ。そしてサンプルは多いにこしたことはない。これが何を意味しているかはわかるわよね? 企業は身よりの無い子供や戦争の一等地に赴いてストリートチルドレンになった子供たちを集め始めた。そんなに多くの子供が居るのかと思うけど、中国ではまだ一人っ子政策なんてものもあるし百人そこらを集めるのは造作もないことだったのよ。


 集まった子供はそれだけじゃなかった。魔術師……能力者の家計の子供も集められた。その中に、私の弟もいたのよ。まあ、弟は失敗作だったみたいだけどね。


 集められた子供たちはやはり殆ど死んでまったみたいだけど、生き残った成功者。本物の成功者がついに現れた。それが今から約、六年前の話よ。



「企業は死神を使って今大規模の侵略作戦を始めようとしてる。このままじゃ天人の人たちに危険が及んでしまう。私はその作戦を止めたい。そのためには霊夢さん……あなたの力が必要なの」


 聖は右手を霊夢の前に差し出す。


「私と共に来て、霊夢さん。いえ、霊夢」


 打ちのめされた感じだった。霊夢は確かに企業との直接的な深い関わりはないにしろ、今まで企業の世話になっていたのは事実だ。無意識の内に信頼を置くようになっていったのだろうか。だからこそ今の話しは内心ではショックなのかもしれない。だがそれだけだ。それだけしか感じないはずなのに。今ここで聖白蓮が差し出している手が、霊夢にとっては忌まわしいものに感じている。


「私は……」


 私は企業の人間ではない。そして星蓮船のメンバーでもない。ただの賞金稼ぎで、一日の飯が食えるならそれでいいと思っている。私の平穏な日常は壊したくない。何もなければそれにこしたことはない。だけれどもし。もし……私がこれから企業の依頼を受けて、今しーちゃん、いや、聖が言ったみたいな作戦に駆り出されれることがあったら? 私は素直にその作戦を受け入れることができるのだろうか?


 無理だ。絶対にそんなことはできない。そんな非人道的なことを行っている企業には信頼を置くことはできない。なら星蓮船は? 星蓮船はどうなんだ?


 霊夢は聖の目をジッと見つめる。彼女は意思の籠ったしっかりとした目つきでいまだに手を差し出してる。


 星蓮船は信頼におけるのか? 確かに聖は知り合いだ。だが、だからと言ってすんなり受け入れることはできないだろう。けれど聖は言った。止めるために力を貸してほしいと。普通に考えれば、聖は天人を救うために何かをしようとしている。そしてそれは、企業に対しての復讐も含まれている。私はそれに加担できるのか?


 霊夢は目をキツク瞑り、顔を上に向ける。


 結局私は、どちらを選ぶくことはできないみたいだ。今はっきりとわかった。私はどちらも信用していないんだ。ならなんで? 何でこの手を忌まわしいと思ったんだ?


 始めは企業を無意識に信頼しているからだと思った。でもそれは間違いで、私は企業のことなんてたいして重要でもなかった。裏切ろうと思えばきっと今すぐにも裏切れるはずだ。ならなんで裏切らないんだ? 私は何に後ろ手を引かれているんだ?


 疑問による疑問。ただしその答えが全くと言っていいほど出てこない。このままでは堂々巡りのイタチゴッコだ。霊夢もそれはわかっているわかっているのにも関わらず、考えずにはいられないのだ。感覚的にわかっているのかどうか不明だが、霊夢にとってここは、自分の人生を左右するもっとも重要な分岐点になるだろう。だからこそ考える。考えて答えを出す。答えが出ないのなら、出るまで考えればいいだけの話しだ。


「……霊夢。私はあなたに酷なことを言っていると思います。でも私は、霊夢が例えどんな答えを出すにしろ、それを受け入れるだけの覚悟はできています」


「それは……企業に付くか? 星蓮船に付くか? ってことかしら」


「……ええ」


 どちらにつくか……私は……どっちに。


 その時だった。凄まじい轟音と共に船が揺れた。


「何!?」


 聖は戸惑い、急激な揺れに耐えられずしゃがむ。霊夢も同様にしゃがむ。すると霊夢の耳にしている通信機が、ザザザッ! っと音を鳴らした。


『……む……』


 通信機をしている方の耳の押さえて声をよく聞く。雑音が多く細部までくまなく聞くことは出来ないが、声だけははっきりと聞き取ることができた。


『霊夢? 聞こえる?』


 声の主は、十六夜咲夜だった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ