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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
星蓮船
26/41

旅人

 廊下を駆ける咲夜は、背後から迫る軍勢を肌で感じつつ、船の動力部を目指していた。


 あそこの角を左!


 水蜜から聞いた動力部への道程を思い出しながら、突き当たりを曲がっていく。三人の男の乗組員と鉢合わせになり、三人はギョッとした表情んした後に素早くナイフや特殊警棒を構え臨戦体制に入る。咲夜は舌打ちを一つして手元に出現させたナイフを敵に投げ、三人がそれを打ち払ったり回避した隙をつき、一瞬できた死角からナイフで切り裂いていく。短い悲鳴を漏らし三人は床に倒れた。咲夜は気にせず走り抜ける。


「……うまくやってよ、水蜜―――」



 ことは十分前。早苗救出のために船内に入り牢屋に向かっていた咲夜たちだが、突如として船内アナウンスが流れた。


『乗組員に告ぐ!』


 その声に聞き覚えのある咲夜と水蜜は、眉を寄せながらアナウンスに耳を傾ける。ナズーリンは続ける。


『船内に賊が侵入した!』


 その言葉を聞いた咲夜たちは一目散に走り出した。


 まずい。まさかこんなにも早く気づかれるなんて思いもしなかった。どれにする? このまま二人で早苗の救出に向かうのもありか? いや、この場なら例えブラフだとしてもここは。


 一瞬の思考。しかし咲夜はいたって冷静だった。元々の作戦は、霊夢が敵の大多数を引き付けている間に早苗を救出。即座に水蜜と早苗の二人を外に連れ出し、なに食わぬ顔で霊夢と合流。共にとんずらとゆう流れだった。だがこれには大きな欠点がある。


 それは、二人の目的がばれないとゆうことだ。


 仲間として星蓮船に居座るためには、誰にも気づかれずにことをなさなければならなかった。しかし現実はばれた。作戦は根底から崩され崩壊した。


 そこで咲夜は次の策に以降した。実際この時咲夜の頭には他に2~3つくらいの作戦が浮かんでいたが、今の状況と地の利をいかした作戦はこれだと思った。


「電撃戦だ!」


 即時決着。これは咲夜が考えうる中で、もっともハイリスクでハイリターンな作戦だった。


「人数の少ない私たちはバラけることはない。敵さんはきっとこう思ってくるわだったらそこを利用する。


 すでに敵さんにはこちらの目的は見据えられているはず、だが発したのが幾分か遅かったお陰でこちらには距離のアドバンテージができた。このまま強行突破で早苗のいる牢屋に侵入して救出。水蜜はそのまま離脱を試みて」


 一気に捲し立てるように作戦を告げる。水蜜は頷き、と同時に不安になる。


「咲夜はどうするんだ!? あと霊夢ってやつは」


「気にしないで」


 とはゆうものの、自分達が助かるなんてゆう保証はない。だがそれでいい。咲夜はいざとなれば外にでるすべはあるし、持ち合わせている。霊夢はどうかはわからないが、もしもの時は非情に徹するべきだ。そもそも今回の依頼は早苗の救出。早苗さえ助け出せればあとはどうなろうが、咲夜の知ったことではない。


「水蜜は早苗の救出に全力を尽くして、それでこれ」


 いつのまにか手に持っていた小型の黒いタグ状の物を水蜜に渡す。


「通信機。使い方は知ってるでしょ?」


「もちろん」


「あとそうだ。動力室ってどこ?」


「次の角を左、その次を右、階段を上がって左、そしたらまた左で、あとは真っ直ぐ。そしたら目の前だよ」


「わかったわ」


 水蜜の捲し立てるような説明を聞いて、なんの考えもせず頷く。普通なら覚えられずもう一度聞くのがセオリーだが、咲夜はこれで全部覚えられる。


 昔っから頭の回転と記憶力だけは桁外れだったからな。私の知ってる中じゃ一番だ。


「とりあえず互いに死なないこと。それだけはわかってて。信じてるわよ」


 純粋な信頼を向ける。この信頼を重いと思うこともあったけど、今は嬉しくてしかたない。


「誰に言ってんのよ」


 強気に返す水蜜に、咲夜は微笑む。互いに一度アイコンタクトをすると、そのまま二てに別れた。



 ―――ああは言ったけれど、やっぱり不安は不安だ。もっとものことがない限りは大丈夫だと思うけど、さっき会ったあいつが、どうしても頭にちらつく。


 奥歯を噛み雑念を捨てようとするが、浮かぶのは神子の姿ばかり。ただの一瞬のすれ違いではあったが、神子のただならぬ気配はそれだけで充分なほどに、咲夜の思考を掻き乱す。


 今は深く考えるな。自分の目的だけに集中するんだ。もう、動力室は目の前だ。


 咲夜の前には大きな扉が一つ。回りに乗組員はいない。素材からして鉄製に見えたのでぶち破ることは無理だと判断し、扉に素早く背中を着け中の音を確認する。注意深く聞いても中に大勢の人の声は聞こえなかったので、恐らく単身か少数精鋭なのだろう。


 咲夜は一度大きく深呼吸をすると、扉のノブに手をかける。鍵がかかっていないことや、罠が仕掛けられてないことを確認すると、意識を集中させる。


 もし入った瞬間に狙い撃ちされたらたまったものじゃない。直ぐに時間を止められるよう、霊力だけは溜めておかないと。


 一定量の霊力が溜まると、咲夜は意を決して中に入る。


「……あんたは」


 入った瞬間の射撃はなかったが、代わりにあったのは、大きな光輝く宝石と、その前に立っている寅丸星だった。


「待っていたぞ。お前たちの誰かが来るのを」






 今、表で何が起きてる。くそ。なんでここは船内アナウンスが入らないんだよ。


 星蓮船内にある牢屋。早苗は表で船員たちがどたばたしているのを感じとり、何かが起きたことまでは覚ることができた。しかしなにぶん今この場には誰もおらず、情報遮断のためアナウンス入らないので、歯がゆい気持ちを味わっていた。


「この牢屋さえなければ」


 牢屋の柵を握る。すると、力が抜けたようにへたりこんでしまった。


 霊吸呪符とゆう霊力を吸収し術者の力とする高度な呪(まじな)い。これは豊聡耳神子の手により作られた対能力者用の呪符で、触れるか、もしくは霊力を込められた攻撃をすると、それを瞬時に吸収する。しかし高度な呪いなぶん作るのに一年以上かかる上に、その呪符を作っている間はほとんど身動きが取れないのだ。だから神子と言えど何枚も生成することはできず、これも随分と前に護身用にと作っていたものを牢屋に貼ったのだ。


 これさえなければ、こんな船すぐに沈められるんだが。


 奥歯を噛み、悔しさに顔を歪める。水蜜たちが今、自分を助けるために頑張っているのにも関わらず、何もできない自分が情けなくてしかたがないのだろう。


 早苗が俯いていると、不意に視界に人影が見えた。それも今まで気配すらなかったのに、今の一瞬でテレポートしたみたいに突然現れた。


 顔を上げると、そこにいたのは。癖のある灰色セミロングに、オレンジと黄色を混ぜたような眼鏡。黒のゴシック衣装に身を包んだ少女、こいしがしゃがんでいた。


「こんにちは、東風谷早苗さん。助けに来たよ」


 話しかけられたことさえわからないくらい、こいしを認識することができない。対峙しているのに、目の前にいるはずなのに、“いる”とゆうことが不思議でしかたがない。そんな感じだった。


「……どうしたの?」


 首を傾げる少女に早苗は我に返り、目の前のこいしに焦点を合わせる。


「いや。助けに来てくれたのか?」


「うん」


「どうして? それに、お前はいったい……」


「私は古明地こいし。霊夢の友達で、咲夜に頼まれたから来たの」


 無邪気に笑うこいしに、名前を聞いた瞬間驚きのあまり目を見開く早苗。


「……古明地?」


 その名前に聞き覚えがあった。とゆうより、この業界で“古明地”の名前を知らないものはいないほど有名だ。特に姉である古明地さとりはA級の危険人物で、企業からの監視が何人も送られてはいるが、全て音信不通になる。


 だが実は、その姉の影に隠れ忘れ去れた危険因子がいる。企業ですらその実態を把握できておらず、容姿、性別、種族、そのものに関係する全てがわかっていない。ただわかっていることは、そいつはさとりの妹だとゆうことだけだ。


「……お前は、古明地さとりの妹か?」


 早苗の問いに、こいしは笑顔で頷く。


「そうだよ。私は古明地さとり(おねえちゃん)の妹」


 はっきりした。この何もない、何も感じないやつこそ、今まで企業が追いかけていた幻想の怪物。その通り名こそ。


「……空想状の旅人」


 S級危険因子の化け物だ。

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