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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
星蓮船
23/41

思惑

 一輪に連れられて着いた場所は、大きなホールのようなスペースの場所だった。


「さて。始めるか」


 一輪はそのホールの中心に立ち、入り口付近にいる霊夢を睨む。霊夢は不敵な笑みを浮かべる。


「手加減とかしないでよ? もししたら、殺すから」


 えんぎでもないことを言うが、霊夢ならやりかねない危うさがある。そのことは咲夜も重々承知だ。


 霊夢ははっきり言えば戦闘狂だ。普段そんな素振りは一切見せないが、その潜在意識は戦闘を欲している節がある。恐らく霊夢にとって戦闘は唯一の快楽なのかもしれない。


「手加減か……お前が私を楽しませることができなければ、するかもな」


 一輪は刺すような視線で霊夢を睨むと、背中から煙のようなものが立ちこみ始め、それが人のような形を作る。


「雲山」


 ナズーリンはそう呟いた。


 煙は雲となり、一輪はそれを背負ったように見える。なかなかの威圧感に咲夜は眉を寄せるが、霊夢はいまだに笑っている。


「咲夜。そう言えばあんた甲板に用があったんじゃなかったの? 私は適当に遊んでるから、さっさと用事済ませてよ」


 霊夢の突然の申し出に咲夜は目を丸くするが、すぐに微笑む。


「あなたがそう言うなら、お言葉に甘えましょうか」


 まったく。考えていないようで考えてるんだよな~、霊夢って。


「ナズーリンさん。甲板ってどう行くんですか?」


「え? ああ。甲板はそこの扉を出て右に言って、突き当たりを左に行けば出れるよ」


 霊夢の言動に気を取られていたナズーリンは、一瞬戸惑うも咲夜の問いに的確に答える。


「じゃあ私は行くわね」


「はいよ~」


 霊夢に声をかけると、振り向きもせずに手をひらひら振るだけだった。それを確認して咲夜は部屋を出る。


「……お友達に負けるところを見せたくなかったのか」


 一輪の挑発に霊夢はカッ! と笑い。


「見せるまでもなく楽勝だから、時間の無駄だって意味で行かせたのよ」


 一輪を挑発仕返した。


「……後悔するなよ」


 その一言と共に、雲が膨れ上がる。






 いっぽうそのころ。甲板では乗組員達がせかせかと働くなか、村紗水蜜は船の舳先方の縁に両腕をつけてで黄昏ていた。


 咲夜。いつの間に潜入したんだろう? ハイスペックなのは昔からだけど、まさかこうも単純に潜入してくるてはね。それにもう一人の……あれが博麗の。どことなく早苗に似た雰囲気を纏ってたけど、それよりも神奈子さんとかに似てたかな。なんか飄々としてるんだけど、内側には秘めた力があるってゆうか。


 ただひたすら霊夢のことを考えていた水蜜に、声がかけられた。


「何をボーッとしているんだ。水蜜」


 水蜜は声のした方向に振り向くと、そこにいたのは、耳のように逆立った特徴的な茶色の髪に紫色マントに龍の刺繍、白のブラウスに青色のロングスカートを履き、腰に細身の片手剣を吊るしている女性がいた。


「神子様」


 彼女の名前は豊聡耳神子。聖白蓮に共感し、この星蓮船の立ち上げに関わった人間だ。


「なんだか辛気臭い顔してるぞ?」


「そうですかね? あんまり気にしてませんでした。それより神子様はここに何しに?」


「外に出たらすることは決まってる。空気を吸いに来たんだよ」


 神子はそう言うと水蜜の隣に立ち、肺一杯に空気を吸い込む。


「……やはり幻想郷は空気が澄んでいる」


「……ええ」


 神子の言うことに水蜜は大きく共感した。今まで潜入調査とはいえ星蓮船に乗って様々な場所を巡った、それこそ日本の外にも。だがこの幻想郷の空気に勝る土地はなかった。


「だからこそ、ここを我々のものにしたい。これほどの土地を、企業の奴等に食い物にさせるわけにはいかん」


「………」


 食い物か。はっきり言って今の企業に幻想郷をどうこうできる力はない。もし企業が幻想郷統治を仕掛けるならば、必然としなければならないことが山ほどある。それこそ軍隊を使うほどの大きな問題もある。なんせ、幻想郷の権限を握る神を消さなければならないんだから。まあ神には神だから、適材な奴等はいるんだけどさ。


「……私は、幻想郷が好きです」


「……私もだ」


 ここを戦場にはしたくはない。そのために幻想郷支部にわざわざ移動願いを出したんだ、かならずあいつらの目論みは崩す。そのためには早苗を。


 水蜜は真剣な面持ちで手を強く握った。神子はそれを目を細めて見つめた。


 不意に周囲がざわついた。乗組員が手を休め、我先にと船内に戻っていく。神子はそれを見ると目をつむった。


「……船内でお祭りをやってるみたいだな」


「え?」


 疑問に思う水蜜に神子は微笑を見せてから、船内に戻っていく。水蜜は?マークを浮かべて神子を見送った。


 船内に入っていく乗組員がいるなか、外に出て来る人影が見えた。神子は気にせず流れに乗って行くが、逆らっているやつに近づくにつれて妙な寒気を覚えた。二人が交差する瞬間、視線だけをそいつに送ると、そいつ、咲夜も神子に冷徹な視線を送る。


 何事もなく入れ替わり神子は船内に、咲夜は水蜜の元に。


 狂犬が一匹、紛れ込んだかもな。


 船内に入る瞬間、神子はもう一度咲夜を見てそう思うのだった。






「おぉぉぉらっ!!!」


 力任せに振るわれた右の拳を、一輪は雲のガードをし防ぐ。


 一輪の雲は一輪の動きに連動して動く。だが雲といえどそこに質量が存在する。その拳の一つ一つはまるで、巨大な鉄の塊に突進をくらったかのような重みがある。そして雲ゆえに体積が広く、こと接近戦において、一輪は絶対的な攻撃力を持っていた。しかしそんなもの、霊夢には関係なかった。


 一軍相手にも引けを取らない一輪でも、霊夢の戦闘ぶりは予想外だった。まるで鬼のような戦いに乗組員が興味を持ち、次第にホールの中を人が埋め尽くしていった。


 こいつ。何者なんだ?


 人間の限界をとうに越えている動きに一輪は戸惑う。しかしこれくらいは霊夢には遊びに過ぎない。いちよう全力でやってはいる。しかし以前美鈴とやりあったみたいな緊張感はなかった。


 こと武道においては美鈴は頭一つも二つも飛び出ていた。そして霊夢は思った通りの戦いかたができなかった。全てを捻り潰す霊夢の攻撃に、美鈴は技術で戦った。そして美鈴の一点をつく鋭い攻撃に、霊夢は速さで戦った。それがあの近郊を生んだのだ。


 普通は今の一輪のような状態になるのだ。一方的なワンサイドゲーム。そして初めて霊夢にあった奴等はみなこう言う。


 あれは人間ではない。


 それを考えると、いかに美鈴が武道家として優れているかがわかる。


 やはりここは距離を空けるしか。


 一輪は大きく後ろに下がると、霊夢はそれをわかっていたようにそれに会わせて掌低を一輪の胸に見舞う。


「ぐっ! がぁぁぁ!」


 後ろに行く勢いに霊夢の掌低の勢いが上乗せされた逆カウンター、一輪はそのまま地面を背中で滑るようにし、仰向けで倒れた。


「いいの入ったわね。これで終わりなんて言わないでしょ? ギャラリーが黙ってないわよ?」


 霊夢は人差し指でちょいちょいとかかってくるよう挑発する。一輪は起き上がりながら雲を纏う。


「何者なんだ……あの霊夢とか言うやつ」


 ナズーリンも一輪と同じことを考えていた。まるで赤子のように遊ばれている一輪を見るのは初めてだった。


 実力差がありすぎる。あのままじゃ一輪は勝てない。いくら模擬戦とはいえ、幹部が負けることは許される訳はない。圧倒的な力で捩じ伏せるからこそ、乗組員は尊敬し従い着いていくんだ。考えろ。何か一輪の助けになることはあるか?


 盛り上がる観客たちの声。霊夢はそれに答えるようにパフォーマンスを派手にしていく。一輪はただの引き立て役になりさがる。苛立ちから攻撃が少しづつ少しづつ単調になっていき、霊夢はそれを軽くいなすので、さらに単調になっていく。


「一輪! 一度冷静になれ!」


 ナズーリンの怒号に、一輪は反応し攻撃の手を止める。


「あ? 何? そろそろギブアップ?」


 霊夢の何度目かになる挑発を、一輪は冷静に見る。そしてボクサーのファイトポーズを取り、雲を纏う。今までとは違う威圧感があった。


「おっと……これは遊んでられないかもな~」


 霊夢は苦笑いしながら一輪を見ると、一瞬で意識を研ぎ澄ませる。


 あの霊夢とか言うやつの弱点はわからない。しかし一輪がまともに戦えば、例え常軌を逸したやつでも渡り合える。私は何もできないが、一輪なら必ず勝ってくれる。


 一輪の雲によるジャブからのストレートを霊夢は高速で前進しながら躱していく。そしてあっとゆうまに至近距離に来る。


 超接近戦。これはもはや雲の入る余地もないほどの至近距離。それに加え霊夢は、相手に攻撃をさせる隙すらも潰す。一輪に弱点があるとすればこれだ。霊夢はそれを一度見ただけで看破した。しかしだからといって、そんなすんなり超接近戦なんてものはできはしない。それこそ一輪に近づく前に雲の餌食になる。これは霊夢の身体能力があって、初めて可能となる手だ。


「おら!」


 霊夢の米神を狙った右回し蹴りを一輪は腕でガードしようとする。だがそれは無謀なことであるのを霊夢は知っていた。なんせ雲の守りがあったときですら衝撃で弾かれたのに、素手のガードなどあってないようなものだ。


 全速力の蹴りが決まったと思った矢先、一輪はしっかりと立ってガードしていた。


「お?!」


 霊夢は驚愕する。一輪は蹴りを弾いて右拳を引いて大きく振り抜く。霊夢は半身になることで躱し、カウンターのボディーブローをするが、それが何かの障壁に阻まれるように一輪に当たるすんでで止まった。


「くっ!」


 雲か!


 攻撃が阻まれた霊夢は一度一輪と距離を開ける。一輪は追撃はせず、構えたまま霊夢の動向を伺う。


 あの障壁みたいなのは十中八九雲だ。視覚では捉えにくいが、一輪の周りに薄い空気の流れを感じる。なるほどね~。大きいだけじゃないってことか。


「面白くなってきたわね」


 霊夢は一度深呼吸をし目をつむる。すると緋色の炎になったように服が燃え上がった。それはやがて終息していき、火の粉が散るだけとなった。そして目は紅くなり、髪の色も若干だが紅くなっている。


「夢想天生」


「……雲山・乱」


 それを見た一輪は、雲の衣の流れを加速させ、周囲に風が巻き起こった。


「第二ラウンドといきましょうか?」


「……こい」

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