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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
星蓮船
22/41

船内

「よろしくえっと……リーダーでいいかしら?」


 差し出された手を軽く握り、咲夜は呼び方を聞いた。星は少しだけ嫌そうな顔をすると。


「あまりリーダーは好きじゃないんだ。もしよかったら気安く名前で呼んでくれないか?」


 と言って来たので、咲夜は遠慮して寅丸さんにして、霊夢は遠慮なしに星と呼び捨てにした。


 郷に入っては郷に従えと思っていたが、どうやらそれほど堅苦しくする必要性はないようだ。咲夜は少し気が楽になる。まあフレンドリーと馴れ馴れしいはまた違ったものなのだが、と霊夢を見て思うのだった。


 霊夢は自由に部屋の中を物色していたので、咲夜は襟首を着かんで近くに引っ張る。


「さて、星蓮船に加入したからには皆に紹介しなきゃいけないんだが、まあこないだのこともあるし一月の間は仮加入としてもらうよ」


「仮加入」


 前回とゆう単語に咲夜は引っ掛かった。きっとこれは早苗のことだろう。突っ込んで聞くべきかどうか迷ったが、バッカスとの一連があったため避けた。もしここで突っ込んでいったら、星はなんとも思わないがバッカスは不信に思うかもしれない。この短時間で同じ話題を二回もするのだから、勘が鋭い奴は何かに気付くかもしれない。それに先程のバッカスの態度をみれば、これが最重要案件であることは間違いないようだ。


「まあ何もないことを祈るよ。仲間を疑うのは心が痛いからね」


 ぬるい考え方だ。咲夜は思った。仲間意識は確かに組織には重要なことだろう。しかし仮に信用してしまうと、裏切られる場合が組織には存在する。仲間を疑うのは至極真っ当なことなのだ。そうすれば、そうしなければ、組織とは成り立たない。


「そうね。早く仲間と認めてもらうわ」


 それは嘘だった。咲夜はいつもさらりと嘘をつく。顔色、声色、態度、全てを普通にして嘘をつく。だから咲夜の言葉はどれが嘘でどれが本当かわからない。対峙する方としては、もっともやりにくい相手だろう。


「まあ。私はすでに仲間だと思ってるけどな。これは形だけだから、あまり気負わないようにな」


 星はそう言うと咲夜たちに着いてくるよう言い、部屋を出る。バッカスには仕事に戻るよう命じ、星に船内を案内してもらった。


「初めはどこに何があるかわからないと思うが、直になれるだろう。因みにご飯は、食堂で組織全体で食べる。同じ釜の飯を食う仲になれば、自ずと仲間意識もしてくるだろう?」


 互いを信頼させるために、協調性を高めるようさせているのか。確かに、刷り込みじゃないけど、以外と効果的かもね。


 これは咲夜自身の経験に基づくものだ。


 咲夜も元々紅魔館の人間ではない。だが幾数の時間ともに同じ卓を囲むと、悩みや癖、好きなものよ苦手なものなんかがわかってきて、信頼関係や仲間意識みたいなものが築かれていった。それが今の関係だ。


 人数が多い分直ぐにとはいかないが、着実に仲間意識も築かれるだろう。


「食事の時に君たちのことは紹介しよう。次は……」


 廊下を曲がろうとしたその時、星は誰かと出会い頭にぶつかってしまった。


「いった。たくどこ見て」


 咲夜は聞き覚えのある声に反応するが、すぐに表情は元に戻る。声の主は星を見ると慌てて謝る。


「ああっ、星か。ごめん」


「構わないよ。それよりどっかに行くんじゃなかったのか?」


「ああ。ちょっと外の空気を吸いに行くだけだよ。直ぐ戻る」


 声の主は三人の脇を通ろうとした時、咲夜と視線を合わせた。声の主、村紗水蜜は一瞬目を大きく見開くと足を止めかけたが、直ぐになんでもなかったように歩いて行く。それを三人は見る。


 水蜜が見えなくなると星が水蜜の紹介をした。


「彼女は村紗水蜜だ。この船の整備士の一人だ。なかなかいい腕を持っていてな、いつも助かってるよ」


 村紗水蜜と聞いて霊夢が反応して咲夜を視線だけで見る。咲夜と霊夢はアイコンタクトだけで意思疏通をさせると、星に振り返った。


 星も振り返りまた進んでいく。それから数分歩くと、ある部屋の前で星は止まった。


「ここを君たちの部屋にしよう。たしか空き部屋のはずなんだ」


 鍵のかかってないドアを押し開け、中に入る。中は二段ベッドが一つと机が二つあるだけの質素な部屋だった。


「取り合えず食事までまだ時間があるからゆっくりするといい。この部屋は自由に使ってくれ。私はまだ仕事があるからこれで失礼するが、なにかあったら首領室に来てくれ」


「ありがとう。ならお言葉に甘えて少しゆっくりさせてもらうわ」


 咲夜はニコリと笑うと星もニコリと笑う。ではまた、と手を振り別れる星を見送り、咲夜は部屋の扉を閉めた。


「さてと」


 これからの行動をどうするか考えなければ。まず大前提として水蜜にもう一度会うこと。それから早苗の監禁場所を特定すること。それさえわかれば作戦しだいで被害を最小限に押さえて目的を達成できるかもしれない。ただ不安なのは、こいしの行動が読めないことか。


 船内に潜入してからも咲夜は地道にこいしの足取りを追っていた。しかし痕跡一つ見つけることは叶わなかった。こいしの精神操作は並大抵のものではないらしい。


「今は深く考えてないようにするか。さて、霊夢」


「はいはい」


 部屋の中を物色していた霊夢は咲夜に呼ばれて振り返る。


「水蜜を探しに行きましょう。たぶん甲板にいると思うから」


「外の空気吸いに行くって言ってたもんね。私たちが中にいる今、船降りることはないか」


 咲夜と霊夢は部屋を後にして甲板に向かって足を運ぶ、しかし。


「どこかしらここ?」


 歩いて数分、二人は船内で迷っていた。


「無駄に広いわねここ」


 霊夢も呆れたように頭の後ろをかく。


 途方に暮れていると二人に、後ろから声がかかる。


「君たち。見ない顔だけど新入りか?」


 二人は振り向くと、そこには小柄で灰色の短めの髪に鼠ねような丸い大きな耳をしていて、灰色のワンピースを着た少女と、坊さんのような着物を着た空色の短めの髪をした女性がいた。


「この船内は広いからな、迷うのも無理ないだろう」


 少女は毅然とした態度で近づいて来る。その後ろを少し恐い顔をしたまま女性が付いてくる。


「それで、どこに行くつもりだったんだ?」


「甲板に行くところだったんです」


 咲夜がそうゆうと少女は一度頷き、付いてくるように言った。


「そう言えばまだ私の名前を言ってなかったな。私はナズーリン、見ての通り妖怪だ。この星蓮船の幹部の一人をやっている。それでこっちの顔が恐いのが部隊長の雲居一輪。星蓮船の戦闘員を纏めている」


「………」


 ナズーリンに紹介され、一輪は咲夜たちに会釈をする。


「人見知りが激しくてな、あまり喋らないんだ。顔が恐いのも、ただ緊張してるけだ」


 一輪はナズーリンにそう言われるのが恥ずかしかったのか、咲夜たちから顔が見えないようにそっぽを向いた。それを見てナズーリンはクスクスと笑う。


「こう見えて凄い強いんだぞ?」


 なんだかそうは見えないけどな。


 咲夜はそう思い一輪を見ると、視線を感じたのだろうか、完全に横を向いてしまった。


 適当に咲夜たちも自己紹介をすませると、ナズーリンは二人に訊ねた。


「ところで君たちはどこか部隊に入ったのか?」


 ナズーリンの問いに咲夜と霊夢は言葉を詰まらせた。そもそも部隊があること事態知らなかったし、元々入るつもりもない。


「もしかして星から何も聞いてないのか? すまんな、あの人は物忘れが激しいんだ。代わりに私から説明しよう。


 星蓮船はテロ組織だが、形は軍のそれと同じなんだ。規律があり、部隊があり、それを纏める長があり。星は仲間意識を大切に、上下関係を嫌う性格をしているが、この組織にも確かな上下関係は存在する。形だけにするように努めているが、多人数を纏めるにはそれなりの圧制は必要になる」


「ゆえの、部隊」


 咲夜の言葉にナズーリンは頷く。


「人数をわけてそれを纏める。さらにそれを星が纏める。それが今の星蓮船の組織図だ」


 なるほど。もっと制約が少ない組織かと思ってたんだけど、そうでもないのか。それに幹部の方は何かと割りきってる雰囲気はある。長があれだから、下がしっかりする必要があったのかもしれないわね。


「けれどそれだと、部隊間で揉め事とかあるんじゃない?」


 咲夜の問いにナズーリンは首を横に振る。


「この組織にそれはないよ。なんせ部隊を束ねる者たちが仲がいいからね。上同士が浸しいと、自と下に影響がでるものだ」


「そんなもん?」


 信じられないとゆうように、霊夢はナズーリンに聞いた。


「聴衆心理とは存外わかりやすいんだよ。特にこうゆう仲間意識を大切にする組織は、少数より大勢だからね」


 皆と同じことをするってことか。それは確かに安心もする。でもそれは、霊夢にはわからないことだろうけど。


 案の定よくわからないのか、頭の後ろをかいて納得いかない顔をしている。


 霊夢は性格じょうあまり嘘をつくのが得意ではない。そして思ったことが口に出るために、刃に衣着せぬ言動が周りを傷つけることもある。それゆえ集団行動を嫌い、理解ある人としか交流を持たない。


 自分の気持ちを優先するその性格は、よく言えば意志の強い人間、悪く言えば我が儘な奴だ。しかしだからと言って全部を全部、自分の意見を通したり、本当のことを言うとはさすがに限らない。ちゃんとそこはわきまえている。現に今だってそれ以上の反論はしていない。無駄に争うことはしないようにしている。


「……それで君たちは、どこの部隊を希望してるだ? 戦闘、諜報、整備、隠密なんかもあるぞ。あとは」


「あっ、私は整備の方に興味があります」


 ナズーリンが続けざまに言おうとしたが、咲夜が割り込んでくる。


「そうなのか。じゃあ整備士の方に一報いれておこう」


「あっ。じゃあ私は戦闘員で」


 次に霊夢がシレッとそう言うと、一輪が凄まじい形相で睨んできた。


「なっ……なに?」


 霊夢が萎縮しながら訪ねると、一輪はボソリと呟いた。


「弱いやつは私の部隊にはいらない」


「あ?」


 その言葉に霊夢はカチンときたのだろう。明らかに先程とは態度が違う。


「まあまあ。君は見た目が華奢だから。それに戦闘員は皆屈強な戦士たちばかりだ。細腕の少女には少し荷が重いと思うが」


 ナズーリンも宥めようとしているが、霊夢にそれは逆効果のようで、さらにフラストレーションを貯める結果となった。


「へ~そ~。なら私があんたに勝ったら文句はないわよね?」


「私は誰からの挑戦も受けとるが、死んでも知らないぞ?」


 一輪の心配を霊夢は一言、カッ、と笑い最大限相手を馬鹿にした口調で。


「雑魚がいっちょ前に私の心配なんかしてんじゃねぇーよ。あんたこそ死にたくなかったら全力でこいよ」


「なら……場所を変えるぞ」


 かなり怒りを覚えた一輪は、冷静な闘志を剥き出しに咲夜たちを置いて足早に先に行った。咲夜たちはそれを追いかける。


「ちょっと霊夢?」


「まあまあ。勝ちゃいい話しでしょ? さっさと行くわよ」


 目を爛々と輝かせ、獰猛な笑みを浮かべながら、咲夜たちの前を歩き出した。


「君の友達は実にデンジャーだね」


 ナズーリンの呆れたように苦笑いをし、咲夜は溜め息を吐いた。


「まあ。それでこそ霊夢なんですけどね」


 そう言う咲夜の顔は、憎めない相手を見るかのような笑みをしていた。

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