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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
星蓮船
21/41

潜入

「さ~てと。来たはいいけど……人が多いな」


 湖畔を取り囲む森の木々に隠れ、霊夢とこいし、そして咲夜は星蓮船の様子を伺っていた。


「ねぇ咲夜、連絡はまだなの?」


 待っているのが飽きてきたのか、ここに来てからずっと同じことを言っている。


「もうちょっとの辛抱だから」


 もう何度目かの台詞を口にする。しかし咲夜もいい加減待つのには疲れた。何度も携帯を見つめ連絡がないかを確認した。いちよう星蓮船の付近にいることは、留守電をいれて確認させているはずなのだが、一向に鳴る気配がない。


 何してるのよ水蜜。


 目的を目の前にして足踏みしている歯痒さが、咲夜を苛立たせる。


「ねぇこいし、あんたの力で…………」


 霊夢がついに強行手段に及ぼうとこいしに力を使わせようと訊ねたら。先程まで一緒にいたはずのこいしの姿はなかった。


「あれ? こいし?」


 辺りを見渡すがこいしの姿どこれか気配すら感じなかった。


「どうしたの? 霊夢」


「こいしのヤローが消えた」


「……え?」


 咲夜も辺りを見渡すがこいしの姿はなかった。霊力の痕跡を辿ろうと意識を集中してみるが、まったく感じ取れない。


「どこいったのよあの子」


「こいしのことだし、目を離した隙に船に乗り込んだんじゃない?」


 こいしとゆう人物がわからない咲夜にとっては、霊夢ほど楽観的にはなれなかった。


 この作戦の全容をわかっている彼女が、もし相手側の人間だったなら全てがバラされて水蜜が危険な目に合うだろう。そしてもしそんなことになれば早苗救出など夢物語になってしまう。


 流暢に構えてられないわね。水蜜の連絡がない以上危険だと思うけど、乗り込むなら早い方がいい。無謀な考えだがいたしかたない。


「行くわよ」


「え? 連絡は?」


 霊夢の問いを無視して咲夜は星蓮船に向けて歩き出した。霊夢も後を着いて行く。


 星の蓮に近づくにつれて乗組員がチラホラと見えて、皆が咲夜と霊夢に注目しだした。しかし二人はそんなの意に介さないような堂々とした立ち振舞いを見せる。星の蓮に乗り込むために掛けられた梯子の前に辿り着いた二人は、門番のように入り口に立つ妖怪に声をかけた。


「ちょっといいかしら?」


 咲夜に話かけられ、妖怪は威圧的な態度で二人を見下ろす。確かに妖怪の容姿は強面だった。魚人とでも言うのだろうか。咲夜たちより1mほど高い身長に、鮫のような目付きに尖った牙、青黒い皮膚に首もとに鰓(えら)のような切れ目がある。


「何者だ?」


 容姿に似合った低く威圧的な声。しかし二人はまったく臆することなく毅然とした態度で対峙する。


「この船に乗る許可が欲しいわ。私たちを星蓮船に入れて頂戴」


「何?」


 ここで水蜜との関係を明かさなかったのは、情報がどれだけ広がっているかがわからなかったからもあるが、新人として船に乗り込んだ場合、以下の権利が無条件が得られるのもあった。


 知らないからゆえ教えられる。


 こうゆう組織は結束力が固いぶん情報規制が緩い可能性がある。ならば大抵の情報は乗組員全体が把握しているだろう。例えば、早苗の軟禁場所とか。


 恐らく今一番、星蓮船内を賑わせた話題であるだろう。自分たちの敵である企業の人間を捕らえたのだから、全ての人間がこのことを把握し、かつ死守するための作戦を叩き込まれているはずだ。


「星蓮船に入りたいだと?」


「ええ。私たち、これでも能力者よ」


 魚人の乗組員は訝しげな顔で二人を見る。まあ人間の、しかも女子がテロリストになりたいと言ってきたらそうなるのもわかる。しかし星蓮船はだからといって能力者を無下には絶対にしない。能力至上主義を謳うテログループだ。能力者と言うだけで差別がなくなるはずだ。


「いいだろう。今からリーダーのところに連れていく、着いてこい」


 そう言って魚人の乗組員は別の見張り手配させ、梯子を登っていった。二人はそれに素直に付いていく。


 船の甲板に降りると、先程よりも、せかせかと働いている乗組員で賑わっていた。獣人、鳥人、魚人、人間とバラエティにとんでいて、能力者の組織とゆうよりは妖怪の巣窟に思える。


 妖怪や魔物も、言ってしまえば元人間で能力の影響で、姿や体構造が変わっただけなのだ。だから能力者であることは間違いないが、その異形の姿に人々は恐れをなし、妖怪や魔物と表現するようになった。


 別に咲夜は差別主義の人間ではないが、これだけの種類がいると少しだけ気味悪い。こんな状況でもあっけらかんとしている霊夢は、懐が深いと言うか何も考えていないと言うか、とにかく通常運転だった。


「さすがに驚いたか? 安心しろ、良い奴ばかりだ」


 魚人の乗組員は気を効かせてくれたのだろう。なかなか紳士な人のようだ。魚人の乗組員が歩き出すので、二人は付いていく。


「元々ここにいる連中は、差別による迫害や、理不尽な虐待を受けてきた奴等ばかりだ。手が違う、顔が違う、脚が違う、姿が違う、普通と違う。ただそれだけの理由で虐げられ、疎まれ、恐れられた」


 歩きながら話す魚人乗組員は、その当時のことをなんてことないように、普通に話していた。きっとこんな簡単に話せるほど軽いことはされてないだろう。しかし、この人は普通に話していた。この人たちが受けてきたである虐待がわかっている咲夜にとって、この人に感情移入してしまう。


 元々咲夜も、幼少期には差別を受けていた。回りの子から虐めにあい、親には殺されかけ、家を捨て、野草を食べ、泥水を啜るような生活をしてきた。ある人に拾われ、まともな生活をしだしたのは親に捨てられて三年後のことだった。


 咲夜も当時のことを思い出し、苦々しい気持ちになる。きっとこれくらいのことは、ここにいる連中は誰しもが経験しているのだろう。だからこそこれだけの種類の人が、互いを差別することなくいるのだ。


 少しでも気味悪いと思ってしまった自分が嫌になる。咲夜は反省と後悔をし、自分に苛立つ。


「だが俺たちは星蓮船の人たちに拾われた。だから星蓮船に忠義を誓うんだ」


 地獄から救ってくれた。まるでそう言っているようだった。実際咲夜も拾われるまでは地獄のようなものだ。


「あなた、名前は?」


 咲夜に問われ魚人の乗組員は歩きながら答える。


「バッカスだ」


「バッカスさんね」


 しかし感情移入したからと言って本文を忘れてはいけない。あくまで目的は早苗の奪還。そのためならば誰でも利用する。例え同じような境遇の人でも。


「星蓮船って、いつだったかしら……確か企業の人間を捕らえたのよね?」


 その言葉にバッカスは反応を示した、足を止め振り返り、威圧する眼差しで咲夜を見下ろす。咲夜はそれを冷徹な目付きで見上げる。


「……なんの話だかわからんな」


 バッカスは何事もなかったかのようにまた歩き始める。それを受けて霊夢は少々戸惑ったように。


「えっ? 知らないの? 咲夜知らないって」


 と言ってきたので、咲夜は溜め息を吐き、霊夢に聞こえるくらいの小声で喋る。


「あのね、私たちはまだ星蓮船に正式に加入した訳じゃないの。この船の中で一番得たいのしれない人間なのよ。迂闊に話す訳にはいかないでしょ」


 にしても、さすがに一筋縄にはいかないか。狐の尻尾くらいは掴めると思ったんだけど。もしかしたら、結構探るのは難しいかもしれないわね。やったぱり水蜜に会う以外早苗の場所を確認するのは無理か。


 それから二分ほど歩くと、ある扉の前で止まった。


「少し待っていろ」


 バッカスは二人にそう言うと、扉の横に取り付けてある電子版を起動させ数字を浮かび上がらせる。いくつか数字を打つと、扉が開いた。


「リーダー。バッカスです。実は我ら星蓮船に加入したいやからがいたので、連れて参りました」


「入れ」


「はっ」


 促されバッカスは部屋に入り、二人も続く。


 そこは絨毯質の床に飾り気のない白い壁。棚がいくつか置かれているだけで、その中には資料と思われるファイルが数札。それ以上の物は入っていなかった。部屋の奥、左右真ん中には大きめで凹型のデスクが置かれていて、座り心地のよさそうな椅子に一人、髪が黒と金色が混じったショートヘアに朱色に近いベストのような物に中は袖のないYシャツ、霊夢の巫女服にもある白い袖に寅模様のスカートを履いていた女性がいた。


「こんにちはお二人さん。私は星蓮船リーダー、寅丸星だ」


 星は書きかけの書類から顔を上げ、椅子から立ち上がると二人に近づく。


「こんにちは寅丸さん。私は咲夜で、こっちが霊夢よ」


 咲夜が故意的に苗字を伏せたので霊夢は疑問に思ったものの、口に出すことはなかった。


「咲夜さんに、霊夢さんだな。覚えたよ」


 星の二~三度頷くと、息を一つ大きく吸い込み。


「ようこそ、星蓮船、星の蓮へ」


 そう言って、右手で握手を促した。

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