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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
星蓮船
19/41

情報

 次の日、博麗神社。霊夢はいつも通り朝の掃き掃除をしていて、それの手伝いに咲夜がいた。


「咲夜、ごみ袋取ってきて」


「わかったわ」


 以前に博麗宅には居候と言う名の召し使いに来たことがあるので、大抵の物の場所や位置は把握している。咲夜は迷うことなく神社の裏側にある倉庫に向かい、ゴミ袋を取って来る。


「ありがと。でも悪いわね、手伝ってもらっちゃって」


「いいわよ。もし向こう側から連絡があった時に、この方が効率がいいから」


 咲夜がなぜ博麗神社にいるかとゆうと、連絡をスムーズに教え、かつ次の動きを早くするためだった。連絡用外線は一本しかないため、これは仕方ないことと言える。


「にしても……面白い形してるわよね」


「これ?」


 咲夜はスカートのポケットから御札を二つ降りにした感じの機械を取り出した。


「携帯電話ってゆうみたいね。私も使ったことないわ」


 咲夜は携帯電話を開いて霊夢に渡す。霊夢は興味津々にジロジロと見て、カチカチとボタンを押している。


「外にはこんな機械もあるのね。一度行ってみたいわ」


「向こうに行くには企業の許可が必要になってくるわ。手続きだけで二日はかかるわよ」


「向こうからこっちに来るのに、手続きなんかいらないのにね」


 この世界幻想郷は、外の世界と隣接して作られている別世界だ。異端因子である能力者が流れ着いてくるのがこの幻想郷、その他の人間が住んでいるのが現代世界、いわゆる外の世界だ。しかし外の世界にも能力者は存在する。逆に言えば、幻想郷にも普通の人間はいる。ただしその数は人口の二割切っている。


「能力者は危険な存在。規制はかかるわよ」


 企業により制定された入場審査は、能力者に外の世界でむやみやたらに暴動を起こさせないための処置だ。能力者は一人で戦艦級の力を有するため、一般人の多い現代世界で能力を使わない契約を交わすのだ。これは術式の一種で、能力者が能力を使うと手錠のようなものが力を制限させるのだ。それにより一般人でも能力者を捕らえられるようになる。


「まあね。でも、星蓮船って今外にあるんでしょ?」


「さぁ? そこまではわからないわ」


 その時だった。咲夜の持っていた携帯電話が、簡素な着信音と共に震えた。


「きた!」


 咲夜は相手を確認することなく電話にでる。


「もしもし!」


『もしもし、神奈子さん?』


 聞こえて来たのは、女性にしては少しハスキーな声質をしている声だった。そして咲夜は、この声に聞き覚えがあった。


「その声……やっぱり間違ってなかったわね」


『? 誰だあんた』


 電話の相手は少しだけ警戒心を混ぜた言い方をした。咲夜は自分が怪しい者でないことを告げ、自分の名前を言った。


「十六夜咲夜よ。久し振りね、水蜜」


 咲夜の名前を聞いたとたん、水蜜は大きな声をあげる。だがすぐに静かになった。恐らく水蜜は星蓮船内から電話をしているから、大きな声をあげると内密に電話しているのがばれるからだろう。


『なんで咲夜が神奈子さんの携帯電話持ってんだよ?』


「まあ色々とあったのよ」


 咲夜はこれまでの経緯を掻い摘まんで説明する。自分達が星蓮船に潜入すること、そのために水蜜の助けが必要なこと。そして早苗救出後星蓮船から逃げ出すことなど。


『なるほどな、理由はわかったよ。ならすぐ仕度しな』


「仕度しなって……星蓮船は今どこにあるの?」


 正確な場所がわからない咲夜たちは、水蜜の案内がなければ星蓮船に潜入することはできないだろう。


『星蓮船の詳しい場所はわからないが、そろそろ幻想郷に入る』


「入るって……星蓮船は組織的に移動してるの?」


 言ってみたがこれはあり得ないだろう。そんな目立つ団体が闊歩していたらすぐに企業が察知するはずだ。


『そう言って遜色ないだろう。なんせ星蓮船は“星の蓮”とゆう空飛ぶ船に乗っているんだから』


「はぁ!? 空飛ぶ、船!?」


 咲夜の荒げた声に近くで聞いていた霊夢が驚く。そして痛そうに左耳を押さえる。


「あっ、ごめん」


「『うん、いいよ」』


 どうやら電話越しで水蜜も耳をやられたらしく、二人から声が飛んでくる。


 申し訳なさそうになるべく抑えた声で咲夜は話出す。


「で、その空飛ぶ船が、そろそろ幻想郷に入ると」


『ああ。ただし、まだ停泊はしていない。停泊したらもう一度電話する』


「わかった」


 そう言われて電話を切ろうとしたその時、霊夢が徐に携帯電話を奪うと、水蜜に話し出した。


「村紗さんだっけ? その必要はないわよ」


『……君は』


「博麗霊夢。とりあえず、そんなことしなくても私たちは星蓮船見つけられると思うから、電話してこなくていいわよ」


『そうゆうわけにはいかないだろ。場所の特定は早いに越したことがないわけだし』


 その通りだ、乗っている本人より早く見つけられる可能性は有り得ないに等しいだろう。咲夜もここは、水蜜の案に素直に乗っかった方がいいだろうと思っている。


「大丈夫よ。そろそろその手のプロが来るから」


 どこから来るのかわからない自信に、水蜜が唖然とするのが電話越しでも伝わる。だが霊夢はお構いなしに。


「じゃ、そうゆうことだから」


 と言って電話を切った。


「ちょっと霊夢、大丈夫なの?」


 流石に心配になった咲夜は霊夢に問いただしてみるが、霊夢はいつも通り軽い感じに「へーきへーき」と言うだけだった。


「でも……」


「言ったでしょ? その手のプロが来るって」


 霊夢がそう言って空を見ると、黒い点のようなモノがこちらに近づいているのがわかった。


「―――さ~ん」


「来た来た」


「霊夢さ~ん」


 声が大きくなるにつれて姿がはっきりとしてきて、咲夜の顔が(やつ)れていくのがわかる。


 黒い翼に、半袖のブラウスにはところどころ装飾が施されていて、黒いスカートに白いニーソックスに一本足の下駄を穿いた、黒いセミロングの髪の女性が急行下で降りてきた。


「霊夢さん新聞いりませ―――」


「い! り! ま! せ! ん!」


 女性が言い終わる前に霊夢が言葉尻と同時に鉄拳とぶ。顔面にクリーンヒットした女性はそのまま石階段の方に落下していった。


 数分したのち、這いつくばるように女性は登ってきた。


「そんな……連れないこと言わないでくださいよ」


 虫の息の女性に冷たい視線を浴びせる二人。それを見て女性は頬を赤く染めてクネクネと悶える。


「ああん、その冷たい目線がよ~す~ぎ~る~」


「変態」


「もっと言ってください!」


 霊夢は溜め息を吐いて頭の後ろをかく。咲夜も腕を組んで溜め息を吐いた。


「「やっぱこいつ苦手だわ」」


「そうやって揃って貶すのも、ポイント高いですよね?」


 頭痛でもするかのように頭を押さえる霊夢。咲夜は眉間のシワが徐徐に濃くなってくる。


「わかったから。文に聞きたいことがあるの」


 霊夢は気持ちを切り替えて真剣に話をしようとすると。


「スリーサイズだったら内緒ですよ?」


 業とらしく照れた態度を取るので、我慢できずに霊夢は胸ぐらを掴んで殴ろうとするが、咲夜がなんとか抑える。


「すいません調子のりました」


「わかりゃあいいのよ」


 旗から見た構図は浮気がバレた夫とそれを見下ろしている妻といった感じだろうか。なんせ文は土下座してるから。


「それで、なんですか?」


 真面目モードになった文は手帳と万年筆を取りだす。


「星蓮船の場所を教えてほしいの」


 星蓮船とゆう単語を聞いて文の口許がにやける。良い話しを聞かせてもらったたとゆうように、勢いよく立ち上がり万年筆の筆を霊夢に突き付ける。


「何をしてくれますか?」


 それなりの情報を得るにはそれなりの対価が必要になる。それは情報交換の基本で当たり前のことだ。


「それは」


 霊夢が口を開きかけた時、咲夜が霊夢の口に人差し指を当てる。


「私の報酬をあげるわ。どうせ使い物にならないから」


「咲夜?」


 目線でいいの? と訴えかける霊夢に対し、いいのよと優しい目線で言い聞かせる。


「……二人で会話しないでくれません?」


 蚊帳の外にいる文はあまり良い気はしないようで、不貞腐れた顔で二人を見る。


「ああごめん」


「ついつい文がウザいあまりに」


 いい!


 霊夢と咲夜の息の合った罵倒に文はよだれをたらす。


「じゃあ文、報酬は咲夜のもので大丈夫?」


 霊夢が再度確認するように文に訪ねるが、文は少し考えていた。


「ちなみに報酬ってなんですか?」


 そう言えば話ていなかった、と二人は思いだし、咲夜が補足する。


「幻想郷の最高責任者からなんでもプレゼント」


「それはお仕置きでもいいんですか!?」


 駄目だこいつ、早くどうにかしないと。


 文のM加減に二人の気持ちはいつも以上に一致した。


「それなら話は早い方がいいですね。私が収集した情報によりますと、星蓮船は今度湖の端に停泊するみたいですよ?」


「湖って紅魔の?」


 霊夢の問いに文は肯定する。


「ちなみに後三時間後です」


「なら紅魔館で支度をしましょう。着替えたほうがいいし」


「なんで?」


 咲夜の提案を、霊夢は本気でわかっていないようだった。咲夜は溜め息を吐き、文はニヤニヤしている。


「何よ?」


「こんな格好で行ったら怪しまれるわよ?」


「……なるほど」


 自分の格好と咲夜の格好を改めて確認すると、巫女服とメイド服とゆう見た目で引き付ける服だった。潜入にはなるべくなら目立たない格好のほうがいい。


「私の部屋に仕事用のフォーマルな服があるから、それ貸してあげるわよ。どうせ巫女服以外持ってないでしょ?」


「まあお察しの通り」


 善は急げとゆうように早々に掃除を切り上げて、博麗神社の霊夢の家に鍵をかけて、紅魔館に向かおうとする。


「それでは報酬の件、よろしくお願いしますね」


 紅魔館に行こうとする二人を見送りながら、文は念を押すように約束のことを霊夢たちに言った。霊夢は振り向かずに後ろに手をヒラヒラさせて、わかったことを告げる。


「……さてと。私は久し振りに阿求さんのところにでも行きますかね」


 そう言って飛び出そうとした時、何かをふと感じ取った。


「あれ? そういえば、霊夢さんたち以外に誰かいた気がしたんですが……気のせいだったのかな?」


 少し腑に落ちないところがあったが、考えても思い出せないので、文は諦めて飛び立った。

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