始動
「こんなとこに来ていいのか? 私は最重要人物だから謁見はできねぇはずだぞ」
早苗はぶっきらぼうに話す。肝が座ってるとゆうか、とても捕らえられている人物の態度ではない。
「ナズに許可はとってある」
しかし村紗はそれに腹を立てる訳でもなく、当たり前のように普通に話かける。
「……看守はどうした?」
ボソリと小声で、目線で看守がいないかを促した。村紗は頷き、早苗の目線の高さまでしゃがみ面と向かう。
「看守は外に待機させてる。監視カメラは音声は拾わないから、小声で喋れば看守には聞こえないよ」
それを聞いて早苗は安堵の溜め息をもらす。
「それならいいんだ」
「ここまで来るのに時間かけた、ごめん」
泣きそうな顔になる村紗だが、早苗はどうすることもしない。いつも通りぶっきらぼうに話始める。
「それで、何があった」
目に溜まった涙を脱ぐい、真剣な顔つきになる村紗。
「星蓮船が幻想郷に戻ってきた、二ヶ月ぶりにだ」
「……」
もうそんなにたつのか。神奈子には心配かけてるだろうな。
「……それで、ついこの間そのことを神奈子さんに伝えたら、対策を用意するって言われた。助けられる見込みがあるのかもしれない」
助けか。それは嬉しいな。現状、捕らえられていては何もできない。神奈子に一つでも情報を渡さなくては。
「……いつだ」
「明日だ」
「早急だな」
「音速で飛んでるからな、これ」
「そうだったな……村紗屋」
「なんだ?」
「気を付けろよ。星蓮船は、まだ何か隠してる気がする」
「早苗の勘は当たるからやめろよ。でも……わかった」
そう言って村紗は立ち上がり去る。
早苗は姿が見えなくなるまでは目で追っていたが、見えなくなると虚空を眺めた。
「……私の勘は……博麗屋ほどじゃないと思うがな」
ところ変わり、守矢神社。石畳の階段。雨があがりしっとりとした空気が辺りを包む。四人は神奈子との話を終えて、帰路についていた。
「……しかし、とんでもねぇ案件になってきたな」
魔理沙は右手で首の後ろを擦り、左右に倒して首の緊張をとる。
「そうね。色々と厄介な話だからね」
咲夜がそれに同意し、妖夢も無言のまま頷く。
神社を出てから終始考えにふけっているの霊夢は、ボソリと、神奈子の言葉を思い出した。
「神を、殺すか―――
「神……」
神奈子の言葉に、四人は言葉を失いただ呆然とした。
「諏訪子は神。いわゆる土地神とゆうやつだ。力は大妖怪なんかめじゃないくらい強大だ」
神とゆう存在は、その多くが妖怪であったり妖精の類いなのだ。人々は昔から不可能だと思っていることをできる者を、神と崇めていた。だからこそ異形で異常な妖怪や妖精が神とされていたのだ。中には霊力をもつ人間なんかが、現人神として崇められたりしている。ただし、近年ではそれが能力者であるとわかっているので、神とゆう存在の大多数が神として扱われなくなった。
その中でも神として崇められているのは、土地神や仏像、地蔵、釈迦如来なんかだ。
それらの実力はやはり神と言われるだけあり桁外れなのだ。普通の人間が勝てる訳があるはずがなく、神に勝てるのは同じ神だけだと言われている。
その神を相手にしろと言っているのだ、唖然とするのも頷けるだろう。
「……神を捕らえるなんて、できるのかよ」
まるで他の三人の気持ちを代弁するように、魔理沙は呟いた。
「私も捕らえられるなんて思ってない。最悪殺しても構わない」
「神殺し……できるんですか?」
まったく検討のつかない妖夢は、神奈子に訪ねた。しかし答えたのは霊夢と魔理沙だった。
「できる」
「霊夢か……私ならな」
「……どうゆうことですか?」
それは妖夢だけでなく、咲夜も思っていた。いくら妖夢より付き合いが長いとはいえ、まだまだ知らないことが多すぎる。特に魔理沙の方は秘密主義なので、過去の話一つ聞くのに何日もかかる。
だからこそ咲夜には興味があった。霊夢が絶対的信頼を置く魔理沙と、魔理沙が絶対的信頼を置く霊夢に。
「私は神を封印する術を持っているし、神殺しの術もある」
「私は……神殺しだけだ」
淡々と喋る霊夢に比べて、魔理沙はどこか浮かない顔だ。この神殺しとゆう力に、何か嫌なモノでもあるのだろうか。
咲夜はそんな思案をしていると、神奈子が話出した。
「そう。それを知っていたから、私はお前たちをここに呼び出したんだ。お前たちならもしかしたら、諏訪子を止めてくれるんじゃないかってな」
「なるほどな。まあ確かに、今この幻想郷に神殺しができるやつなんて、そうそういないからな」
魔理沙の言う通り神殺しはそうそういない。そもそも神殺しとゆう力そのものが、今となってはいらない力でもある。昔と違い神が少なくなってきて、なおかつ反感を起こすモノもなくなったので、神殺しの需要がなくなったのだ。だからこそ必要に力を習得することがなくなり、風化していった。
今幻想郷にいる神殺しの力を持つものは、霊夢、魔理沙の他に、パチュリーなんかもその力がある。
「引き受けてくれるか?」
神奈子の真剣な眼差しに、三人の顔が曇る。正直なところ今回の山はやばすぎだ。四人でやるには荷が重すぎる、そう霊夢以外は考えていた。しかし。
「いいわよ」
霊夢が二言返事で応じてしまった。
「おい霊夢!」
取り乱した魔理沙が霊夢の肩を掴む。霊夢は魔理沙に向き直り。
「ちょっと、会ってみたくなってね。聖白蓮、その意思に」
楽しそうな顔で微笑んだ。魔理沙は呆気に取られていたがやがて大きな溜め息を吐き、神奈子に向き直る。
「私も引き受けた。こいつ一人にやらせるわけにはいかねぇからな」
二人の様子を見て、神奈子はクスリと笑う。
「仲いいなお前ら」
「まあ、それなりの関係なんでね。それに、今に始まったことじゃないしな」
もやは諦めている魔理沙に、咲夜がクスクス笑う。
「なんだよ? 咲夜まで」
「いいえ? 魔理沙も苦労人ね」
「これが何年も続くと慣れてくるぜ」
「ちょっと! 私が毎回無茶してるみたいじゃない」
やれやれと首を振る魔理沙に霊夢が物申したが、魔理沙は違うのか? と言った顔で見つめる。それにムスッとした顔をする霊夢。
「私も引き受けましょう」
二人の様子を見ていた咲夜も、神奈子に向き直り頷いた。
「咲夜さんが受けるならば、私も引き受けます」
こうなれば、咲夜の右腕になった妖夢も必然とついてくる。結局四人は、この案件を受けることにした。
神奈子は泣くのを我慢するかのように顔を歪めるが、けして涙を見せることはなかった。よりいっそう真剣な面持ちで、頭を下げた。
「恩に着る。どうか、早苗と諏訪子を頼む」
―――神奈子は、諏訪子を殺したくはないのかもね」
霊夢の言葉に魔理沙は頷く。しかし現状はなんとも言えない状況であることは間違いない。諏訪子の実力もわからないし、捕らえられるかもわからない。まずは情報を収集するのが先だ。
「……で? どうする? 報酬は皆平等だから、誰が諏訪子の相手をしても変わらないが」
神奈子は報酬に叶えられる範囲の願いを提示してくれた。案件を一つ解決したごとに半分の人数分報酬を払う。そうゆう条件付きだが全て解決してから報酬を貰うよりは、ありがたいシステムと言えるだろう。
「私は星蓮船に行く」
霊夢は率直に自分の意見を言った。もしかしたら霊夢は聖白蓮に何かを感じているのかもしれない。彼女の意志が、どんなものなのかを知りたいのだろう。
「なら、私は霊夢についていくわ」
次に意見を言ったのは咲夜だった。
「そうなると地霊殿に行くのは私と妖夢か」
「そうなりますね」
消去法によりそうなるが、戦力的には申し分ない別れ方はしていた。それに星蓮船に潜入するとなると、直球バカの霊夢をコントロールする頭の回転が早い人が必要になる。その点咲夜は適材ではある。
「まあ任せてちょうだい。それに、潜入してるスパイを知ってる気がするし」
「そう言えば名前、なんてったっけ?」
先程聞いたばかりだとゆうのにもう忘れた霊夢に、三人は苦笑する。代表して、咲夜が答えた。
「村紗水蜜よ」
星蓮船内部、水蜜の部屋。
「あと一日。あと一日あれば、早苗を助けてやれる」
それに、これを必ず持ち帰らなきゃいけない。
自身のデスクの鍵を開け、透明なファイルに入った資料を手に取る。
書かれているモノはある計画の内容、そして左上には、幻想郷解放計画と書かれていた。




