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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
星蓮船
17/41

依頼

 水無月の中頃。霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢の四人は、仲良く石畳の階段が続く山を登っていた。あいにくの雨に番傘をさす四人は、いつまでも終わらない階段にげんなりしている。


「ねぇ……頂上まだ?」


 もう何度言ったかわからない台詞を霊夢が言った。それに答えるように三人はそれぞれ首を横に振る。


「……長い」


 上を見上げるとあとまだ百段以上ある。


 妖怪の山。なぜ四人がこんなところに来ているかとゆうと、レミリアを仲介にしてある依頼を頼みたい人がいる、といゆうことを聞いたからなのだ。


 話によるとレミリアの昔馴染みで、妖怪の山の頂上にある守矢神社に居座っているとゆうのだ。


 依頼内容は聞かされていない。なんでも本人から直々に話たいから来てほしい、とそれだけしか言われなかったらしいのだ。


 霊夢も魔理沙も貯蓄が危なくなってきたのもあり、おいしい話ならと依頼を受けることにした。咲夜と妖夢は、レミリアの鶴の一声のせいで行くことになったのだ。


「………ついた」


 げんなりする霊夢に、三人は深く同意した。頂上についた四人は社を見上げる。博麗神社より新しく、なおかつ雅な印象をもつ社だった。


「ここにいんのかな?」


「さぁ?」


 魔理沙の問いに霊夢は首を傾げる。他の二人もわからないと言った風に首を横に振る。


「よく来たな諸君」


 どこからともなく声が聞こえて、四人は辺りを見渡す。


「社の裏に家があるから入ってきてくれ」


 顔を見合わせた四人は、おそるおそる社の裏側に回り、一軒家の玄関の前に来た。


「入っていいのかな?」


「いんじゃない? 入れって言ってるんだから」


 魔理沙が玄関を指差して質問すると、咲夜は少し迷いながらも入ることを提案する。魔理沙はあとの二人も見るが、二人とも肯定している。


「じゃあ入る―――」


「よく来たなお前ら!」


 魔理沙が戸に手をかけようとした瞬間に玄関が開け放たれた。


「…………」


 突然の出来事に唖然とする四人。出てきたのは、紺色の短い髪がオバチャンパーマみたいになっていて、ワンピースのような服を来たお姉さん? オバチャン? だった。


「色々話したいことがあるから、さっさと中に入ってこい」


 そう言って踵を返して家の中に戻っていく女性に、唖然となりながらも四人はついていった。


 居間に通された四人は、丁寧に列べられた四つの座布団に腰を据える。


 四人の向かいには先程の女性が座布団に腰を据える。


「さて、お前らがレミリアの言っていた賞金稼ぎか?」


「まあな」


「あなたと霊夢だけですよ」


 魔理沙の全面肯定に咲夜と妖夢は否定をする。実際賞金稼ぎを生業としているのは、この場には霊夢と魔理沙の二人だけだ。


「まあでも、お前らもそうとうできるんだろ?」


 女性の問いかけに、咲夜と妖夢は肯定も否定もしなかった。しかしその行為だけで、女性には二人がしかと手練れであることがわかる。


「……いいねぇ。頼もしい」


「そんなことより、あんたが何者なのか名のって欲しいんだけど?」


 クライアントに対する態度ではない、上から目線でふんぞり返る霊夢。それを受けて、女性は思い出したように自分のことを話した。


「そうだったそうだったな。まずは自己紹介といこう。私は八坂神奈子。この神社の神主兼、企業、幻想郷支部を担当する支部長だ」


「……レミリアの回しもんだから企業絡みだと思ってたけど……まさか幻想郷の統括だとはね」


 霊夢の素直な驚きは、他三人にも見られた。なんせ相手は、幻想郷での最高責任者なのだから。


「もっと敬ってもいんだぞ?」


「冗談。けれど、これは色々と期待できそうね」


 もはや目が金になった霊夢に、魔理沙含め咲夜も呆れて溜め息を吐いた。


「話には聞いていましたけど、酷いですね、これ」


 妖夢にこれ呼ばわりされた霊夢だが、まあ仕方ないだろう。なんせ今の顔はとても締まりがないのだから。


「それで? 支部長さんが私たちには何の用なんでしょう?」


 締まりのない霊夢の代わりに、咲夜が進行を取る。


「うむ。だいぶ込み入った話でな、正直なところではお前たちに頼むのは気が重いのだが……あいにく今は企業の助力を受けることができないのでな、幻想郷で二度も大きな異変を解決している、お前たち頼むしかないのだ」


「回りくどい言い方ね。結局のところ、私たちにどうしろとゆうの?」


「……星蓮船に捕らえられた東風谷早苗の救出。そして、洩矢諏訪子の捕縛、および討伐を命ずる」


 星蓮船とゆう単語に、咲夜、魔理沙、妖夢の三人は反応する。霊夢は頭に?マークを浮かべた。


「星蓮船とは、反企業組織であるテロ集団よね?」


「そうだ」


 咲夜の問いかけに神奈子は躊躇なく肯定する。魔理沙と妖夢の戸惑いの中、霊夢だけが説明をゆうする目で咲夜をジッと見る。


「霊夢……新聞くらい読みなさい」


「文屋がウザすぎて買ってないのよ」


 まあ、それはわかる。


 霊夢の言うことは正しい。げんに咲夜もあいつは苦手である。


「企業の方針や思想に反対を促す組織があるの。まあ昔からその手の組織は多々あったんだけど、その殆どが穏健派。武力行使なんかでの反対運動をしなかったのよ」


「ほうほう」


「だけど中に一つ、ある時期にその武力行使を使って反対運動をする過激派が現れた。それが星蓮船よ―――



 星蓮船は六年位前にテロを起こしている集団で、首謀者である聖白蓮は能力者至上主義だったの。しかし企業はその逆……とまでは言わないけど、能力を批判的に扱う組織でもあるのよ。だけど能力者を取り締まるには能力をもって制圧するしかなかった企業は、しかたなく能力を取り入れたの。


 聖白蓮はそれに対しては何とも思ってはいなかったけど、企業の姿勢が許せなかった。まあ汚ない話、企業の中には能力者を道具として扱って、人権すら否定する家畜のように接するやからもいるわ。だからこそ聖白蓮は意義を唱え、暴動を起こした。


 旗から見れば聖白蓮は正義の味方として、能力者の悪を成敗するように感じれるけど、世の中の大半の人間が能力を持たない一般市民。この幻想郷は比較的能力者が多いいけど、外の世界には能力者の人工は二割を切っていたわ。そして企業は、一般市民から絶大的な信頼を勝ち取っている。なんせ、犯罪を犯した能力者を取り締まれるのは企業だけなんだから。一般市民的には、ああ企業がいるから大丈夫、てゆう感覚になるのよ。


 今回もそれだった。聖白蓮は世間から批判を受け、暴動は苛烈を極め、最終的には捕らえられてしまった。その時捕まったのは聖白蓮ただ一人。他の団員や幹部のやつらは誰一人として捕まえることはできなかった。だけで聖白蓮のいない星蓮船は、事実上の壊滅になった。



 ―――とゆうのが、六年前に起こった星蓮船の事件よ。だけど最近になって、一度壊滅したはずの星蓮船が復活したとゆう話が取り上げられたの、昔捕らえ損ねた幹部たちが再結成をはかったってね」


「なるほどね。概ねの事情はわかったわ」


 今までの話を霊夢は思うところがあったのだろうか、すこし表情に憂いが混じっていた。


 なんだかんだいいつつも、霊夢も魔理沙も、もちろん咲夜や妖夢だって能力者だ。そんな自分達のために意義を唱えてくれた聖のことを、悪くは思えない。しかしそんな私情を混ぜるほど、この四人は甘い奴等ではない。ちゃんとそこはわきまえている。


「まあ、それで星蓮船は本当に復活したのか確かめるために、私の右腕である早苗と、もう一人を潜入に向かわせたんだ。だがどうゆう訳か潜入がバレてしまい、早苗は捕らえられた」


 苦虫を噛んだみたいに顔を歪める神奈子。責任を負う立場の人間として、部下がみすみす捕らえられたのが、悔しくあるんだろう。しかも口振りからすると、理由が明確ではないようだ。恐らく罠かなにかにかかったのだろう。


「そのもう一人はまだ星蓮船にいるのか?」


 魔理沙の問いに神奈子は頷く。内通者がいるぶん、潜入はそこまで難しくはないだろう。


「じゃあそいつに連絡して……」


「ダメだ」


 そこまで言いかけた魔理沙を、神奈子は制する。


「はぁ? どうゆうことだよ」


「いまは早苗の潜入がバレたためにむやみやたらにこちらから連絡がとれない。あっちからの連絡を待つしかない」


「もどかしいな」


 魔理沙の言いたいことはわかるが、かといって相手の言っていることもわかる。


「この話は時期がわからない。だから独自で星蓮船の場所を特定するしかないんだ」


「……もう一つの依頼は、穏やかではないですよね?」


 妖夢があと一つの依頼の内容を問う。神奈子は、そうだったな、と言ってもう一つのことを話し出した。


「……地霊殿を知っているか? そこに行って、諏訪子を捕らえてほしい」


「あ~、一ついいか?」


 魔理沙が手をあげて質問する。


「諏訪子って誰なんだ?」


 誰しもが疑問に思っていたことだ、皆の注目が神奈子に集まる。


「諏訪子は……神様だ」






 場所変わり、星蓮船の組織内のある牢屋。そこに、傷だらけになっている女性が捕らえられていた。緑の髪は長く毛先に癖があり、白のブラウスは左の肩口が裂けていて、タイトの黒ズボンはところどころ血がどす黒くこびりついている。それはブラウスの方も変わらず、血が凝固しどす黒くなっていた。


 意識はあるようだがもはや虫の息。なんとか気力を持っているといったところか、体にも力が入りにくいのか、先程から牢屋の奥の壁に凭れかかっている。


「よ~早苗~」


 早苗と呼ばれた女性は、顔だけを声のした牢屋の入り口に向ける。誰かが来ているみたいだが、霞む視界のせいで顔つきが少しぼやけているようだ。しかし、この声には早苗は聞き覚えがあった。


「……なんのようだよ。村紗屋」


「……いいや。様子を見に来ただけだよ」


 牢屋の前に来たのは、紺色のセミロングの髪に、水兵の服を着た女性だった。

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