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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
妖々夢
14/41

黒染の桜

「これは……どうゆうことかな?」


 魔理沙は辺りを見渡して冷や汗を一筋垂らす。周りには屍兵とでも言える骸骨の軍勢が、甲冑を着て手には刀や槍を持ってジリジリと迫ってきている。


「お前は死にたいんじゃないのか?」


 そう、西行寺幽々子は死にたがっていた。それがなぜこんな言葉とは裏腹なことをしているのか? 幽々子は含み笑いをする。


「そうね。死にたいと言った」


 両手で顔を覆って、笑いを堪えている幽々子。


「本気で思ってるわけないだろうがバ~カ!!」


 覆っていた手を払って罵声を浴びせる。


 驚いた。幽々子の発言にもそうだが、何より驚いたのが幽々子の性格だった。


「とても良いとこのお嬢様とは思えない言葉使いだな。いったいどんな教育を受ければこんなに育つんだ?」


 皮肉のつもりで言った。しかし幽々子はそれは意に介さなかった。むしろ純粋にそのことについて答えてくれた。


「そうだな。何百年も同じ場所で突っ立ってたらこうなるんじゃないか?」


「何百年って。いったいどんな状況だよ」


 ボソリと呟いたその言葉に、魔理沙自身が何か引っ掛かるものを感じた。だが考えることは許されない。一瞬でも気を抜けばこいつらに殺されてしまう。


「さて魔法使い。お前には幽々子の力は効かないみたいだから、別の方法をとらせてもらうぞ」


 幽々子が手を地面に翳すと、先程同様地面から屍兵たちがまるでゾンビのように出現する。


「死魂再花(しこんさいか)」


 死を操るとゆうことは、魂を操ることと同意である。つまり幽々子は、冥界に召された魂を引き戻し形を与え、魂を操作しているのだ。死体に定着させれば神経が死んでいるので痛覚や疲労感はなく、ただ動く生きた死体ができあがる。


「命を弄(もてあそ)びやがって。てめーろくな死に方しねぇぞ」


 純粋な怒りを覚えた魔理沙は幽々子を睨む。だが幽々子はニヤリと笑うだけだった。


「貴様ら魔法使いにだけは言われたくないな。禁忌を犯した犯罪者が」


 禁忌か。


「そうだな。確かに人体錬成はご法度だ。だからこそ持っていかれたし、辛い目にもあってきた。だけど私はこの罪を受け入れている。だからこそ、魔法使いでいるんだ」


 強い意思だった。面白くなかったのか、幽々子は冷めた目で魔理沙を見て屍兵たちに指示を出す。


「なら犯罪者として死ぬんだな」


 屍兵たちが一斉に襲いかかる。しかし魔理沙は微動だにしなかった。


「スターダストレバリエ!」


 箒で回転切りを一回する。描いた起動から七色に輝く星屑が散らばり、屍兵たちを一人残らず殲滅させた。


「倒したところで無駄だぞ。屍たちはいくらでも復活できる」


 するとまた屍兵たちが地面から出現する。すると出現した瞬間黒い槍が地面から現れ屍たちを一匹残らず串刺しにした。


「なっ!?」


「私は電気の魔法を得意としてるんだ」


「まさか。さて―――」


 全て言い終えるその瞬間黒い槍が数本幽々子を貫く。


「そう。砂鉄だ」


 殺しは本当は嫌だったんだが、まあよしとするか。


 串刺しになっている幽々子を見ると、少しばかり違和感を覚えた。何かが足りない、そんな感覚。魔理沙は中深く幽々子を観察する。


「………血が出てない」


 気づいた時の衝撃は計り知れないだろう。人間にあるべき血液が存在していないのだから。


「どうゆうことだ?」


 人間なんだ、血が出てないことはありえない。じゃあ幽々子は人間じゃないのか? 考えられるのはこの幽々子は生命体でなく精神体で、攻撃していることさえ意味がない場合。あとはキメラやホムンクルスの類いになるけど、この二つは色は違えどちゃんと血液の概念が存在する。じゃあなんだ? 本当に幽々子は生きているのか?


 疑念が次々に溢れてくる。すると幽々子の体がピクリと動いた。


「あ~痛いわ~。まったく何してくれてんのよあんた。お陰で服がボロボロじゃないか」


 砂鉄を無理矢理へし折り槍の中から脱出する幽々子。傷が広がり痛々しく見えるが、やはり血は流れていなかった。寧ろ肉体が粘土のようで傷口はグチャグチャだった。それを見た瞬間、魔理沙の脳裏にある術が浮かんだ。


「……ゴーレム」


 幽々子はそれを聞いて関心したような顔をする。


「詳しいじゃないか魔法使い。そう、私はこの西行妖の力で作られた粘土人形(ゴーレム)だよ」


「……そうゆうことか。やっと納得がいったよ。つまりお前を形成するときに、媒体としてこの木を使って、幽々子の肉体の一部は使ってないんだな?」


「そうなるな」


「つまりお前は西行寺幽々子のゴーレムじゃない。西行妖の意思を持ったゴーレムなんだ」


 幽々子はニヤリと笑うと目をギラギラ輝かせた。


「正解だ! 凄いな魔法使い! ちゃんと勉強してるじゃないか!」


 正解と言われたが疑問は残る。


「じゃあなんで……お前は西行寺幽々子の力が使えるんだ?」


 ゴーレムとゆうのは、媒体に使った素材しか使うことができない。ならば使える力は木を使ったものに限られるはず。


「西行妖(わたし)と西行寺幽々子は同一個体なんだよ。今は枯れてる西行妖(わたし)だが、それは西行寺幽々子が死んだからでもある」


「ようするに、木と人間がリンクしてるってことか」


「簡単に言ってしまえばな」


 だから力を使えるのか。しかしこれは厄介になってきたな。ゴーレムは不死身だ、いくら殺しても生き返る。だがだからと言って焦る問題じゃない。相手の能力は私には効かないんだから、じっくり考えていこう。


「お喋りはここまでだ。さあ続きといこうか!」


 幽々子が手で合図をだすと、魔理沙の足元から桜の木の根っ子が飛び出し襲いかかる。魔理沙は根が飛び出すと同時に上に飛び、箒に跨り木の回りを飛び回る。


 ゴーレムの対処法。一説にはemeth、真理と書かれた札のeを切り落とし、meth、死んだにすればいいと言われているが。恐らく今回はそんな方法は使われてはいないだろう。


「常夜桜!」


 鮮やかな薄桃色の桜の花びらの集合体が、まるで生き物のように四方八方から魔理沙に迫る。


「くっ!」


 速度の速い花びらたちを紙一重で躱していく。かするたびに服に切れ目が入り切り傷が増えていく。


 だとしたらあいつにとってemethはなんだ? 媒体はあの桜の木。それだけですでに普通のゴーレムとしては特種過ぎる。考えろ。何かしら方法はあるはずだ。


「躱すな。ならこれでどうだ。反魂蝶!」


 桜の花びらに加え、蝶の形を模した霊力弾と鮮やかな青や赤、緑や黄といったレーザーが放たれる。


「オーレリーズソーラーシステム!」


 魔理沙の回りに赤、青、黄、緑の魔力水晶が出現し、それらがレーザーを放ち迎撃する。しかし全てを迎撃できる訳ではなく、漏れた攻撃はなんとか躱す。


 媒体は西行妖。素材は木。なら奴を動かすエネルギー源はいったい?


 そこまで考えて、あるものが頭に浮かんだ。


「桜の花びら」


 桜、春、春? …………そうか、わかったぞ。


「ノンディクショナルレーザー」


 水晶が倍の数になり、レーザーが様々な方向に向かって放たれる、水晶が魔理沙を中心に不規則に回りを回転する。


「なっ!」


 反魂蝶の力が散らされ、レーザーの一つが西行妖に当たる。


「ぐっ! うぁぁぁっ!!」


 急に激痛でも走ったかのように体が強張る幽々子。それを見た魔理沙は、自分の考えが正しいことを確信する。


「そうだったんだな。春だったんだ」


「……なんの話だ」


 肩で息をする幽々子に、魔理沙は哀れみのような目で見る。


「ゴーレムを作るうえで源となるのはemethの札だ。だがお前の体から源となる魔力を感じとることができなかった。だから別のエネルギー源があると考えたんだ。その結果浮かんだのは。


 春の自然エネルギーだ」


 それを聞いて、幽々子の目が見開かれる。魔理沙は続けて推理する。


「春は四季のなかでもっとも生命力溢れる強い力を備えている。人一人の形を留めるには充分なエネルギーだ」


 そこで一呼吸置いて魔理沙はさらに続ける。


「だけどそれは間違いだった。


 お前は、春のエネルギーを受けて具現化した、西行妖そのものだったんだよ」


 魔理沙の言っていることが理解できないのか、幽々子は目を見開いたまま唖然と魔理沙を見ていた。魔理沙は地面に降り帽子を軽くあげて、幽々子をまっすぐに見る。


「最初はゴーレムだと思ったよ。近代では土以外の素材を使ってゴーレムを生成する理論が発見されたから、木を素材としたゴーレムも存在すると思っていたんだ。だけどそれだと可笑しいんだよ」


「……何が? 何が可笑しいんだよ?」


「……素材を木にするなら。お前を貫いた時木材の感触があってもよかったのに、お前は粘土のようだった」


「!!」


 決定的に違うと思ったのがそこだった。思い返すだけで違和感がある。


「だから思ったんだよ。こいつはゴーレムじゃなくて、何らかの方法で魂だけ形をなしたんじゃないかって。そして私は推測する。お前は、生命力を食らって生きているんじゃないか?」


「生命力?」


「お前は……春の生命エネルギーを食らってるんだよ!」

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