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東方幻想語  作者: みずたつ(滝皐)
妖々夢
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白銀の閃光

 博麗神社に向かうための参道。辺りを木々が覆う階段を下り、先程形だけお願いした内容を思いだし歩くそ笑む。


「こんな願い。きっと叶わないだろうな」


「いったいなんの願いかしら?」


 不意に後ろから声がかけられ、咄嗟の癖で刀を抜くように右手を腰にやって振り返る。だがそこには人の気配がない。


「やはり刀を使うみたいですね。もしや背中に仕込み刀でも入っているんですか?」


「誰だ?」


 少女は辺りを警戒するように目線だけを左右に動かす。すると先程まで誰もいなかったはずの目の前に人が現れる。


「なっ!?」


「こんにちは。お嬢さん」


 咄嗟に距離を開けて背中に右手を入れる。


「何者だ?」


「十六夜咲夜。ただのメイドよ」


「メイド?」


 確かになりこそはメイドその者であるが、漂う殺気と威圧感はもはやメイドの領域を越えている。少女にもそれはわかっていて、さながら殺人鬼を相手にしている気分だった。


「さあ。私は名乗ったのにあなたが名乗らないのはフェアじゃないわ」


 咲夜の催促に、少女は警戒心を持ちながら自分の名前を口にする。


「魂魄妖夢、ただの人間です」


「ただの人間が刀の類いを携帯しないわよ」


「これは護身用ですよ。やはり山中は妖怪が多いですからね。自分の身は自分で守らないと」


 間違ってはいなかった。しかし妖夢の言っていることは嘘だと思った。これは嘘に精通している咲夜だからこそ見抜けたことだろうが、妖夢の立ち姿は生半可な修行では身にできる類いではなかった。それほど優れたボディバランスをしていて、咲夜の見立てでは霊夢と同等かそれ以上だった。そんな人間が本当にただの人間な訳ではない。きっと他に理由があってそれを隠すために口から出任せを言っているのだろう。


「……そうですか。それならあなたのその、コートの右ポケットに入っているモノはなんですか?」


 一瞬だった。それを指摘した瞬間妖夢の右手は閃き、背中から刀を抜くと咲夜の目の前まで刀身が迫っていた。


「くっ!」


 時間を一秒ほど止めて、なんとかナイフを滑り込ませ刀身を回避する。


「!?」


 今のは確実にあたるタイミングだった。何が起きた?


 奇っ怪なできごとに妖夢は咲夜から距離を取る。刀を構え直し、咲夜の様子を観察する。


 何かをしたそぶりはなかった。だけど今の一瞬は早さではなく、まるで仮定をすっ飛ばしたかのようなスキップ感はあった。


「警戒しているみたいですね。ですが無駄ですよ。私の時を操る程度の能力にはあなた勝てません」


 わざわざ自分の能力を口にする。霊夢の時もそうだったが、それが咲夜の戦術だ。相手の動きを制限すること。


 時間が操れるとゆうことは、全ての行動が見切られる。普通の人はそう思うだろう。そこがこの戦術の重要な点だ。相手に“迂闊に飛び込んではいけない”そう思わせるのだ。咲夜自身、時間操作を戦闘中に織り込むことがそうそうない。とゆうかできない。時間を操るのは並々ならぬ集中力を使うし、戦闘中は相手にも集中しなければならないので、時間操作に集中を割くことができないのだ。だから戦闘中に止められる時間の秒数はせいぜいコンマ五秒~一秒までの間が限度。それ以上はほぼ不可能だろう。ただし。戦いを棄てて逃げるようなら、その限りではない。


 霊夢の時はうまくはいかなかったけど、この子はどうかしらね?


 咲夜は手に持ったナイフとは別に、いつでもナイフを取り出せるように待機する。


 妖夢も様子を見るように微動だにしなかった。均衡状態が続いた。


「―――っ」


 先に動いたのは妖夢だった。やはり時間操作のアドバンテージからなのか、妖夢の動きから先程のキレが見受けられない。


 これならいけるか。


 咲夜は斜め上からの切り下ろしを受け流し、ナイフで反撃しようとした。その時。


 先程の切り下ろしの起動から何か個体のような物が打つかってきた。


「ぐっ!」


 鈍器で殴られたような重さのある攻撃に咲夜はふらつく。妖夢はその一瞬を逃さず切り上げで追撃しようとするが、咲夜は大きく後退してそれを躱す。


 今のはいったい。


 改めて妖夢を見るが不信な点はまったくなく。もはやあの攻撃事態が幽霊が起こした幻にさえ思えてくる。


 躱せばくらうのか? だとしても正体を明かすためには防ぐしかないか。


 妖夢は飛び出し横薙ぎの水平切りを放ち、咲夜はそれをナイフで防ぐ。すると受け流したのと同じで脇腹に鈍器で殴られたような衝撃と痛みがくる。


「ぐっ!」


 骨が軋む音と風が耳を薙ぐ音が聞こえた。


 咲夜はまた大きく間合い開けて、脇腹を押さえて妖夢を見る。だがやはり可笑しな点はまったくない。


 何が起きてる。いったい彼女はなにをしてる? 明かさなければいけないが、取っ掛かりが掴めない。


 咲夜の経験則に基づく勘が“ヤバイ”と告げていた。このままでは、死なないまでも確実に重傷にはなるだろうと。


 それは嫌ね。だったらここは、引いて体制を直しますか。


「この秘密を知られたからには、生かして帰しませんよ。ここで死んでもらいます」


 妖夢はただならぬ殺気を放ち、咲夜はそれを見て苦笑する。


「……何が可笑しいんですか?」


「残念だけど、ここまでよ」


 それを聞いた瞬間妖夢は尋常ならぬ速度で咲夜との間合いをつめ、高速の突きを咲夜の胸に突き立てる。


 確かに貫通した。ように見えた。次の瞬間には、刀に刺さっていたのはトランプのジョーカーだった。


「……逃げられたか」


 妖夢は刀からジョーカーを抜き取り刀を背中しまい、ジョーカーをじっくりと見る。


「十六夜咲夜。厄介の人を逃がした気がする」


 ジョーカーを握り潰し、それをコートのポケットに突っ込む。妖夢はまた歩き出し、山道を抜けるため山を降りるのだった。


「…………いったわね」


 妖夢がいなくなった場所の、木の影から姿を表したのは咲夜だった。どうやら逃げたと見せかけて隠れていたようだ。


「色々と面倒なことになりそうね。早く終わらせた方がいいかも」


 咲夜は博麗神社に帰るために歩き始めたが、ふらついて木に凭れる。


「力を使ったせいか。たいして集中してなかったのに無理矢理使ったから。空間移動は反動が大きいわね」


 逃げるたんびにこれだけ疲労してたんじゃ、世話ないわね。


 咲夜は頭を左右に振ってまた歩き出す。






「帰ってきたと思ったら……とんでもない話になってきたみたいね」


 霊夢は頬杖をついて、咲夜が先程おこった話を聞いた。


 なんでも、妖夢がコートのポケットに入れていたのは、コイン程度の大きさの桜の花弁の硬貨だった。あれがどういったモノかはわからなかったが、強い霊力を感じたので気になって後をつけたのだそうだ。


「しかしよくわかったわね。そんな花弁を持ってたの」


 霊夢の問に魔理沙も、そうだな、と頷く。


「あの子が参拝をした後に、右手のところで何かが光っていたのよ。それで」


「後をつけたと」


「そうよ」


「霊夢」


 今まで咲夜の話を静かに聞いていたレミリアが口を開いた。


「恐らくそれが春の正体よ。いったい何に使われてるのか知らないけど、これ以上放置はできないわ」


「……わかったわよ。すぐ行けばいいんでしょ」


 霊夢は重い腰をあげて、玄関へと向かう。


「行くわよ。魔理沙、咲夜」


 霊夢に呼ばれ二人は立ち上がる。


「報酬準備しとけよ。速攻で終わらせるからよ」


「では行って参ります、お嬢様」


 魔理沙はレミリアに指差し気さくに笑ってみせ、咲夜は礼儀正しくお辞儀をし、二人は霊夢の後に続いた。


 三人がいなくなった居間は心なしか広く感じ、物静かになった。レミリアは卓袱台に突っ伏すように寝ると、近くに放置していた蜜柑の革に置かれている最後の一房を見る。


「運命が動き始める。これが最初……そして最後へのカウントダウン。あなたは果たして、本当にこの流れを変えることができるの?


 ねぇ、霊夢」


 それだけ呟いて、レミリアは瞳を閉じる。

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